83話 三人目なのです。
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「はーい。みなさん静かにしてください。ホームルームを始めます」
若杉先生が教壇に立ち、そう俺たちに指示を出した。
そのため教室の中はしーんと静かになる。
……なんだ?
そのとき俺はふと既視感を覚えた。
それはなにか良からぬことが起きるかもしれないという予感とも言えた。
「はい。本日は転校生がいます。
辻神さん、山井さんが来てまだ間もないですが三人目の転校生となります」
……な、なんだってっ?
そう先生は宣言したのだ。
途端にクラスは賑やかになった。
だがそれは転校生への好奇心からの騒々しさであり、それ以外への疑問はないようだった。
それ以外の疑問とは、わずか二ヶ月間に三人も転校生がこの一年二組に入ってくる異常さへの疑問だ。
……神力じゃないのか?
「わ、私じゃないですよっ……!」
「私も違うわっ。誤解よっ」
「……ワタクシ……知らない……」
俺は恵ちゃん、呂姫ちゃん、臥留子ちゃんの三女神を順々に見たのだが全員が否定した。その返答の必死さから嘘をついている様子はない。
つまり彼女らの仕業ではないようだ。
「じゃあ、金尾さん。入ってきて……」
若杉先生は扉の外の廊下に待機させている転校生にそう告げたのであった。
……金尾って、あの高利貸しの神の爺さんかっ!?
無理があり過ぎるだろう。
確かに高校は義務教育じゃない。なので高齢でも入学はできるだろうが、あの仙人みたいな老人が高校生ってのは相当無理があるんじゃないかっ!?
ところが事実は異なっていた。
ガラリと扉が開き入って来た転校生を見てクラス一同が絶句した。
「うそ、きれい」
「お人形さんみたい……」
そう。入ってきたのは爺さんの金尾集じゃなくて、白髪赤眼の超絶美少女、金尾集子ちゃんだったのだ。
腰までの長い真っ白の髪の毛と、濃紺のブレザー制服が妙に似合って悔しいがとてもかわいらしい。
「金尾集子ですじゃ。ふぉふぉふぉ。よろしくのう」
容姿と声音からは想像できないジジイ言葉のギャップが凄まじい。
だがそれもマイナス点にはならないようで怪訝な顔をしているクラスメートは皆無だ。
「……な、なんであなたがここにいるんですかっ!」
「そ、それにその格好はなにっ! 若返るにも男子生徒になればいいじゃないのよっ!」
「……困惑……ひたすら困惑……」
恵ちゃん、呂姫ちゃん、臥留子ちゃんがそう発言する。
たぶんだがこの会話の始まりから女神たちの神力が発動されているようで、恵ちゃん、呂姫ちゃん、臥留子ちゃんの発言内容を疑問に思う者は誰もいない。
「ふぉふぉふぉ。毎月しっかり借金を返済してもらう必要があるしのう。……更に言えば実は病みつきになってしもうたのじゃよ」
「……病みつき? なんなんですかっ、それっ!」
「ぴちぴちギャルじゃ」
そう言って集子ちゃんはテヘペロで舌を出した。
「……はああ」
俺はあまりの展開にため息しか出せなかった。
つまりなんだ? この高利貸しの神である元:金尾集爺さんは一人当たり毎月たった三百円未満の借金を取り立てるためにこの神武高校に来たらしい。
更に高校入学にあたって、男子生徒になるよりも林間学校での臥留子ちゃんからの仕打ちで女体化して、ぴちぴちギャルになったのに味をしめてしまったらしいのだ。
やれやれである。
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「生忌物倶楽部」連載中
「夢見るように夢見たい」連載中
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。