第116話: 「異世界のリアルタイム翻訳」
異世界の冒険者ギルドの入口でタケシとミリーが立ち止まっていた。今日のテーマは「リアルタイム翻訳」、つまり異世界での言語障壁をどう乗り越えているかを取材することだった。
◇◇◇
「タケシさん!今日の取材テーマはリアルタイム翻訳ですよ!」
ミリーが肩に乗って、元気よく発表する。タケシは少し眉を上げながら、ギルドの入口を見上げた。
「リアルタイム翻訳か。確かに、俺たちが異世界に来てからいろんな人と普通に会話してるけど、よく考えたら言葉の壁なんてあって当然だよな。」
「そうなんです。普通に話してると、言語の違いを忘れちゃいますよね。でも今日はその秘密を探りに行くんですよ!」
ミリーは羽をパタパタさせながら、楽しそうに言った。タケシはため息をつきつつ、ギルドのドアを押し開けた。
「さて、どうやってそんな秘密を聞き出すかだな。ギルドの連中、話しかけるときのテンションがいちいち高すぎるから、真面目な取材になるかどうか…」
ギルドの中に入ると、案の定、賑やかな冒険者たちが酒を飲み、笑い声が響いていた。タケシはカウンターの向こうにいる受付嬢を見つけ、彼女に向かって歩き出した。
「すみません、ちょっとお尋ねしたいことがあるんですが…」
受付嬢はにっこりと微笑んで、タケシを見た。
「こんにちは!今日はどんな依頼ですか?それとも、新しい冒険者登録ですか?」
タケシは慌てて手を振った。
「いやいや、依頼じゃなくて取材なんです。リアルタイム翻訳について知りたくて…。その、俺たちがこの異世界で普通に会話できてるのって、どういう仕組みなんですか?」
受付嬢は少し考える素振りを見せた後、微笑みながら答えた。
「それは『翻訳の精霊』のおかげですね。精霊たちが私たちの言葉をリアルタイムで翻訳してくれてるんです。あなたも気づいてないかもしれませんが、耳元で小さな精霊が働いているんですよ。」
「翻訳の精霊?!」
タケシは驚きながら耳を触った。
「そうですよ。精霊さんたちはとても勤勉で、私たちが言葉を交わすたびに瞬時に翻訳してくれるんです。実際には、あなたの耳元にちょっとした囁き声が聞こえているはずです。」
「うわ、本当だ!なんか耳元で小さな声が…これってずっと精霊が翻訳してくれてたのか。」
ミリーは大笑いしながら肩を叩いた。
「タケシさん、ずっと気づかなかったんですか?耳に小さな声が聞こえるのは普通じゃないですよ!」
「だって、普通に会話できてたから、あまり気にしてなかったんだよ…。でも精霊が翻訳してくれてたなんて、なんて便利な世界なんだ。」
タケシは感心しながら周囲を見渡した。そこには、様々な種族の冒険者たちが普通に会話をしている姿があった。人間、エルフ、ドワーフ、そして獣人まで、全員が言葉の壁を越えて楽しそうに交流している。
「なるほど、この世界ではみんなが言葉を理解し合えるのは精霊のおかげってわけか。でも、その精霊ってどうやって雇ってるんだ?彼らの給料とか、どうなってるんだろう?」
タケシの素朴な疑問に、受付嬢は笑いながら首を横に振った。
「精霊たちは給料なんて要りませんよ。彼らは自然と人々の助けになることが好きなんです。それに、精霊のエネルギー源は人々の感謝や楽しさなんです。つまり、私たちが楽しく会話するたびに、精霊たちも元気をもらっているんですよ。」
「な、なるほど…。なんかすごくエコだな、精霊たちって。感謝がエネルギー源なんて、俺も見習わないとな。」
ミリーは頷きながら、続けて質問した。
「でも、タケシさん、もしこの精霊たちがいなかったら、どうなるんでしょうか?やっぱり大混乱ですかね?」
受付嬢は少し真剣な表情を見せた。
「そうですね、精霊がいなければ、異なる種族同士のコミュニケーションは難しくなるでしょう。昔は、精霊が普及する前に、多くの誤解や争いがあったと聞いています。でも、今は精霊がいてくれるおかげで、みんなが理解し合えるようになったんです。」
タケシは腕を組みながら頷いた。
「なるほど、言葉が通じないことで争いが起きるなんて、現実の世界でもありそうな話だな。でも精霊がそれを解決してくれるなんて、この世界は本当に平和のために色々工夫されてるんだな。」
◇◇◇
その後、タケシとミリーは実際に「翻訳の精霊」を探しにギルド内を歩き回ることにした。小さな精霊が耳元で囁くというのは信じがたく、実際にその姿を見てみたいという好奇心が湧いたのだ。
「ミリー、お前は精霊見たことあるのか?」
タケシが聞くと、ミリーは首を傾げた。
「うーん、実は直接は見たことないんですよ。精霊はとても小さいし、普段は姿を隠しているんです。でも、感じることはできるんですよね。こう、何か暖かい感じのオーラが耳元に…」
「暖かい感じのオーラか…うーん、やっぱり見てみたいなぁ。」
その時、ギルドの片隅で、何やら怪しげな雰囲気の男性が怪しい装置を取り出していた。装置には何やら複雑な魔法陣が描かれており、タケシの興味を引いた。
「おいミリー、あれ見ろよ。あの装置、なんか面白そうだぞ。」
二人は男性に近づき、声をかけた。
「すみません、その装置は一体なんですか?」
男性は驚いて顔を上げ、ニヤリと笑った。
「おっと、これは『精霊可視化装置』だ。翻訳の精霊を実際に見たいっていう奇特な連中向けに作ったんだが、興味あるか?」
「精霊可視化装置?!それって本当に精霊が見えるのか?」
タケシは興奮して装置に近づき、男性に問いかけた。男性は頷きながら説明を始めた。
「そうさ。この装置を耳元に当てると、普段は見えない精霊の姿が見えるんだ。まあ、ちょっとした魔法技術ってやつだな。」
「ぜひ試してみたいです!」
タケシは装置を受け取り、ミリーと共に耳元に当ててみた。すると、そこには小さな光のような存在が、楽しそうに飛び回っているのが見えた。
「うわ、本当にいるじゃないか!小さいけど、一生懸命働いてるんだな。」
ミリーも感動したように目を輝かせた。
「かわいいですね!こんな小さな精霊さんたちが、私たちのために働いてくれてたなんて…感謝しなくちゃですね。」
タケシは感慨深げに頷いた。
「本当にそうだな。精霊たちがいなければ、俺たちもこの異世界でこうやって自由に取材なんてできなかっただろうしな。」
男性はニヤリと笑いながら装置を受け取った。
「そうだろう?精霊たちは俺たちにとって大切な存在だ。だからこそ、彼らに感謝の気持ちを忘れちゃいけないんだぜ。」
タケシとミリーは男性にお礼を言い、再びギルド内を歩き回りながら、精霊たちに思いを馳せた。
「翻訳の精霊って、本当にすごい存在だな。俺たちが異世界で楽しくやっていけるのも、全部彼らのおかげだ。」
「そうですね、タケシさん。これからも感謝の気持ちを忘れずに、もっと異世界の素晴らしさをみんなに伝えていきましょう!」
タケシとミリーは笑顔で頷き合い、次の取材へと向かった。異世界の言語の壁を越える精霊たちの力、その存在は確かに奇跡であり、平和の象徴でもあった。