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純水  作者: 水嶋


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挫折と絶望

僕は混乱して焦っていた


混乱して焦ってはいたが冷静だった



今自宅に帰るのは危険だろう

とりあえず人気の無い夜の公園に身を潜めていた




その内僕に容疑と捜査の手が迫ってくるだろう


恐らく家にも警察が家宅捜査にやって来るだろう


自室のパソコンには今まで撮影して来た動画や画像が保存されている


可愛い子供達との営みを見ず知らずの他人に晒されるのは嫌だったが仕方ないだろう 


姉との様子の動画などは僕は持っていなかった

姉が死ぬ前に消去していた


そこには子供達しかいないのでもしかしたら冤罪を訴える事も出来るかも知れないが、全てが未成年だ


これは殺人とは別の犯行として訴えられる可能性が高い

いくら同意とは言え法律でそうなってしまう


そうなると、父に被害が及ぶ可能性もある

父の病院の地下を調べられるとマズい

戸籍の無い子供…ドライとツウとフォウの存在と父の実験…


病院も続けられなくなるかもしれない


そう思い、まず父に連絡をした


「実は…こう言う経緯で、僕は無実の罪を被せられています。近い内に家と病院にも捜査が入る可能性が高いです。何とか地下施設は上手く誤魔化して下さい」


「分かった」


父はそう言った


とりあえず妊娠中のドライは入院患者として病室に移し、ツウとフォウは近くのホテルへ落ち着くまで夫婦として住まわせ、地下施設は出産前の希望する家族が出産まで住み込むホテル代わりに提供している…と供述すると言っていた


やはり冷静で頭の回転と行動が早い人だなと感心した


父の実験室にあるモノ達はいざと言う時に見つからないように隠せる地下倉庫が有るらしくそこに色々資料などを入れておくらしい


そう言う所も用心深く準備してある辺り、やはり僕はまだまだ詰めが甘いなと反省した


「自室のパソコンには子供達との様子の動画や画像が有りますが、それはそのままにしていてくれて構いません」


「そうか、分かった」




父はその一言だけを言った





僕は恐らくもう病院で医者を続ける事は出来ないだろう


16歳未満の人と性行為をしていて、たとえ相手が同意していても「不同意性交罪」と記念の動画や画像は児童ポルノとして処罰されるだろう


その事は正直どうでも良かった



ただ…



心から信頼して身も心も曝け出して友人だと思っていた田所と、心から寄り添って治療をしていた麻里奈に裏切られた事にショックを受けていた


今まで僕が親身になって、身も心も捧げて治療と研究をして来た事は意味の無い、無駄な事だったのだろうか…



だから…もう子供達との思い出を他人に晒されようとどうでも良い…




段々とそんな考えに堕ちて行った


そんな風に自暴自棄になっていた





「八神先生、こんな所に居たらすぐ見つかってしまいますよ」





そう後ろから声をかけられて項垂れて俯いていた顔を上げてその言葉を放った人物に振り向いた





○○○○○○○○○○





「まあ、こんな所で立ち話も何なんで…」


そう言って連れてこられた場所は




『田所医院』




「まあ、とりあえず歓迎しますよ」


そう言って中に入った。





「よく僕の居場所が分かりましたね、田所先生」


「八神先生の携帯に知り合いに作って貰った追跡アプリを入れさせて貰っていました」


「そうですか…」



恐らくホテルで会っていた時か

それともそれ以前…


ゲイバーで出会ったのも偶然では無かったのかも知れない



「因みに携帯の電源は入れない方が良いですよ。警察にも居場所が知られてしまいますから」


「そうですか、ご忠告有難うございます。まあ、警察に追われる事態になったのは友人だと思って信頼していた人のせいですがね」


「ははは、申し訳有りません。でも僕達は友人ですよ?」


「そうですか…」


「まあ、八神先生を嵌める形になってしまった事は申し訳有りません。麻里奈ちゃんの希望も叶えてあげるとなると仕方なかったんですよ」


「希望ですか…」


「はい、麻里奈ちゃんは八神先生にレイプされ続けていて、解放されたいと思ってましたよ」


「そうなんですね…僕はお互い好き合ってると思ってましたからそんなつもりは全く無かったですが…悲しいお知らせですね…」


「まあ、他人同士が分り合うのは難しいですよ。特に女心は男には理解するのは難しいですね。僕も良く分かりません」


「そうですね…でも嫌ならそう言って欲しかったですね…それなら僕もセックスはしませんでしたよ」


「麻里奈ちゃんの場合は母親から強大な力で支配され続けていましたからね。自分の主張が出来なかったんでしょう」


「そうですね…その点は理解しています」


「今回は八神先生の協力のおかげで麻里奈ちゃんは母親から解放されて支配を遂行出来ましたよ」


「協力するつもりもした覚えも有りませんが…じゃあ、アレは麻里奈ちゃんがやったんですか?」


「そうですよ。まあやり方は教えてあげましたが人形にしたのも母親を犯したのも麻里奈ちゃんですよ。興奮して絶頂を迎えて失禁してましたが」


「そうだったんですか…あの麻里奈ちゃんが…やはり女の人は恐ろしいですね…」



「麻里奈ちゃんは自分の道を切り拓いて新たに人生を始めます」


「そうですね…」


「僕も先日父を漸く『支配』完了させました」


「そうですか…」


「八神先生はこの先どうしますか?」


「そうですね…今はもう何の気力も湧きません…」


「そうなんですか?」


「ええ…信頼していた人に裏切られ、親身になって治療していたつもりの思いが全く届いていなかった…」


「八神先生は今絶望していると」


「そうですね…正にその表現が1番当てはまる状況ですね」


「八神先生は今まで挫折を味わった事が無かったんでしょうね」


「言われてみれば確かに…医師になるまでこれと言った挫折はしてないですね」


「まあ、他人から見たら羨ましい人生かも知れませんが、やはり八神先生は純粋…純水なんですよ」


「そうですか…」


「人間は失敗や挫折から学ぶ事も多いですよ?」


「確かにそうかも知れません」


「八神先生はミネラルを含んだ旨味のある水に…人間味のある人になって行くんですよ」


「人間味…」



確かに僕は長年濾過されて来た過程で生まれて、本来みんなが普通に思う様な感情が削ぎ落とされてしまっている自覚は有った


御月が死んだ時にも何も感じず、愛が分からないのもそのせいかも知れない



「この先苦しい事が待ち受けているかも知れません。それでも立ち向かって人間らしい人として…人体に悪影響を及ぼす純水では無く人体に必要な水として生きていきたいですか?それともこのままこの世から消え去りたいですか?」


「僕は…正直痛い事や辛い事や苦しい事は苦手です」


「そうですか…でも、僕は友人として八神先生を手助けしたいと思っていますよ?」


「それは有難うございます…でも、今は自分でもどうしたら良いかよく分かりません…」




「それでしたら…これで八神先生の運命を決めてみましょう」






そう言って田所は赤いカプセルと青いカプセルを僕の前に取り出した


此方も田所のいつものやり口です…


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