第53話: 「幽霊退治と英雄のジレンマ」
「幽霊だって?なんかもう、毎度のことながら異世界には驚かされることばかりだよな。」
異世界チャンネルのプロデューサー、タケシは、今回「幽霊退治」をテーマに取材をすることになった。この異世界には時折、成仏しきれない魂がさまよい続けることがあり、そういった幽霊たちを退治する「幽霊退治専門家」たちが活躍しているのだ。タケシと妖精のアシスタント、ミリーは、その専門家である「グレイ」と名乗る男に同行することになった。
「タケシさん、幽霊って…怖くないですか?なんか、すごく不気味な感じがしますけど。」
ミリーは少し不安そうな表情を浮かべながら、羽をパタパタと動かしている。その無邪気な姿に、タケシは思わず苦笑いを浮かべた。
「いや、まあ確かに幽霊は怖いかもしれないけどさ。でもグレイさんが一緒なら、なんとかなるんじゃないか?だって専門家なんだから。」
グレイは、黒いマントをまとった中年の男性で、どこか物静かで落ち着いた雰囲気を持っていた。しかし、タケシたちが到着すると、彼はニコリと笑いながら出迎えてくれた。
「ようこそ、異世界チャンネルのお二人。私が幽霊退治専門家のグレイだ。今日はよろしく頼むよ。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。幽霊退治って具体的にはどうやるんですか?幽霊を見たことがないので、何をどうすればいいのか全然わからなくて…。」
タケシが興味津々に尋ねると、グレイは少し笑って答えた。
「そうだな、幽霊退治というのは単に幽霊を追い払うだけではない。彼らの未練を見つけ出し、それを解消して成仏させることが大事なんだ。だから、ただ物理的に攻撃するだけじゃ意味がない。まずは幽霊がなぜこの世に留まっているのかを探る必要があるんだよ。」
「なるほど…なんか、ただ怖いだけじゃなくて、人情というか、幽霊にも事情があるんですね。」
「その通りだ。幽霊が何かを訴えようとしているとき、それを無視してしまえば彼らはさらに憎しみを増してしまうからね。私たちの役目は、彼らが平和に成仏できるよう手助けすることなんだ。」
その後、タケシとミリーはグレイと共に、幽霊が出没するという古びた館へ向かった。館はもう何年も使われていないらしく、壁にはツタが絡まり、窓ガラスもところどころ割れている。まさに「幽霊が出そうな雰囲気満載」な場所だった。
「うわあ…これは確かに、幽霊が出るって言われても納得しちゃうな。」
「タケシさん、怖いですけど…でも、取材ですもんね。頑張りましょう!」
ミリーは勇気を出して笑顔を見せたが、その羽の動きは明らかに緊張を物語っていた。グレイは二人に向かって頷き、静かに館の扉を開いた。
「さあ、入るぞ。この館には、どうやら過去に住んでいた住人が強い未練を残しているらしい。その未練が何なのか、まずは探ることから始めよう。」
中に入ると、ひんやりとした空気が体を包んだ。古びた家具や埃の積もった調度品が並び、まるで時間が止まってしまったかのようだった。タケシは辺りを見渡しながら、妙な音がしないか耳を澄ませた。
「なんか…静かすぎて逆に怖いな。幽霊が出るっていうより、このまま誰かに背後からドンッてされそうな気がするぞ…。」
「タケシさん、そんなこと言わないでくださいよ…!余計に怖くなるじゃないですか!」
ミリーは少し泣きそうな顔でタケシを睨んだ。その時、不意に冷たい風が吹き抜け、どこからか女性のすすり泣く声が聞こえてきた。
「ひっ!今の、聞こえましたか?」
ミリーは驚きのあまり、タケシの肩にしがみついた。タケシも内心ビビりながらも、何とか冷静を装って頷いた。
「聞こえた…ああ、確かに聞こえたよ。グレイさん、これって幽霊の声ですか?」
グレイは落ち着いた様子で頷き、その声の方向へと歩みを進めた。
「そうだな。どうやら、この館の奥の部屋から聞こえてくるようだ。行ってみよう。」
三人はすすり泣く声を頼りに、館の奥へと進んでいった。扉を開けると、そこには薄暗い部屋が広がり、中央には古びた鏡台が置かれていた。その前に、ぼんやりとした人影が佇んでいた。
「…あれが幽霊か。」
タケシは声を潜めて言った。幽霊は白いドレスを纏った女性で、その顔は悲しみに満ちていた。彼女は鏡台に向かって何かを呟いているようだった。
「何か…探しているのかな?」
グレイは幽霊に近づき、静かに声をかけた。
「あなたは何を探しているのですか?何か未練があってこの世に留まっているのですか?」
幽霊はゆっくりと顔を上げ、グレイたちに気づいた。そして、涙ながらに話し始めた。
「私は…愛する人との約束を果たせなかったのです。この鏡台には、彼から贈られた指輪があったはずなのに、それが見つからない…。」
「なるほど、指輪が未練になっているのか。」
タケシは幽霊の言葉に耳を傾けながら、部屋の中を見渡した。ミリーも一緒に部屋を探し始め、埃にまみれた家具の間を飛び回った。
「タケシさん、ここに何かありますよ!これ、もしかして指輪じゃないですか?」
ミリーが見つけたのは、古びた引き出しの奥に隠れていた小さな箱だった。タケシがそれを開けてみると、中には美しい銀の指輪が入っていた。
「これだ!間違いない、これが幽霊さんの探してた指輪だよ!」
タケシは指輪を幽霊に差し出した。幽霊は驚いた表情を浮かべ、その指輪をそっと手に取った。
「これです…ありがとうございます。これで、彼との約束を果たすことができます。」
幽霊は微笑みながら、指輪を握りしめた。そして、その体は次第に薄れていき、最後には柔らかな光となって消えていった。
「よかった…これで成仏できたんですね。」
ミリーはほっとした様子で息をついた。グレイも満足そうに頷いた。
「これでこの館も静かになるだろう。幽霊というのは、ただ怖い存在ではなく、何かしらの思いを抱えているんだ。だからこそ、その思いを理解し、解消することが大切なんだよ。」
「確かに…。なんか、幽霊退治っていうより、幽霊のカウンセラーみたいな感じですね。」
タケシはそう言って笑った。ミリーも同意するように頷いた。
「そうですね!幽霊さんたちの心を癒してあげることが、グレイさんの本当の仕事なんですね。」
こうしてタケシとミリーの取材は終わりを迎えた。幽霊退治という名の「心の救済」に触れ、その深さと優しさに感銘を受けたタケシたちは、幽霊に対する見方を改めることができた。
「異世界チャンネルは、今日も元気に放送中だ!」
幽霊たちの未練を解消し、成仏させることで人々の平和を守る――その姿に胸を打たれながら、タケシとミリーの冒険はまだまだ続いていく。




