86話 神力を暴走させてしまったのです。
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俺はそこで気づいた。
それは河合さんに司会をバトンタッチする前に若杉先生が言っていた言葉だった。
「――今回の体育祭もスポンサーが付きます。
学校近くの神武商店街さんが各競技の優勝者、準優勝者に商店街の商品券を出してくれることになりました」
するとそこで転校してきたばかりの金尾集子ちゃんが挙手をした。
「はい。金尾さん。どうぞ」
「のう、先生。その商品券はいくらなんじゃ?」
「個人競技の優勝者には五万円、準優勝者には三万円。
団体競技の優勝チームには十万円、準優勝チームには五万円ですよ」
「ふぉふぉふぉ。太っ腹じゃのう」
さすが高利貸しの神である集子ちゃんだ。
金額に対しての執着が違う。
「その商品券ですが、商店街のどのお店でも使えますよ。
みなさんが大好きなバーガーショップから、学校で必要は文房具はもちろん。家電店でも使えるのでスマホやゲーム機なんかも買えますね」
そう言うのだ。
「「「「「おおーっ!」」」」」
クラスの中をどよめきが支配したのであった。
もちろんそれは普段から金欠の恵ちゃんを小躍りさせるくらいのものだった。
「……はう。……痛いです」
だが俺は、そんな恵ちゃんに手刀を落とした。
それもそのはずで壇上の若杉先生がまたもやブラウスのボタンを外し、しっかり脱いだだけじゃなくて、下着のホックまではずそうとしていたからだ。
先生が、薄ピンクの下着に拘束されているたわわな胸を開放しようとした瞬間に俺はなんとか間に合った訳だ。
「なんで先生を脱がそうとするんだっ? 商品券の前祝いのつもりでご祝儀なのか?」
「……す、すみませんっ。
思わぬ豪華賞品に気持ちが高ぶって、つい、神力を暴走させてしまいましたっ」
視線を戻した時は、先生はその真っ白な柔肌をすっかりブラウスに戻していて、ジャケットを羽織るところだった。
その先生に恥じらいや困惑の様子もないし、クラスの中も驚きや興奮もないことから今のシーンはまったく記憶に残っていないのは間違いないようだ。
「でも商品券は魅力よね? 私、スマホ持ってないのよ」
と、呂姫ちゃん。
「……商店街に……呉服屋さん……あった。……ワタクシ、新しい着物……欲しい……」
臥留子ちゃんも欲しい物があるようだった。
■
そんなやりとりを俺は思い出した。
つまり、四女神たちが夢中で立候補しているのはすべて商品券目当てに違いない。
金貸しの集子ちゃんはちがうだろうが、残りの三女神はアルバイトをしているようには思えないので、お賽銭的な喜捨以外には収入がないだろうしな。
そして唯一収入があると思える金尾集子ちゃんだが、高利貸しの神なのだ。お金的なものは大好きだろうしな。
やがて出場者募集の競技は玉転がしとなった。
玉転がしとは背丈くらいある大きなハリボテの玉を大勢で転がしてゴールを目指すアレだ。
俺はこれに挙手した。
「あれ? 大吉さん。玉転がしに出るんですかっ?」
自らも挙手している恵ちゃんにそう言われた。
「ああ。……どれかひとつの競技には出場しなきゃダメなんだ。なので運動が苦手な俺でも足を引っ張る確率が低いこの競技にしたんだ。
……で、お前も出るのか?」
「当然です。私は全競技出るつもりですよっ」
河合さんが俺の見て、俺の名前を黒板に記載していく。
もちろん恵ちゃんの名前も同様だった。
いや、違った。
恵ちゃんだけじゃなくて、残りの三女神の名前もだった。
あいつらも全競技出場を目指すようだった。
その後、マラソン、リレー、棒倒し、玉入れ、騎馬戦などなど様々な競技の出場希望者が募られた。
そして、神子恵、辻神呂姫、山井臥留子、金尾集子の四女神は当然のように全競技にエントリーしたのだった。
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「生忌物倶楽部」連載中
「夢見るように夢見たい」連載中
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。