92話 高利貸しならではの戦い方なのです。
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「……五万円……です。……五万円……です……」
いつもの表情が乏しい臥留子ちゃんと違って、優勝して帰ってきた彼女は違った。
口調こそいつも通りの呟きだが、ニンマリとした笑顔だったのだ。
元々、お人形さんのような美形の臥留子ちゃんなので、その笑顔は二度見、三度見してしまうほど眩しい。
「やりましたねっ」
「そうね。では私たちも続くわよ」
「ふぉふぉふぉ。すでにワシの優勝は決まっておるのじゃ」
臥留子ちゃんを出迎えた恵ちゃん、呂姫ちゃん、集子ちゃんたちはそう述べるのであった。
「ちなみにさっきの臥留子ちゃんは走るのに神力を使ったのか?」
「使っていませんよっ。あれは臥留子ちゃんの素の能力だと思いますっ」
「使ってないわね。疫病神の身体能力はすさまじいのよ。標的に取り憑いたら絶対に逃さないために半端ない基礎体力をもっているのよ。……恐ろしい子」
俺の質問に恵ちゃんと呂姫ちゃんが答えてくれた。
特に呂姫ちゃんの表情には怯えも混じっていた気がする。
やっぱり疫病神ってのは只者じゃないらしい。
そして次の一年女子の走者は、実はトランス女性とも言えてしまう金尾集子ちゃんだった。
ただ元がジジイだし、今の身体は百パーセント少女なので問題は一切ない。
腰までの長い白髪赤眼の色素が少ない身体は儚げさと庇護欲を誘うことから、すでに他クラス男子にもファンが多い。
……喋り方はまんまジジイだけどな。
そんな集子ちゃんは純白の体操着から、それに負けない純白の腕と生足を出してスタート位置についている。
「構えを見ると意外に速そうだな」
「そうですねっ。元のお爺さんのときはもう走ることはできなかったみたいですけど、若返ったから速いかもしれませんよっ」
俺がぽつりと漏らした感想に恵ちゃんが答えてくれる。
「位置について。よーい――」
――ダーンッ!――
最初は団子状態でスタートした三選手だが、やはり自力のある三年生、二年生が頭一つ抜け出している。
集子ちゃんも遅くはないのだが、距離を離されずに付いていくのが精一杯に見える。
「苦戦しそうだな……」
しかし最終コーナーを周る辺りで俺がそう呟いたときだった。
突如、コース上空から周囲から長方形の紙切れが暴風雨のように選手たちを包んだのである。
……あれ、お札じゃないかっ?
お札だった。しかも一万円札であった。
何百、何千枚もの一万円札が吹き荒れ走る選手たちの視界を奪う。
そのため先頭の三年生、二位の二年生の選手は左右へコースアウトしてしまう。
そしてそんな中、集子ちゃんは正しいコースを走り続け、見事一位でゴールしたのであった。
「あれはなんとも……」
間違いなく神力。しかも大量のお札を出すとはさすが高利貸しの神。
もちろん集子ちゃんのゴール後にはお札はすべてなくなっていたし、選手たちも観客たちにも混乱はないことからお札が飛び交ったことは、記憶には残っていないらしい。
「ふぉふぉふぉ。一位で五万円分獲得じゃ。ふぉふぉふぉ」
意気揚々として戻ってきたのは集子ちゃんだ。
「む……。痛いのじゃ」
俺は軽くだが手刀を集子ちゃんに落とした。
まったくお咎めなしと言うのも問題だと思ったからだった。
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「生忌物倶楽部」連載中
「夢見るように夢見たい」連載中
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。