51話 誰か入って来たのです。
【毎日昼の12時に更新します】
この作品には以降のストックがありません。
そのため書き上げてからの投稿となるので一日一回の更新となります。
すみませんが、よろしくお願いいたします。
この物語は毎話毎話が短いです。
それは4コマ漫画のようなテンポの良さ、余韻を全面に打ち出しているからです。
……決して、私の手抜きではありません。
……きっと。
そんなときだった。
ガラリとガラス戸が開いて新井が入ってきた。
もちろんタオルで前を隠してだ。
「僕も来たよ。なんか急に眠気がなくなったから、お風呂に入りたくなったんだ」
「そうか。大浴場ほど広くないけど男二人だったらぜんぜん狭くないからこの風呂もいいぞ」
俺はそう言って真ん中で浸かっていた湯船の端に体を寄せる。
するとかけ湯を終えて新井が湯船に入ってきた。
「はぁぁぁー。気持ちいいね」
そう言って新井はオヤジ臭い声を出すのだが、それはさっき俺も出していたので文句は言わない。
だが、ふと疑問を感じたことがあった。
「そう言えばなんだが、お前さっきホントに眠そうだったよな?」
「うん。正直まぶたを開けていられないくらいだった。よくわからないけどいきなり急に眠くて眠くて仕方がなくなったんだ」
不思議である。
人間、急にそこまでいきなりの眠気に襲われるのだろうか?
そう思ったときだった。
俺にはふと合点がいきそうな推測が浮かんだのだ。
……ひょっとして恵ちゃんか?
そうなのだ。
新井は新幹線に乗っていたときも、いきなりトイレに行くと言って席を立った。
それもかなり急いでいる様子だったのだ。
今回の眠気もそれに似ていないだろうか……?
だがそれに対しての疑問もある。
恵ちゃんは新井が神力が効きづらい体質だと言っていた。
子宝の神である恵ちゃんに取って女性と縁のない人生を送るはずの新井は術が通用しにくい相手だと言っていたはずだ。
だとしたら恵ちゃんがそんな新井に眠気の神力を使うだろうか?
……いや、なんらかの意図があればそれでも使うかもしれない。
……その意図とは俺の女難だ。
もしかしたら新幹線の車内同様に澤井さんや河合さん、そして若杉先生をあのとき以上の状態、つまり、この風呂場に全裸で寄越すために仕掛けた罠じゃないんだろうか……?
――それはマズイ。
こんな場所で裸の女性たちが押し寄せたら大変なことになる。
バレたら俺の高校生活はこの時点で終わるからだ。
そりゃ、俺だって健康な若い少年だ。
澤井さん、河合さん、若杉先生の裸体を見たいかと言われれば否定なんか絶対にできない。
でもそれは同時にせっかく入学したばかりの高校生活のすべてを棒に振ることに繋がりかねない。
俺は暑い温泉に浸かっているにも関わらず冷や汗が額に浮かんでくる。
しかもだ。
別に庇う必要性はまったくないのだが、そんな事件が発生すればこの新井も連座責任を取らされることになる。
否はない新井にそこまでの責任を共に取らせることはさすがの俺でも気まずい……。
そんなときだった。
ガラリとガラス戸が開いて誰かが入って来たのだ。
この男湯の浴室は今の時間は俺たちの班だけが使うことになっている。
そしてこの班の男子は俺と新井しかいないのだから、それ以外の人物が入って来たのは明らかな事実だ。
もうもうと立ち上る湯気ではっきりとは見えないがタオルで身を隠しながら入って来た人物のシルエットはなだらかな曲線だ。
……つまり絶対に間違いなく女性だったのだ。
「……あ、新井……」
「……か、加茂くん……」
湯船に浸かる俺たち二人の声は震えていたのだった。
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「生忌物倶楽部」連載中
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。