409話 プールの真ん中での抱擁なのです。
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「えへへ。作戦成功だね。驚いたでしょ?」
そう、あっけらかんと述べた河合さんは開いた花のような笑顔を見せて俺にギュッと抱きついて来たのだ。そして両手を伸ばし、俺の背中に交差させてしまったのだ。
すると、そうなのである。呂姫ちゃんクラスのたわわな胸が俺に押し付けられている訳で俺は思わずのけぞってしまう……。
……や、柔らけえ~。クニャクニャじゃねーか……。き、気持ち良すぎるだろう~!
「あれれ? なにか感じるのかな?」
「……う、ぐぐぐ。……な、なんでもないぞ」
そんなことはない。だが、認める訳には意地でもいかないのだ。
俺はチラリと下を見る。すると真っ黄色のビキニから漏れ出そうにひしゃげて俺に密着している河合さんのたわわがあった。
そしていたずら顔で俺を上目遣いで見上げる河合さん。
「私、加茂くんと、ずっと、こうしたかったんだ……。やっと叶った」
「……えっ!」
そりゃそうだ。
河合さんとは確かに教室であれこれよく喋る間柄だ。だが、河合さんはいつも俺とはただのクラスメートとしてしか接していなかった。熱い視線や頬を朱に染めた視線で俺を見たことは決して一度もないのだ。
……おかしい。
俺は誰かの介在を疑う。誰かが意図して河合さんをこういうふうに操っているのだ。そしてこれは恋愛に絡むもの……。
うん、間違いない。
だが、まずはこの状態を打開しよう。
「ちょ、ちょっと河合さん、離れようよ。ここプールの真ん中だよ」
「イヤ~だよ。……もっとずっとこうしていたいんだ」
俺は河合さんのその細い両肩を掴む。そして引き剥がそうとするのだが、思いの外、河合さんは力が強い、しかも河合さんはイヤイヤと首を左右に振って拒否の構えを解かないのだ。
かくなる上は……。
俺は後方を振り返った。
すると目標、と言うか元凶がやって来るのが見えた。どうやら呂姫ちゃんだけじゃなく、高速犬かきは相当速いようで新井も澤井さんも抜いてトップで折り返しターンをしてこのコースに戻って来たのであった。
そして元凶は俺からそっぽを向きながら、何食わぬ顔をして俺の右横を犬かきで通過しようとした。
馬鹿である。もうお前が元凶なのは見え見えだ。
追い越そうとする瞬間、俺の右手が唸りを上げた。一撃必中の手刀が水面より常に出ているおでこにヒットしたのだ。
「はう。……痛いですっ!」
俺の一撃を食らった恵ちゃん。頭が一瞬のけぞってバランスを崩し、その場で立ち止まってしまう。
小柄な恵ちゃんなので、プール底に足はつくが、水面から出ているのは頭だけで、しかも口が水に沈まないよう顎を思いっきり上げて天を見上げる姿勢になっていた。
「だ、大吉さんっ。な、なにをするんですかっ」
「お前が神力を使ったからだ。その報いと思え」
「くぅ。せっかくの子宝のチャンスだったのにですっ」
恵ちゃんは心底残念そうな顔になる。
まあ、神力は解けたし、恵ちゃんが男女のことで暴走するのは子宝の神としての本質なんだろうから、これ以上の仕打ちはなしとしよう。
そして俺はキョトンとして呆けている河合さんの両肩を押し、そっと距離を取らせる。すると意識が戻ったのか、ハッと我に返った河合さんが俺を見、恵ちゃんを見、周囲をぐるりと見回したのだ。
「……わ、私、なんかしてた? どうして加茂くんたちとプールの真ん中で立っているの?」
「河合さんは俺を追い抜こうとして激突してしまったんだ。河合さんは背泳ぎだったろ? だから前がよく見えていなかったみたいだな」
「……そっか。……うん、そう言えばそんな気がしてきた。加茂くん、ごめんね」
「いいよ。わざとじゃなくいんだから」
そうなのだ。
決してわざとじゃない。なぜならば河合さんは恵ちゃんの神力で操られていただけなのだ。……そして俺もいい思いをさせてもらったので、これでよしとして互いに忘れることにしよう。
そう思うのであった。
恵ちゃんは懲りないのです。(`・ω・´)∩
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私の別作品
「勇者パーティを追いかけて_~転倒魔法しか使えません~」連載中
「生忌物倶楽部」連載中
「夢見るように夢見たい」完結済み
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。




