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勇者、困惑

応接室に戻り、ソファに体を沈めたところで早速フレンが話を切り出した。

「さて、結局勇者ひとりしか生き残れなかったわけだが、まあさっき言った通りこれから忙しくなるぞ」

「正直そんな気分じゃないんだが」

「仕方ないだろ、あきらめろ」

気分じゃないのは仲間を失ったからだ、というのはもちろんフレンも理解している。が、自ら手にかけたとは想像もしていまい。

「すでに式典用の服も発注済みだ。勇者にふさわしい荘厳なデザインだったぞ」

「ヒラヒラでキラキラな服か?」

「正解。多分明日明後日ぐらいには届くはずだ」

そこでまたドアがノックされる。応答すると、神聖治療院の女性スタッフがケンスィを訪ねてきた客を連れてきていた。老人と呼んで差し支えない年代の女性が抱きかかえる程の荷物を持っていたが、見た目ほど重くはなさそうである。

「おや、もうできたのですか?」

「はい、大急ぎでとのご依頼でしたので全速で仕上げさせていただきました」

「それは助かります、ありがとうございました。ケンスィ、こちらがさっき言った式典用の服を作成してくださった仕立て屋の方だ。サイズ合わせしておいてくれ」

本当の本気でやる気がなかったが、仕方なく袖を通し装飾品も装着してみる。伝統だという意味不明の紋様が刺繍され、剣を振るのに邪魔にしかならない紐が垂れ下がり、無駄に重くて動きづらいし正直暑い。おまけにフレンはなぜか定規や分度器を当てて装飾品の角度や大きさを確かめている。儀式にはそういうところが重要なものらしい。

「大丈夫ですね、指定通りです」

どうやら合格だったらしい。

「動きにくいところ等ございませんか?」

仕立て屋にはそう聞かれたが、正直どこもかしこも動きにくかった。しかしとりあえず無いと答えるとそれが模範回答だったようだ。

「よし、本番までに汚したら大変だから、脱いでしまっておこう」

「お手伝いいたしますね」

1人で脱ぎ着できるのだが、汚さない&破らないようにするため黙って手伝ってもらう。

「代金は立て替えておいたからな」

「え、俺が払うのか?」

「他に誰が払うんだよ」

式典に必要なのだったら式典開催費用に含めてくれてもいいじゃないかとケンスィは思ったが、数日前に30億イェーンをもらったばかりである。手元にないだけで、金ならある。

「もらう予定の報奨金から差し引いてもらっていいか?」

「国庫支出金は本人以外が勝手に天引きすることができないんだよ。すまんが自分で手続きしてくれ」

「イッツ・ア・お役所仕事!」


仕立て屋が服を置いて帰り、フレンも戻っていった。やっと一息つくことができる。

「シイル・・・死んじまったんだな・・・」

今さら気づいたのだが、ズィズィーとシスタ、シイルの3人と旅をする間はずっと互いに側にいて言葉を交わしていたのである。今は誰もいない。もういないのだ。

「・・・あー・・・」

これからのことを相談できる相手もいない。出発するまではフレンと話もできるが、ミーネ地方に赴任した後は顔見知りがいない。さっき着たような服(よりは多少シンプルな服)を着て過ごし、楽しくもないことをして時間を潰し続ける毎日。一瞬、魔王を倒したことを後悔する考えが頭をよぎった。

「やめちまおうかな、勇者」

『ついでに魔王もやめち魔王、でございますな!』

『もう、ズィズィーはいつもそのようなくだらないことを!それでも賢者ですか!』

『聖女様はもうちょっとくだらったほうがいいと思うがね』

「くだらったって何だよシイル・・・」

いつの間にかケンスィは涙を流していた。


式典に出席する貴族の名簿が出来上がったので、ケンスィに覚えてもらう必要があり、フレンが神聖治療院を訪れた。ところが。

「ケンスィ殿がご不在?どういうことですか?」

「おとといのことですが、ちょっと出かけてくるとおっしゃって外出されたまま戻られないのです」

「荷物は?」

「一部は残していかれましたが、半分以上は持って出られたようです」

フレンがケンスィの部屋を見せてもらうと、確かに荷物が少ない。

「剣がないようですが?」

「武器類は治療院に立ち入る際にお預かりする規則になっております。ケンスィ様もこの部屋に剣を持ち込んだことはございません」

「ああ、そういえばそうでしたな」

他になくなっているものはというと、まず旅行用品。しかし旅着は残されているので遠出するつもりはないようだ。

「ちょっと前にも3日ほどお出かけになられたことがありますので、それほど深刻な問題ではないのではと」

「ふむぅ?しかし、式典用の服は持ち出しているようですね。ちょっと出かけるにしては持ち物が多い、しかし遠出するにしては持ち物が少ない。となると近場での外泊でしょうか。・・・入り口で預かったという剣はどうでしょう?返却した記録はありますか?」

調べてみると、確かに外出時に剣をケンスィに渡していることが判明。ちょっと夜の店に宿泊しに行ったにしては物々しい。

「・・・少し様子を見ましょうか。ケンスィ殿が戻られたら王宮までご一報くださいませ」

フレンは治療院の担当者にそうお願いしていったん引き上げた。しかし、ケンスィが戻ったという連絡は、式典当日になってもついに来なかったのである。


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