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勇者、防衛

テンの町は歴史上何度か、所属する国を替えている。最後にサーティ王国に属するようになってからはおよそ200年が経過しており、その間に見張り台は展望台として、軍港は貨物港として、兵の駐屯所は宿屋として等、サーティ王国最前線という戦時体制は異国との玄関口という平和なものに置き換わってきた。戦略的価値という点で言うと、展望台と整備された港があるというだけでもう十分であろう。サーティ王国はここを手放したくないし、トゥエンティ国は断じて手に入れなければすまなかった。

「何でこんな時に攻めてくるんだよ!魔王が倒されたばっかりだってのに!」

ケンスィは先ほどほどいたばかりの荷物を纏めながら愚痴った。

「魔王が倒されたばっかりだからか・・・!」

相手が弱っているとき、油断しているときに攻め込むのは戦いの常套手段である。今サーティ王国は魔王軍との戦いを終えて浮かれている最中だ。トゥエンティ国からみればチャンス以外の何物でもない。

「せめて避難の時間稼ぎでもしてくっか・・・!」

ケンスィは剣を取ると宿を飛び出し、人の流れに逆らって走った。すぐに人がまばらになり、町を守る壁に突き当たる。壁に沿って移動すると、ほどなく大門が見えてきた。甲冑姿の人が数人いる。王宮から勇者捜索のためにテンまでやってきた近衛騎士と、ひとりはテンの町の守備隊のようで甲冑のデザインが違う。ケンスィに気付いた1人が、門とは反対側を指さして叫んだ。

「逃げろ!ここは我々が守り抜く!」

この人数で一国の軍隊の攻撃をしのぎ切ろうというのか。もちろんそうではないだろう。数分を稼いで全滅する覚悟だ。

「加勢する。露払いは任せろ。門を開けてくれ」

「はぁ?たかが冒険者ふぜ・・・いや、何だその服は」

「待て、もしやあなたは」

「勇者、ケンスィ殿・・・?」

近衛騎士らのほうは、まさに自分たちが探していた人物が現れたことですぐに気が付いてくれた。

「あの、我々は、あなたを見つけ出して王都にお連れするよう命じられておりまして」

「知ってる、さっき聞いた。だけど今はそれどころじゃないだろう。トゥエンティ軍の規模はどのぐらいだ?」

「推定ですが3千ほど。全軍にしては少ないのでおそらくは先遣隊でしょう」

「こちらの戦力と援軍は?」

「守備隊は100名。援軍についてはすでに早馬を出しております。ですがどうがんばっても5日、実際にはおそらく7日ぐらいかかるかと」

「まあそんなものだろうな。じゃあ俺が顔を見せるだけで時間稼ぎはできる。勇者パーティが滞在中とわかればしばらくはにらみ合いに持ち込めるだろ」

トゥエンティ国の動きが早すぎる。おそらくは魔王が倒されたと知ってすぐさま挙兵したのであろう。シイルの死亡は勿論シスタとズィズィーが戦死したことすらも知らない可能性が高い。

「開門してくれ」

ケンスィが再度頼むと、テンの守備隊員が近衛騎士団に視線を向ける。騎士団はうなずいて、開門を許可した。

「時間稼ぎだけで構いません。どうか無理をなさらぬよう」

「わかった」

大門を開けるのは数人がかりの作業になる。守備隊員はその横の通用口を開けるようだ。まず覗き窓から外の安全を確認。次に書類や小包の受け渡しに使う小窓から顔を出し、覗き窓の死角だった場所の安全も確認。不審者や不審物がないことを確かめてからようやく人が通れる大きさの通用口を開けた。ケンスィの視界にも、推定3千と聞いたトゥエンティの軍勢が見えた。

テンの町の外に出ると、通用口は再び閉じられ、施錠音が聞こえた。ケンスィはそのままトゥエンティの軍勢に向かって歩く。すると、ケンスィに気付いた軍勢は進行を停止。しばらくするとトゥエンティ側からもひとり、こちらに向かって歩いてきた。ケンスィにも見覚えがある相手だった。

「・・・リヴァル」

「やっぱりケンスィか。魔王を倒したって聞いたが何やってんだお前」

リヴァルはトゥエンティの勇者だ。勇者という称号は、全人類でただひとりにのみ与えられるものではない。各国にひとり、国で一番強い戦士に与えられるものだ。サーティの勇者はケンスィで、トゥエンティの勇者はリヴァル。隣国ということもあり、何度か対面したことがあった。国同士はさほど友好的ではなかったが、ケンスィとリヴァルはお互いの剣の腕を競い合う程度の関係はあった。

「何って何だ」

「そりゃお前、見返りに美人の嫁さんもらって、大金もらって、権力握って毎日遊んで暮らせるじゃないか。なんでこんなところにいるんだ」

「テンの町は観光地だ」

「あー・・・そうか。報酬用意してもらう間は観光地でのんびりか。それもありだったな。ズィズィーだっけか、お前んとこのじいさん。あいつならこういうところでゆっくりしようとか言い出しそうだもんな」

やはりケンスィの仲間たちの死亡は伝わっていないようだ。

「でもまあ、俺たちの娯楽っつったら、やっぱりこれよな?」

リヴァルは剣を抜いた。

「娯楽か・・・」

「おうよ。戦ってる間だけは、生きがいを感じられる!そうだろ」

ちょっと前までのケンスィなら、ある程度は賛同できただろう。しかし、今は違う。戦って、勝って、手に入る物を知ってしまったから。ケンスィはリヴァルに一歩一歩近づいていく。

「ほら、抜けよ。やろうぜ」

「ちょっと時間稼ぎをしたいんだ」

「あん?」

「だからまあ、こういう手でも平気で使うことにした」

「あー、新しい必殺技か?どんなのだ?」

ケンスィはもう、強くなることへの興味をなくしていた。

「あれだよ」

だから、まっすぐなリヴァルを一撃で葬り、トゥエンティの軍勢の侵攻を思いとどまらせるために。

「どれだ?」

「よく見てみろ」

ケンスィは地平線の向こうを指さした。好敵手が編み出した新必殺技への興味から、リヴァルはそちらに視線を向けるだけでなく、注視してしまった。ケンスィを視界から外すほどに。

「はぁっ!」

ケンスィは完全にリヴァルの意識と視界の外から剣を振り抜き。

「ん」

リヴァルがケンスィの抜刀に気付いた瞬間には、もう頭部が胴体から離れていたのである。

「・・・すまん」

仲間さえ手にかけたケンスィは、迷うことなどなかったのである。ぼとん、とリヴァルの首が大地に転がった。胴体はしばらくその場に立っていたが、やがてゆっくりと膝から崩れ落ちた。

「さてと」

トゥエンティの軍勢を見やると、しんと静まり返っている。まさか自国の勇者が一撃で倒されるなど想像もしていなかったのだろう。ケンスィとリヴァルのやりとりが聞こえる距離でもない。やがて現実を目の当たりにした兵や隊長らが動揺し始め、それが全軍に広まっていく。やがて、勇者抜きでサーティ王国との合戦に臨むとどうなるかということにまで想像が及んだらしく、軍勢は反転して駆け足で去っていった。

「時間稼ぎどころじゃなかったな・・・」


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