第九話 50m走
四角いグラウンドを斜めに横断するように、50メートルの直線が現れる。
朝礼台に向かって右手がスタート位置になっており、スタートの奥にはプレハブ小屋が、イメージを使って創造されていく。
青い髪の女性が左手で小屋を差し、
「まずはあちらのプレハブに皆さん移動をお願いします」
と言うとテスト生が歩いてプレハブ小屋に向かう。
「あんなに早くこんなでかい物を作れんのかよ」
「当たり前だろ?審査員も一応本物のプロなんだぞ」
ナルは意気揚々とプレハブ小屋に歩いて行く。
◇
プレハブの中は広く、壁沿いには多くのイスが用意されている。
四面の上部には巨大なモニターがある。
バラバラに小屋の中に入っていくテスト生たち。
ナル・シュウサ・アキ・シンも中に入ると、4人で1箇所に集まっている。
「50m走かぁ」
緊張と期待で目を輝かせながらナルが言うと
「最初は余裕そうだな」
といつもの表情で足首を回し準備を始めるシュウサ。
四箇所のモニターが同時に表示され、
「まず初めに第一テスト50m走のルールを説明します。」
ストレッチをしたり、各々話をしたりとでザワザワしていた室内が急に静かになる。
「皆さまにはさまざまな発想を使い、50m先のゴールに向かっていただきます。現在の世界記録5秒32の保持者、リアル・ケント選手は有名だと思いますが、このケント選手の記録より遅かった方は失格となります。基準となるケント選手はシミュレーションで横を走ります。テストの実施は立候補順で構いませんが、もし立候補者がいない場合はゼッケン番号の若い方からになります。」
画面が切り替わる。
「一人が小屋を出ると、ドア横のランプが赤に変わります。赤になった時点でドアにはロックがかかりますので、ドアを出た選手は3メートル先のスタート地点に速やかに向かってください。スタートの合図はドア横のランプが青になった20秒後に鳴ります。その時点でスタート地点にいない場合は損をしてしまいますのでご注意ください。スタートの合図と同時に直線コースの先のゴールに向かってください。手段は問いません。ケント選手のシミュレーションか、テスト生のどちらかがゴールを切った時点で、ドア横のランプが赤から青に変わりますので、次の方はランプが青になったら速やかにドアを開け、スタート地点に向かってください。なお、1番目の方のみ開始20秒前のアナウンスが入ります。以上が説明になります。皆さま頑張ってください」
モニター自体が消えてなくなる。
「ただゴールに行けばいいだけだろ?チョー簡単じゃん」
シュウサが大きな声で言うと、周囲のテスト生が一斉にシュウサを見る。
「大丈夫かなぁ?緊張してきちゃった」
ナルがシンに言うとシンがゆっくり静かにしゃべりだす。
「僕もだ。このテスト意外に難しいよ。まずこの室内に入れられたのは恐らく他の人のアイデアを参考にさせないため。」
ナルが周りを見る
「ただ単に走れば絶対ケントの記録なんか抜けないからイメージを形にしないといけないでしょ?」
ナルが真剣にうなずく。
「でも大きな乗り物や走る物を作るには、人によるけど時間がかかるんだ。いかに小さいもので自分をケントより早く運べるかがカギになってくるね」
アナウンスがかかる。
「それでは1番目の方準備を願いします。10秒後にドアのランプが青に変わります」
シュウサが笑顔で走ってドアに向かうと何人かの参加者も急いでドアに行く。
「じゃ先いってるわ!1番ー」
シュウサが1番を取ってドアを開ける。
その後ろに5名が並んでいる
◇
シュウサはドアを開け、歩いてスタート位置に向かう。
スタートに着くと左側にリアル・ケントのシミュレーションが現れる。
「こんなん余裕でしょ」
ゴールの周りには20名の審査員がタブレット型端末を見ながら立っている。
急にピストル音が鳴り響くと、横にいたケントが動きだす。
《急に始まんのね》
余裕の表情でシュウサは背面に青い波紋を瞬時に出現させ、それを蹴ってゴールに向かう。
「余裕余裕」
前方に進みながら2個3個と波紋を作り、それを次々と蹴ってゴールへ。
「2秒34 合格」
一人の審査員がシュウサに近づいていき、ゴール側に作られたプレハブに案内する。
「おめでとうございます。こちらでお休みください」
ゴール側に建てられたプレハブ小屋の中に入ると、中央ににテーブルがありお菓子とジュースが大量に置かれている。
小屋の中のモニターには、スタート位置のプレハブ小屋の中とグラウンドの様子が映されている。
「早くナルこねーかな」
モニターを見ながら四角いクッキーを食べるシュウサ。
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