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勇者、受賞

2か月ほど前のことである。

よくある話。聖女の予言を聞いた王の命を受けて勇者一行が魔王の軍団と戦い勝利するという手垢まみれのありふれた物語についてここで詳細を記す必要はないだろう。

勇者一行のうち聖女と賢者は戦いの中で力尽き、盾戦士と勇者の2人だけがサーティ王国に生還した。生還と言っても盾戦士は重傷を負っており、帰還後ただちに教会運営の神聖治療院に運び込まれた。サーティ王国どころか世界中探しても神聖治療院以上の病院などない。まさに世界最高の医療技術が惜しみなくつぎ込まれ、盾戦士は一命をとりとめた。そして勇者ケンスィは仲間が助かったという知らせを神聖治療院の応接室で受け取ったが、病室に出向こうとしたところに王の使者が訪ねてきたため、やむなく部屋に戻り面会を行った。

「勇者、ケンスィ殿。此度の魔王軍撃破の功績はまことに見事なものでございました。いくら感謝しても足りるということはありませぬ」

「光栄でございます」

勇者であるからにはただ粗暴な戦士であってはならない。上位者に対する礼儀の尽くし方も備えていなければいけないが、ケンスィにはそれが備わっていた。

「ケンスィ殿を助け良く戦った仲間の皆さまにも後ほどお言葉をお伝えいたします。賢者ズィズィー殿と聖女シスタ殿にあっては故郷のご実家のほうに使者を使わし弔意を示す手はずでございます」

「はい」

「・・・さて、こんなものかな」

「いいんじゃね?言うべきことは言っただろうし」

「だな」

王の使者、フレンの口調が突然雑な物に変わった。ケンスィの言葉遣いもそれに合わせて砕けたものになる。フレンは部屋の入口に近いソファに座り込み、ケンスィもその正面に腰掛けた。

「まあそれはそれとして本当にすげーよケンスィ。正直なんつー無茶振りしやがんだって俺内心で怒ってたもん」

「じゃあ言えよ」

「言えるわけないだろ、宮仕えだぞ。お前が剣で魔物と戦ってる間、俺は言葉で人間と戦ってたんだ」

「そういう言い方をすると仕事してたように聞こえるな」

「仕事してたんだよ」

ケンスィとフレン、2人は武官と文官という立場の違いはあったが同期である。同時に王宮に就職し、友として肩を並べる間柄であった。国王もおそらくそれと知ってフレンを使者に指名したのであろう。

「で、盾戦士シイル殿の容体は?」

「さっき連絡があった。とりあえずは助かったらしい」

「おお、そりゃよかった。お役所ってところは弔意文1枚書くのも面倒な手続きだらけだからな、3枚が2枚になると少し楽になる」

「さすがにズィズィーとシスタに悪いと思わんか」

「・・・っと。悪い。ちと不謹慎すぎたか。とりあえずシイル殿に会わせてもらえんか」

「ああ、俺もまだ会えてなくてな。今から行こう」

2人は同時に立ち上がると、ケンスィから先に部屋を出た。前衛職が先頭という癖が残っているケンスィと、誰かにつき従って移動する癖がついているフレンの職業病だろうか。



「し、シイル殿・・・か?」

シイルの病室に案内されたフレンは絶句した。だが、ケンスィも同様に言葉を失っている。盾戦士シイルとフレンは出発前に一度だけ会っているがすれ違っただけなので細かく姿を覚えているわけではない。だが、ケンスィをも上回る身長と体格を持った大男だったはずだ。しかし、ここに寝かされているのは全身を包帯で巻かれた子供のように見える誰かである。肌が見えているのは口元と腹部の一部だけだ。呼吸に合わせてそのわずかにのぞく腹の部分が動くのが見える。

「撤退中に何度もドラゴンブレスを受け止めてくれたんだ」

「それで全身に火傷を?」

「それだけじゃない。ポイズンアローにデッドボルト、ありとあらゆる攻撃を全て防いでくれた」

その代償でどこかの名探偵のように体が縮んでしまった。・・・わけではない。痛々しい姿であるが、よく見ると手足の長さは子供のようだが胴体は大人のそれだ。

「両手両足を失われたのか、シイル殿・・・」

「やはり神聖治療院でも無理だったか」

熱と毒に痛めつけられた体を五体満足で再生するのは、世界最高の医療をもってしてもかなわなかったようである。

「シイル、起きているか?」

ケンスィが呼び掛けても反応はない。鎮静魔法か薬が効いていて眠っている様だ。

「眠っているなら王の使者としての出番はないなぁ」

「じゃ、すまんがちょっと外してくれるか。2人にしてくれ」

「ああ、わかった」

フレンが辞し、ケンスィが残った。

「・・・シイルのおかげで、俺はかすり傷しか受けずに済んだぞ。立派に役目を果たしてくれた。最高の相棒だよお前は」

ケンスィは付添者用の丸椅子を引き寄せ、シイルのすぐ横に座ると、最後の戦いのことを思い返し始めた。


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