88話 まずは大勝利なのです。
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最初の試合は一年生と三年生であった。
一年生はグランドの左側に並び、三年生は右側に並ぶ。
その列の中央には太い綱が地面に置かれてあった。
「位置について、よーい――」
審判兼進行係の教師が合図用のピストルを空に向けて構える。
選手たちは巨大な綱にそれぞれ手を伸ばし握りしめる。
――ダーンッ!
合図が鳴った。
と、同時に左右から綱が引かれる。
最初は互角に見えていたが、それも始めのうちだけで徐々に三年生が有利になっていた。
「……こうして見ると体格が違うんだよな」
俺は誰に言うでもなしにそう口にする。
すると脇にいた澤井さんが返事をしてくれる。
「確かに三年生の方が体格いいものね。同じ生徒数でも力に差が出るわ」
「それだけじゃないよ。……三年生はだいたい男女半々なのに対して、一年生は女子が全体の七割近いから男子の数が少ないんだよ」
同じく側にいた学級委員の河合さんがそう教えてくれた。
「七割が女子? 一年は二年生、三年生と比べて女子が多いなと思っていたけどそんなに比率に差があったんだ?」
俺は初めて知る驚愕の事実に思わず大きな声を出していた。
……あれか? 入学早々に恵ちゃんが言っていた言葉を俺は思い出したのだ。
神力を使って、近隣の中学校から見目麗しい少女ばかりを選別して、この神武高校に入学させたと言っていたはずだ。
なのでその弊害として女子の比率が高くなってしまったんだろう。
女子が多い方がハーレムとしては適しているが、こういう体力勝負の競技では女子の方が多いのは戦力的に苦しい。
残念だがこの勝負、一年生の負けだな。
俺は冷静にそう判断した。
だがそのときだった。
「「「「「キャーッ!!」」」」」
「「「「「うぉーっ!」」」」」
突然、綱引きの試合会場で悲鳴が叫びが起きた。
見ると三年生の選手たちが全員素っ裸になってしまっているのだ。
三年女子の先輩たちは綱から手を離し右手で胸を押さえ、左手で下を隠している。
そして三年男子の先輩たちも両手を綱から離し、下の部分を両手で隠しているのだった。
「「「「「止めて~っ。見ないで~っ!」」」」」
特に三年女子はパニックになってしまっている。
そして勝負だが三年生の誰もが綱から手を離していたのだから、一年生の圧勝となった。大歓声が沸き起こった。
番外狂わせもいいところだ。
だから一年生の観客席だけじゃなく一般の観客席も大いに盛り上がっていた。
ちなみに三年生たちは勝負が決まった瞬間には元の体操着姿に戻っていた。
……あの馬鹿め。
俺は颯爽と帰ってきた恵ちゃんに手刀を落とした。
「……はう。……い、痛いですよっ」
涙目で恵ちゃんが抗議する。
「当たり前だ。神力使っただろうが? 卑怯じゃないのか?」
俺はそう言って恵ちゃんを責める。
「――確かに神子恵は神力を使ったけど、卑怯じゃないわよ?」
驚いたことに恵ちゃんに助っ人が入った。
邪神の辻神呂姫ちゃんだ。
「向こうは男子が多いもの。それに体格にだって差があるでしょ? そもそも言えば学年対抗って時点で三年生有利の出来レースなんだから。だから向こうは体格差を利用して、こちらは神力を使っただけじゃない?」
「……フェア。……どっちも使える戦力を使っただけ……」
疫病神の山井臥留子ちゃんも恵ちゃんの味方をした。
「ふぉふぉふぉ。勝てば官軍と古来からも申しますわな」
高利貸しの神の金尾集子ちゃん(元:ジジイ)も参戦してきた。
「うぐぐ……」
俺はなんか言いくるめられてしまいそうだった。
多勢に無勢。
俺には誰一人味方がいないのだ。
フェアかどうかを判断してもらうにも、澤井さんにしても河合さんにしても若杉先生にしても神力絡みの件は説明できないので、どうしようもないのだ。
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「生忌物倶楽部」連載中
「夢見るように夢見たい」連載中
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。