461話 ヌルゲーだったのです。
基本二日置きの更新(18時)とさせて頂きます。
どうぞよろしくお願いいたします。
「……これでイタズラネズミを倒す」
そう宣言した秀子ちゃんは手に持ったいちごショートケーキを投げた。するとクッキーの柱をかじっていたネズミに見事命中する。
「……キュゥ」
なんか情けない声を漏らしてネズミが消滅した。
なるほど。命中させれば一発で倒せるようだ。
ならばと俺もチョコレートの窓枠をかじっているネズミに向かってモンブランケーキを投げた。
やや力み過ぎた感触があったが、なんとか背中の一部の命中。
するとネズミはやはり、キュゥと呟き消える。
食べ物を粗末に扱うことにちょっと罪悪感があるがこれはゲームなのだ。仕方ない。
「意外と簡単ね」
「……そうでもない。新たに登場」
そうだった。
秀子ちゃんに指摘されて気付いたが、物陰からネズミたちが次々と登場する。
なので俺たちもケーキを次々と掴み投げるのであった。
ネズミの数はどんどん増える。
だが、部屋がそれほど広くない上にネズミのサイズがでかいので命中率が下がることがない。その結果、残っているネズミの数は減る一方だった。
「……なんかこのゲーム、緩くない?」
「……ヌルゲー」
体感時間で5分くらい経過したときだった。
俺と秀子ちゃんは手応えがないこのゲームに少しやる気が失せ始めていた。
そして俺と秀子ちゃんが投げたケーキが生き残り2匹に当たり、ネズミはすべて消え失せるのであった。
このゲーム。VRとしては評価できる。視界に入るすべてがリアルだからだ。だがゲームバランスが悪くて簡単過ぎるのである。
もしかしたらお菓子の家を舞台にしたゲームなので低年齢層をターゲットにしたものなのかもしれないな。
「残り時間はまだある。ゲーム内容を変える」
「えっ? どういうこと?」
秀子ちゃんが謎の宣言をした。そして両手を頭上に伸ばし、ゆらゆらと振り始めたのだ。……これはもしかして? 神力?
結果的に言えばそうだった。
見た目はなにも変化はない。お菓子の家の中のままだし、テーブルの上には山盛りのケーキがあるからだ。
だが、俺たちの様子に変化があった。
今まではFPS形式ということでプレイヤー視線だったことから、並んで立っている自分たちの姿もは見えなかったのだが、それに変化があった。
現在の状況を説明すると、テーブルを挟んで俺と秀子ちゃんが向き合っている。秀子ちゃんの姿は、黒いキャップを被り、胸元まで無造作に伸ばした髪で白いTシャツにデニム素材のショート丈オーバーオールだった。つまりゲーム前の姿になっている。
そして俺も目が覚めるような鮮やかな青い柄物のTシャツと女性らしい色使いのショートパンツ姿だったのだ。
つまりVRゲームに実在の姿で登場してしまっている状態だ。
「……これは秀子ちゃんの神力。……大丈夫なの?」
「問題ない。神子恵以外には今まで通りにしか見えてない」
なるほど。
つまりはこのお菓子の家だけは異空間なのだろう。それを秀子ちゃんの神力が創った。そして同じ女神である恵ちゃんだけは見えていると言いたいのだろう。
(……秀子ちゃんっ。やってしまいましたねっ)
(神子恵。……でも他の人には見えてない。なので無問)
秀子ちゃんは俺と恵ちゃんに説明する。
どうやら他の人たち、つまりは彩花ちゃんや沙也加ちゃんたちには今まで通りのネズミを倒すゲームをプレイし続けているように見えているらしいのだ。
(秀子ちゃんっ。これからなにをするつもりなんですかっ?)
(私は戦う。ダイキチーナと勝負)
そう言った秀子ちゃんは手近にあったチーズケーキを掴み、俺に向かって振りかぶるのであった。
意外と緩いゲームだったのです。(`・ω・´)∩
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。