運命の赤と青
田所はまた選択をさせます
「これは?」
「どちらか一方は安らかにこの世界から消える事が出来ます。八神先生がお嫌いな痛みも苦しみも無く眠る様に行けます。前にお見せした僕が支配した議員先生の様に」
「…」
「もう一方は…上手くいけば八神先生は一度死んでまた新たに生まれ変われるかも知れません。此方は正に運を天に任せる…となるでしょう」
「生まれ変わる…」
どう言う意味だろうか…
どの道どちらを選んでも死ぬと言っている気する
「この先苦しくて辛いだけの純水の世界から離脱するか、生まれ変わって新しい水となるか。その場合は僕も八神先生を大切な友人として手助けしますよ…自分で決められないなら運を天に任せてみてはどうでしょうか?」
「そうですか…」
「どちらも選ばないと言う選択肢もありますよ。まあ、その場合は現状維持でしょうか。恐らく警察に捕まり迫害を受けて行動も、お姉さんから今度は警察や世間から監視され束縛、支配されて行くでしょう。八神先生の理想の世界の実現は難しいでしょうね」
そうさせたのは田所なのに…
「僕は正直もうどちらになっても良いと思っています…」
「そうですか」
「生きたいのか、死にたいのか…それすらも分からない状態です…」
「分かりました。それではこの薬は八神先生に託しておきましょう」
「…」
「決断を迫られた時…自分で選びたくなった時に使ってくれて構いません」
「分かりました…」
そう言って田所は僕に赤と青のカプセルを渡した
「今回は八神先生を頼って僕は父から解放されて救われたんですよ」
「…」
麻里奈ちゃんと共謀して僕を貶めた事が田所を救う事になった意味はよく分からなかったが、何故か僕は感謝されていた
「忘れないで下さいね。僕は八神先生を信頼して僕の苦悩も秘密も暴露して心を預けている…友人ですよ。八神先生も友人として僕を頼って下さいね」
田所と別れた後、僕は当てもなく彷徨うように歩いていた
恐らくあれから2〜3日は経っていたのだろうが、正確には覚えてなく時間の感覚が分からなくなっていた
途中疲れて座り込んでいた
僕はこの先どうしたいのだろう…
田所に頼って生き延びたいとも思えなかった
生きたいとも死にたいともまだ分かっていなかった
自分はこんなに優柔不断だったんだなぁとこんな状況になって新たな自分を知った
田所から受け取ったカプセルを取り出して眺めていた
青いカプセルの色はまるで…
僕の生まれてきた理由、経緯、形…
純水みたいだなあ…
そして赤いカプセルの色はまるで…
「警察だ!八神眞事、大人しく降伏しろ!」
そう怒鳴られながら声をかけられた
僕は暴れたり抵抗したりしてないのに…
まあ、大人しく出頭せずにフラフラ彷徨ってたのは悪い事してるなあとは多少思ってはいたけど…
逃げ通す気は無かったし、ちょっと色々考えたかっただけなのに
だから怒鳴られて理不尽だなと思っていた
『私の事を一生忘れられないわ…』
御月の声が聞こえた気がした
『愛してるわ…マコト…永遠に…私の最後の姿もちゃんと記憶するのよ…』
御月の最後の言葉を思い出していた
その言葉の後、僕は御月の血の雨を浴びていた
まるでこのカプセルの色のような赤い色の…
『服は無いの?』
『暑いし、裸でいいんだよ』
初めて秘密基地で精通した時の事を思い出していた
そう言って僕の手を引いてベッドの上に連れて行かれたあの時の様に…
僕は赤いカプセルを手に取っていた
まるで御月が僕の手を取ってベッドに引き寄せられたように
メスを握らせて首を掻き切らせるように…
その血の色の様なカプセルを飲み込んだ
警察に捕らえられる寸前で八神眞事は所持していた薬物で服毒自殺を図った
心肺停止となり、死亡と判断されて検死の後遺族の元へ引き渡された
その後ひっそりと家族で葬儀が執り行われた
○○○○○○○○○○
「目が覚めました?」
「う…ん…」
どうなってるんだろう…
長い間眠っていた様な感覚はあるが…
これは死後の世界なんだろうか?
ここは…
病室?
病院のベッドに僕は寝ていた
「どうやら生きる方を選んだようですね」
そう田所が言った
「これは…どう言う事でしょう?」
「八神眞事は一度死んで新たに生まれ変わったんですよ」
生まれ変わった…
やっぱりこれは死後の世界なんだろうか?
輪廻でもしてまた新たに赤ちゃんから始まって…は無かった
自分の手を見てみると何も変わっていないようだし、おぎゃーとも泣かずに普通に会話をしている
姿も頭の中もどうやら今まで通りに同じようだ
「八神先生が飲んだ薬は赤いカプセルだったようですね」
「はい…」
「八神先生は純水の世界を選ばなかったんですよ」
これは夢オチ…?
では無さそうです




