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第十五話:北の海路と蛇の貨物

なんとか見つけ出した商船に乗り込み、ヴァイスハルト領の港町を後にしてから、数日が経った。

私たちの船は、荒れ狂う北の海を、木の葉のように揺れながら進んでいる。肌を刺すような冷たい潮風と、絶え間なく叩きつける波飛沫。貴族の令嬢として育った私にとって、この船旅は、想像以上に過酷なものだった。


リリアは、船酔いに苦しむでもなく、ただ静かに、船室の隅に座っている。そのあまりの無反応さが、かえって私の心を締め付けた。時折、私が荷物の中からそっと取り出した木彫りの鳥を、彼女の膝の上に置いてみる。けれど、彼女がそれに気づく様子は、まるでない。


船旅が始まって五日目の夜。

私は、船倉の方から、微かに、しかし、ひどく不快な気配が漏れ出ていることに気づいた。それは、マナの流れを淀ませるような、陰湿な気配。先日、城を襲撃した刺客が放っていたものと、どこか似ている。


(まさか…)


私は、眠っているリリアの傍らを離れ、音を立てないように船室を抜け出した。軋む床板に注意しながら、階段を降りて、薄暗い船倉へと忍び込む。

黴と潮の匂いが混じった空気の中、私の目は、すぐにその一角を捉えた。

他の荷物とは明らかに違う、頑丈な木箱が、いくつも積み上げられている。そして、その全てに、あの忌まわしい『二つ頭の蛇』の紋章が、焼印で押されていた。


こんなところに、なぜ。

私は、護身用の短剣を使い、なんとか一つの木箱の蓋をこじ開けた。

中に詰められていたのは、緩衝材に守られた、黒い鉱石だった。

それは、まるで光を吸い込むかのように鈍く、手に取ると、ぞっとするほど冷たい。そして、私の体内で常に巡っているマナが、その鉱石に触れた途端、僅かに、その流れを阻害されるのを感じた。


これは、ただの石ではない。マナを打ち消す、あるいは、汚染する、何か。

そして、敵は、この危険な鉱石を、私と同じ、北の地へ運ぼうとしている。


私の旅は、ただリリアを救うためのものではなくなった。

この船が向かう先、極北の地で、敵が何かを企んでいるのは間違いない。私の個人的な願いと、世界の運命を揺るがしかねない巨大な陰謀が、今、同じ航路の上で、交差しようとしていた。


荒れ狂う北の海の暗闇の中、私は、たった一人、その恐ろしい事実に震えていた。

ご覧いただきありがとうございました。感想や評価、ブックマークで応援いただけますと幸いです。また、世界観を共有する作品もあるので、そちらもご覧いただけるとお楽しみいただけるかと存じます。HTMLリンクも貼ってあります。

次回は基本的に20時過ぎ、または不定期で公開予定です。

活動報告やX(旧Twitter)でも制作裏話等を更新しています。

作者マイページ:https://mypage.syosetu.com/1166591/

Xアカウント:@tukimatirefrain

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