437話 なぜか村長は知っているのです。
基本二日置きの更新(18時)とさせて頂きます。
どうぞよろしくお願いいたします。
やがて劣化龍の黒焦げの死骸は光の粒となって消えた。残されたのは大量の銀貨だ。
それを拾うと500枚以上あった。
まあ、お金はあって困るものじゃないので、俺はアイテムボックスにしまうのであった。
「じゃあ、村に戻るか」
「そうですねっ。……えっと、劣化龍の件も報告するんでしょうかっ?」
「した方がいいんじゃない? 下手すれば村が壊滅した訳だし」
「だな。じゃあエラー・ヒューマンの件と合わせて報告するか」
そして俺たちはイチバーンメの村に向かって街道を戻る。それからしばらくしてもう見慣れたとも言える村へと到着したのであった。
村の入口の門でまたもや村長が立っていた。ご丁寧に俺たちを待っていてくれたようだ。まあ、この辺りはゲーム世界だからな。いったい何時間ここにいたのか不明だがご苦労なことだ。
「おお、勇者様、使徒様、従者の方、お待ちしておりました。エラー・ヒューマンを討伐してくださり、ありがとうございます。これで村人も安心して暮らせます」
村長はニコニコ顔で感謝してくれる。それを見てメグミが俺の袖を引っ張る。
「まだ私たちが報告していないのに、どうして村長さんは知っているんでしょうかっ? しかもエラー・ヒューマンって名前まで知ってますよっ?」
「まあ、ゲームのお約束だな。なぜか伝わっているんだ」
「変な感じね。でも報告の手間が省けたからいいんじゃないかしら」
確かに最初は違和感あるよな。俺もこのスピリット・クエストシリーズを始めたばかりの頃は画面に向かってツッコミを入れていたくらいだしな。
そして突然に村長が顔を両手で覆い嘆き声を出しながら俯いた。
なにごとと思っていると、村長は俺たちを見ながら口を開くのであった。
「おお……。なんてことでしょう。なんと街道に謎の大蛇が出たそうです。このままだとこの村は大惨事に見舞われることでしょう……」
村長は青白い顔で嘆いていた。まるでこの世の終わりを察したかのような絶望に包まれた表情で嘆きの声を、ぉぉぉ、と漏らしていたのだ。
だが、その後一瞬で表情を明るい笑顔に変えたのだ。
「……おお、なんてことでしょう。なんと勇者様、使徒様、従者の方、ありがとうございます。まさか劣化龍を討伐してくださるとは」
が、やがて朗らかな表情になり感謝を述べてくる。なんとも目まぐるしい態度の変化だ。おそらくこの時点で情報が上書きされて更新されたのだろうな。
「これもお約束なんですねっ」
「そうね。辻褄は合うけど、やっぱり妙な感覚がするわ」
メグミとロキがそう言うが、慣れてもらうしかない。
「もうこれで、勇者様たちがこの村でお願いすべきことはすべて解決してくださりました。後は王都へと向かわれるのがよろしいかと」
どうやら3つの案件、エラー・ヒューマン討伐と嫁問題と少女ライラ救出、そして突発案件である劣化龍討伐が、このイチバーンメの村でのすべてのイベントだったようだ。
そして俺たちはこの村を去ることにした。
見送りには村長だけでなく、新たに移住してきた家族たち、そして救出したライラとその母親も来てくれた。
こういう演出は気持ちがいいものだ。俺たち3人は手を振りながら村の門を出るのであった。
「で、次は王都へ向かうのだが、今日はこの辺でログアウトしようと思う」
「そうですねっ。けっこう長い時間プレイしちゃいましたしねっ」
「そうね。これから王都まで行ったら時間がかかるわよね」
3人の意見が一致したことで、俺たちは門のすぐ側にある半透明の青い柱、つまりセーブポイントに触れ、これまでのゲーム内容をセーブし、ログアウトを選択する。
すると瞬間に周囲の景色は崩れ、俺たちは現実世界へと戻るのであった。
村長はすべて知っているのです。(`・ω・´)∩
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「師匠を追いかけて_~転倒魔法しか使えません~」連載中
「生忌物倶楽部」連載中
「夢見るように夢見たい」完結済み
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。