416話 精霊の使徒の登場なのです。
基本一日置きの更新(18時)とさせて頂きます。
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それから直後のことだった。
両側が高い岸壁に覆われていた視界が一気に開けた。山頂に到着したのだ。すると麓のはじまりの村だけじゃなくて、その奥に広がる山々と森、うっすらと伸びる街道、そしてそのずっと奥にはキラキラ光る海が見えたのだ。
「見事な眺めだな」
「キレイですねっ。いつまでも見ていたい風景ですっ」
絶景だった。
確かにメグミが言う通り、俺もこのままいつまでもこうして眺めていたい。だが、俺たちには目的があるのだ。
「まあ、ここにはまた時間があるときに来ればいいだろう。それよりも祠だ」
「そうでしたねっ。目的を忘れるところでしたっ。じゃあ、ちゃちゃっと行きましょうっ」
俺とメグミは背後を振り返る。
するとそこには真っ白な石で作られた細工が細かい祠があった。いや、祠と言うにはちょっと大きいな。人の背丈ほどはあるのでミニサイズの神殿って言ったところだ。
俺とメグミは神殿の正面に周り、そこで並んで立つ。
が、そこで2人して、しばし固まってしまう。
「……なあ、なんて文言を言えばいいんだ?」
「……そう言えば長老さんから教わっていないかったですね」
儀式なのである。
そのことからすでに決まっている文章があって、それを口にしないといけないんだろうが、あいにく俺たちはそのことを教わっていないのだ。
だが、大丈夫だった。
なんと神殿の方から声がしたのだ。
「私は精霊メロロロンの使徒。……勇者ダイキチ、そして幼馴染のメグミ、よくぞ来た。お前たちは今日、成人を迎えた――」
姿は見えないのだが若い女性の声が神殿の方から、そう聞こえたのだ。その声は成人としての覚悟や守るべき行為などを延々の述べ続けている。
正直、特に拝聴するような内容ではない。当たり前のことを並べているだけだ。だがそこで女性の口調が変わった。力強い声で俺たちに訴えかける。
「――そして大事な使命があるのです。ダイキチ、そなたは勇者なのです。この世界を滅ぼす魔王を倒しなさい。そしてメグミ。そなたはダイキチを守りながら共に旅をするのです」
おお。なんかRPGゲームっぽくなってきたな。なんかワクワクしてきたぞ。
……だが、そのとき俺はあることに気がついた。
「……ちょっと待て。この精霊の使徒の声、聞き覚えがあるぞ」
「そうですかっ……? ああっ。なるほどっ、この声は呂姫ちゃんですっ」
そうなのだ。
最初は改まった文言を抑揚なく滔々と述べていたので気が付かなかったが、これは間違いなく辻神呂姫ちゃんの声だったのだ。
「おい、呂姫ちゃんなんだろ? 声でわかるぞ!」
俺は精霊の使徒の話をぶっ千切って叫んだ。すると使徒は無言になった。そのまま静寂が続く。
さて、これからどうしたものかと考えているとミニ神殿が真っ白な光りに包まれて、それが収まるとひだの多い純白の貫頭衣を着て頭に銀色のティアラに似た飾りを被り、首からロザリオのような首飾り(だが十字架ではなく漢字の”木”の形のシンボルだった)を着けた女性が現れた。
「……せっかく役に成り切っていたのに台無しよ」
肩まで伸ばしたその金髪碧眼。やっぱり呂姫ちゃんだった。その衣装は神々しいので精霊の使徒の正装なのだろう。
「やっぱり呂姫ちゃんでしたっ。その使徒の役は自分から望んでなったのですかっ?」
メグミが問うと精霊の使徒は首を左右に振る。そして少し考える顔つきになった。
「不思議なのよね。気がついたらこの祠にいて、しばらく待っていると加茂くんと神子恵の姿が見えたの。……そうしたらいつの間にか使徒役を演じていたのよ」
なるほど。俺が勇者、恵ちゃんが勇者の幼馴染のメグミ、で、呂姫ちゃんは使徒という割り振りが事前に割り振られていたのだろう。
割り振ったのはもちろんこのスピリット・クエストに似た異世界を創った神の誰かだろうな。
使徒は呂姫ちゃんだったのです。(`・ω・´)∩
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「勇者パーティを追いかけて_~転倒魔法しか使えません~」連載中
「生忌物倶楽部」連載中
「夢見るように夢見たい」完結済み
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。