91話 超高速小走りなのです。
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やがて終了の合図がダーンッ! と鳴った。
その瞬間、見れば水着姿だった二年生、三年生の女子たちは元の体操着姿に戻っている。
そして選手たちの間にも観客の間にも動揺も混乱もないことから、やはり水着騒動も神力なのは絶対に間違いない。
その後、競技は玉数の集計が始まった。
籠を傾けて係りの生徒が、ひとーつ、ふたーつと数えて玉を放り投げるアレだ。
その結果、二年生と三年生の籠には玉が三十個程度しかなかった。
それに対して一年生は百以上も入っていた。
一年生の籠はただ数だけならばもっと多いのだが青色、黄色という無効の玉も多かった。もちろん金尾集子ちゃんの取ったセコい作戦がこうして効果を発揮した訳だ。
『優勝は一年生ですっ』
アナウンスの声が高らかにそう告げた。
会場は大歓声に包まれるのであった。
■
「反省はしてますっ。でも後悔はしていませんっ」
「同じよ。勝つためになら仕打ちも受けるわ」
額の前に両手をクロスした状態で一年生観客席に戻ってきたのは恵ちゃんと呂姫ちゃんだ。二人とも神力を使ったことで俺の手刀を受けることを覚悟しての帰還だった。
「ふぉふぉふぉ。ワシはいんちきはしとらんぞ」
「……別に……私も……なにもしてない……」
神力を使わなかった集子ちゃんと臥留子ちゃんはもちろん平気な顔だ。
……さてどうするかだ?
俺は迷った挙げ句、軽くコツンと手刀を恵ちゃんと呂姫ちゃんに落とした。
「別に俺は裁定者じゃないからな? 審判を下す権利は元からないしな。
……でもやり過ぎるなよ」
俺はそれだけを言った。
すると恵ちゃんと呂姫ちゃんの顔に笑顔が浮かぶ。
もっと怒られると思っていたようだ。
■
次は学年対抗百メートル走だった。
出場する選手は各学年十名ずつ。
内訳は男子五名、女子五名だ。
そのうち女子の四名は一年二組で占められている。
もちろん恵ちゃん、呂姫ちゃん、臥留子ちゃん、集子ちゃんの四女神だ。
間違いなく神力を行使した結果に違いない。
で、女子で一番目に走るのは一組の子だった。
「位置について。よーい――」
――ダーンッ!――
一年生、二年生、三年生の選手が同時にスタートする。
最初はもつれる感じで順位がはっきりしなかったが、やがて体力で勝る二年生と三年生が抜け出して結果、三年生が一位でゴールした。
二位は二年生。最下位は一年生と、まあ妥当な結果に終わった。
そして次である。
「……あの格好で走るのかよ……」
そう思ったのは俺だけじゃないはずだ。
スタート位置についているのは臥留子ちゃんなのだが、着ているのが和服なのだ。
初夏を意識したのか紫のアヤメの花模様がキレイな着物姿なのだった。
「位置について。よーい――」
――ダーンッ!――
そしてスタートした。
二年生と三年生はキレイにスタートを決めて一気にダッシュしたのだが、裾が開かない和服の臥留子ちゃんは小走りだ。
……ああ、これは勝負ありだな。
運ぶ足のストロークが全然違うのだ。
小走りの歩幅で走ろうってのがそもそもの間違いだ。
だがそこで俺は違和感を覚える。
あれだけ商品券で和服を新調するのを楽しみにしていた臥留子ちゃんがこのまま無様に負けるなんてあり得るのだろうか?
そう思ったときだった。
「な、なんだアレっ!」
誰かの叫びが聞こえた。
見るとかなり出遅れていた臥留子ちゃんがぐんぐんと追い上げているのがわかる。
「マジかよ……」
そう。
臥留子ちゃんは小走りのままだった。
だがその足の運びが尋常じゃない。見えないのだ。
つまり見えないくらいの高速で小走りしている……。要するにストロークの短さを速度で補っているのだ。
そして二年生、三年生に追いついた超高速小走りの一年生は結果、そのままぶっちぎっての優勝となったのだった。
……マジかよ。
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「生忌物倶楽部」連載中
「夢見るように夢見たい」連載中
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。