第102話: 「異世界の大規模パレード」
異世界チャンネルが今回取材するのは、年に一度の「グランドパレード」。異世界最大規模の祭典として知られるこのパレードには、あらゆる種族や魔法生物が参加し、観光客たちもその華やかさに酔いしれる。タケシとミリーは、この大イベントを余すところなく伝えるべく、カメラ片手に異世界のにぎやかな街に降り立った。
◇◇◇
「タケシさん、見てください!あっちこっちに旗がはためいていますよ!もうお祭りムード全開ですね!」
ミリーは浮かれた様子で、空中を飛び回りながらカメラに映り込んでいる。タケシは、ミリーのテンションの高さに思わず笑いながら頷いた。
「そうだな、ミリー。まるで夢の中にいるみたいだ。こんな大規模なパレード、見たことないよ。俺たちが住んでた世界でも、こんなのがあったら最高だったのに。」
「タケシさん、確かに現代日本でもお祭りはありますけど、こんなに色とりどりのドラゴンやユニコーンがいるパレードはなかなかないですよね。」
「いや、いないどころか、ユニコーンが現れたら動物園がパニックだろうな。っていうか、ドラゴンって…空飛んでるあの緑色のやつか?」
タケシが指差した先には、巨大な緑色のドラゴンが、装飾された羽根をはためかせながら空を旋回していた。その背中には、色鮮やかな衣装を着たダンサーたちが乗り、曲芸を披露していた。
「おおっ、あれは『シエルドラゴン舞踏団』ですね!今年のメインイベントの一つですよ!」
ミリーが目を輝かせて解説するのを聞きながら、タケシはカメラをぐるっと回して、その様子を撮影していた。
「すごいなあ…俺、正直、異世界に来るまではこんな光景を見るなんて思ってなかったよ。まるで映画かゲームの中に入り込んだみたいだ。」
◇◇◇
パレードの道は、人々で埋め尽くされていた。露店が軒を連ね、食べ物の良い匂いが漂い、人々の笑い声や音楽が街中に響き渡っていた。子供たちはカラフルな風船を持ち、大人たちはそれぞれのお気に入りのパレード隊に声援を送っている。
「タケシさん、あそこに何か面白そうな露店がありますよ!見に行きましょう!」
ミリーが指差した先には、「魔法のポップコーン」と書かれた露店があった。大鍋でポップコーンが跳ねており、色とりどりの光がまるで花火のように弾けている。
「なんだこれは…ポップコーンが虹色に光ってるじゃないか。しかも、空中でくるくる回ってる!」
タケシは目を丸くしながら、カメラでその様子を撮影し始めた。店主はひげ面のドワーフで、楽しそうにポップコーンを混ぜながら声をかけてきた。
「おお、そこのお兄さん!魔法のポップコーンはいかがかね?味も気分で変えられるぞ!チョコレート味からスパイシーな炎味まで、何でも揃ってるぜ!」
「スパイシーな炎味って…それ、辛いってことか?」
タケシは笑いながら尋ねると、店主はニヤリと笑った。
「まあ、そうだな!でも食べ過ぎると本当に口から炎が出るかもしれないぞ?さあ、お試しあれ!」
「いやいや、それはちょっと遠慮しておくよ…でも、面白そうだから普通のチョコレート味をもらおうかな。」
タケシはチョコレート味のポップコーンを手に取り、一口食べてみた。
「…うまい!甘くて、ちょっと不思議な後味がするな。ミリー、食べてみるか?」
ミリーは興味津々でポップコーンをつまんで口に運び、目を輝かせた。
「うわあ、これ、本当に美味しいです!しかもなんだか気分が楽しくなってきますね!さすがは魔法のポップコーンです!」
◇◇◇
パレードはさらににぎやかさを増していった。次に登場したのは、「ゴブリンブラスバンド」。小柄なゴブリンたちが金管楽器を持ち、大きな音を鳴らしながら陽気なメロディーを奏でている。その演奏に合わせて観客たちも踊りだし、まさにお祭り騒ぎの真っ最中だ。
「ゴブリンたちもこんなに陽気な一面があるんだな…普段は森でイタズラしてばかりだって聞いてたけど。」
