85話 出場するのです。
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それからである。
ホームルームの時間は終わりなのだが、一時間目の授業が若杉先生担当の現代国語だったので、授業を急遽中止として、そのままホームルームの延長となった。
体育祭の担当を決めなくてはならないからである。
黒板の前には若杉先生の代わりに河合さんが立っていた。
もちろん学級委員だからであり、会議を進行させるためだ。
「はい。ではまずは百メートル走に出場希望の人いますか?」
河合さんが歯切れのよい声でそう告げた。
すると数名の男女が挙手をする。
俺は走るのが苦手なので出たくはない。
だから手を挙げたのは、短距離走に自信のあるヤツらなんだろうなと思った。
「はいはいっ。私、出ますっ!」
驚いたことに隣の席の恵ちゃんが挙手をしていた。
「……出るのか?」
「はいっ。私、走るの得意なんですっ!」
すると教壇に立つ河合さんが黒板に氏名を書き始めた。
定員はあるのだろうが、まずは希望者全員の名前を書くようだ。
その後店員オーバーとなった場合は話し合いとかで出場者を決めるのだろう。
そして河合さんが神子恵と名前を書いた。
だが教室内を見回して他にも希望者がいることから、彼らの名前を書き加える。
辻神呂姫。
……。
山井臥留子。
……。
金尾集子。
……。
他の生徒たちに混じって残りの三女神(くどいようだが一柱は元:ジジイ)の名前があった。
恵ちゃんは走るのが得意と言っていたが残りの女神たちも得意なんだろうか?
俺はそれが疑問になった。
「呂姫ちゃん、臥留子ちゃん、集子ちゃんたちは足が速いのか?」
「どうでしょう? 走り比べたことはありませんよっ。でも立候補するくらいだから速いんじゃないですかっ?」
「ホントか? ひとりは元ジジイだぞ?」
「そうですよね? ……でも集子ちゃんは、今は身体が若いから速いのかも知れませんよっ」
恵ちゃんも彼女たちの走力は知らないようだ。
でも自ら手を挙げたことから、恵ちゃんが言うように走るのに自信があるのかもしれない。
「はい。じゃあ百メートル走は以上です。
次は綱引きです。立候補者はいますか?」
河合さんが次の競技の参加者を募った。
すると今度も数人挙手がある。
「はい、まずは神子恵さん」
そう言った河合さんが綱引き立候補者の枠に恵ちゃんの名前を記す。
「マジか? 連戦だな」
俺なんてできればどれにも出場したくない。
だけどどれか一競技には出なくてはならない決まりがあるので、渋々考え中なのに、恵ちゃんは百メートル走だけじゃなく、綱引きにも出場したいようだ。
「はいっ。綱引き、得意なんですっ」
走るのが得意ってのは足が速いことだからわかるのだが、綱引きが得意ってのはどういう理屈だ?
俺はその部分を突っ込もうと思って口を開きかけたのだが、あるモノが視界に入ったので口を閉ざした。
「……マジか? 呂姫ちゃんも連戦かよ……」
そうなのだ。恵ちゃんだけじゃなくて呂姫ちゃんまで挙手していたのだ。
いや、違う。
よくよく見回せば臥留子ちゃんも集子ちゃんも手を挙げていた。
河合さんが挙手した人物名を次々と黒板に書いていく。
その中で百メートル走と重複しているのは四女神たちだけだった。
なにが彼女たちをそこまで掻き立てるのか?
……あ。
俺はそこで気づいた。
それは河合さんに司会をバトンタッチする前に若杉先生が言っていた言葉だった。
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「生忌物倶楽部」連載中
「夢見るように夢見たい」連載中
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。