表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

家族のしごと

作者: 金柑乃実

 人生の転機は10歳の時。孤児院育ちだったわたしたちは、とある家族に引き取られた。

 寡黙だけど静かな優しさを感じるお父さん。怪我をした時には優しく手当てをしてくれるお母さん。

 一緒に遊んでくれるお兄ちゃんたちに、いつもおもしろい実験をしているお姉ちゃんも。

 幸せだった。孤児院にいる時よりも、ずっと。

 だから、彼らの「仕事」を初めて見た時、心を奪われた。


「お邪魔します」

 そっと扉を開ける。中にいた屈強な男たちが、ぎょっとこちらを見る。

「おい、お嬢ちゃん。何か間違えてんじゃないか?」

「あれ?」

 扉の前を見る。確かにここが目的地のはずだ。

「間違ってはいないみたいです」

 そう答えて、スカートの下からナイフを取り出した。

「あなた方のお命、いただきます」

「は?」

 その瞬間、そのナイフはさっと空気を切った。

 一瞬遅れて、空気の隙間から真っ赤な血液が飛び出す。目の前の男が、首に手を当てて倒れこんだ。

「こいつ……!」

 近くで銃を取り出した男は、目に矢を受けて

「うわああぁぁ!」

 と倒れた。

「危ないよぉ、リゼル」

「ルミア」

 その矢を放ったのは、双子の妹。

「じゃ、さっさと片付けちゃお!」

 明るくおどけながら弓に矢をセットする妹に、

「うん、わかった」

 リゼルはナイフをかまえた。


「ただいまぁ」

 郊外に佇む小さな家。そこが、わたしたちの帰る場所。

「あらあら、今日も大変ね」

 まず笑顔を向けてくれるのは、お母さん。お夜食の準備をしていた手を止め、わたしの顔についた返り血を拭いてくれる。

「おかえり、リゼル、ルミア」

 そして、一番上のアレンお兄ちゃん。

「今日も頑張ったみたいだね。いい子にはあとでご褒美をあげないと」

「頑張ったよ!」

 ルミアは褒めてと言わんばかりにアピールする。そんな器用なことは、わたしにはできない。でも、ルミアがそうしてくれるから、わたしにも「ご褒美」がある。

「お父さん」

 そして、黙って座っていたお父さんに歩み寄る。

「これ、持ってきた」

「……あぁ」

 お父さんは静かにその麻袋を受け取り、中を確認した。殺した人の右耳なんて、見たくないはずなのに。

 顔色一つ変えず、お父さんは袋を閉じて

「よくやった」

 と低い声で告げる。この一言だけでも、わたしたちは充分満足。

 でも、それ以上がある。ルミアはそっちの方が嬉しそう。

 汚れた服を着替え、ベッドに入る。ルミアは隣で、目をランランと輝かせる。

「2人とも、今日は頑張ったね」

 ベッドのそばで、アランお兄ちゃんが頭を撫でてくれる。

「おやすみ」

 優しい声で紡がれるのは、優しい子守歌。これが、わたしたちの、何よりの「ご褒美」だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