タケシは驚きの表情を浮かべながらカメラを回していた。ミリーもその光景に笑いをこらえきれず、手を叩いて喜んでいる。
「タケシさん、ゴブリンたちって確かにちょっとイタズラ好きですけど、こうして見ると愛嬌たっぷりですね!」
「そうだな、でも…うわっ!あいつら俺の方にラッパ向けてるぞ!?」
タケシが驚いて振り返ると、ゴブリンたちがにやりと笑いながら大きなラッパを吹き鳴らした。その爆音にタケシは思わず尻もちをついてしまった。
「おいおい、勘弁してくれよ…耳がキンキンする!」
「タケシさん、大丈夫ですか?ゴブリンたちもタケシさんに楽しんでもらいたかったんですよ、きっと!」
ミリーが楽しそうに笑いながら手を差し伸べると、タケシは苦笑いを浮かべながらその手を取った。
「まったく…これだから異世界は油断ならないよな。でもまあ、楽しいからいいけどさ。」
◇◇◇
パレードのクライマックスには、「王宮の祝賀騎士団」が登場した。彼らは黄金の鎧を身にまとい、王家の象徴である巨大な旗を掲げながら行進していた。騎士たちの整然とした動きと、その後ろをついてくる真紅の馬車が観衆の目を引いていた。
「うわあ…なんて壮大なんだ。王宮の騎士団まで参加してるなんて、このパレード、本当に大イベントなんだな。」
タケシはカメラを向けながら感嘆の声を漏らした。ミリーもその威厳ある行進にうっとりとした表情を浮かべている。
「王宮の祝賀騎士団がパレードに参加するのは、年に一度だけですからね。まさに今日は特別な日です!」
そのとき、騎士団の隊列から一人の騎士が馬から降り、観客に向かって微笑みながら手を振った。その姿に観客からは大きな歓声が上がった。
「タケシさん、あの騎士は『金獅子のアルベルト』ですよ!王国の英雄として有名なんです!」
「えっ、あの人が!?いやあ、本当にすごいな…生で見ると迫力が違うよ。」
タケシはその光景をカメラに収めながら、観客の歓声がひと際大きくなるのを感じた。
「アルベルトさん、かっこいいですね。まるで絵本から飛び出してきたみたいです!」
ミリーが感嘆の声を漏らすと、タケシは少し照れくさそうに笑った。
「まあ、確かにかっこいいけどさ。でも俺も負けてないだろ?カメラ片手に異世界を駆け回ってるんだから、ある意味で冒険者みたいなもんだぜ?」
「そうですね!タケシさんも異世界チャンネルの英雄ですよ!」
ミリーの言葉に、タケシは少し誇らしげに胸を張った。
「よーし、今日はこのパレードの魅力を全力で伝えるぞ!俺たちの異世界チャンネルが、視聴者の皆さんにこの素晴らしい光景を届けるんだ!」
◇◇◇
夜が更けると、パレードはさらに華やかさを増していった。街中には魔法の光が輝き、まるで星空の下にいるような幻想的な風景が広がっていた。空には無数のランタンが浮かび、観客たちはそれぞれの願いを込めて空に放っていた。
「タケシさん、見てください!あのランタン、一つ一つが人々の願いなんですって!」
ミリーが感動したようにランタンを見上げている。タケシもその光景に見入っていた。
「…本当に綺麗だな。異世界って、こういうところが素晴らしいよな。みんなの願いが、一つの光となって空に舞い上がっていく…なんだか、俺たちも少しだけ異世界の一部になれた気がするよ。」
「そうですね、タケシさん。異世界チャンネルを通じて、たくさんの人にこの素敵な光景を届けられるのが嬉しいです!」
タケシは笑顔で頷き、カメラを回しながら視聴者に語りかけた。
「視聴者の皆さん、今日は異世界最大のグランドパレードを取材しました。にぎやかで楽しい一日を、皆さんも感じ取ってくれたら嬉しいです。次回も、異世界の魅力を全力でお届けしますので、お楽しみに!」
「異世界チャンネルは、これからもどんどん盛り上げていきますよ!」
タケシとミリーは笑顔でカメラに手を振りながら、次の冒険に向けて歩き出した。パレードの光と音楽が遠くに響く中、二人は新たな出会いと発見を期待して、街の喧騒の中へと溶け込んでいった。異世界の冒険は、まだまだ続いていく。