398話 味気ないバトルなのです。
基本一日置きの更新(18時)とさせて頂きます。
どうぞよろしくお願いいたします。
俺とメグミは岩だらけの山道を登り始めた。両側が小高い崖なので景色が良い訳ではない。いちおう剣を持っている俺が先頭だ。だが、ここで魔物が現れたとしても俺には戦える自信がない。
メグミは守ってくれると言っていた。情けないがそれに期待しよう。
「――ああっ! 茂みの向こうからなにか現れましたよっ」
突然にメグミが叫ぶ。
見ると確かにこんもりとした茂みの向こうから何者かが現れるのがわかった。
魔物だ。
それはこの手のゲームでは定番中の定番雑魚であるスライムで、2匹が登場した。スライムは不定形のブヨブヨした緑色の半透明ゼリーみたいな小柄な魔物で攻撃力も防御力もそれほど高くない。落ち着いて対処すれば問題ない相手だ。
「あのスライムを俺が剣で叩けばいいんだな?」
そう宣言すると俺は腰に佩いた”旅人の剣”をスルリと抜き両手で構える。う~ん。なんか冒険者っぽくてカッコいいな……。
「いえっ。その必要はありませんっ。――ほにゃらっ!」
メグミが謎の呪文を唱えた。するとスライム2匹が突然に掻き消えた。まるで最初からそこにいなかったかのようだった。
「……なにをしたんだ?」
「神力ですっ。異物を消去しただけですっ」
「その神力に名称はあるのか? なにか技名っぽいようなヤツだ」
「ありませんっ。神力の初歩の初歩ですっ」
なんだか肩透かしされたような反応だった。相手はいちおう魔物なのだ。もっと戦いらしい戦いがあっても良さそうなものだが、バトルの緊張も駆け引きもなにもない一方的過ぎる展開であった。
もっとバトルには攻撃したり避けられたりダメージを受けたりとかの緊迫感があってもいいはずなのだが……。
「……ちなみに経験値は入らないみたいだな。……とするとこの世界はレベル制でもないってことだな」
「なんですかっ? それはっ?」
「ああ。……こういうRPGゲームには敵を倒すと経験値という数値が加算されるんだ。それが一定量貯まるとレベルが上がる」
「……よくわかりませんっ」
「だよな……? レベルには体力の数値と魔法の数値が表示される。それらがなくなると死んだり、魔法が使えなくなったりする。そしてレベルが上がるとそれらの数値の最大量も増えることから冒険を進めるのに有利になるんだ。そのことから魔物はできるだけ倒す必要がある」
「なるほどですっ。……でも今のスライムとかいう魔物を倒しても経験値ってのは、手に入らなかったんですねっ?」
「だな。つまりこの世界はRPGゲーム『スピリット・クエスト』そっくりだが、まったく同じではないってことだ」
「誰かが真似して創った世界ってことですねっ」
「ああ。おそらく神力だろうな。以前、臥留子ちゃんが祠の中に世界を創造したように、この世界も誰かが創ったんだろうな」
「まあ、そんなことができるのは神々だけですねっ」
そうなのだ。
なので俺は恵ちゃんの知り合いの女神たちに問い合わせをしてもらったのだ。だが、呂姫ちゃんと集子ちゃん、いちおう知り合いってことで眠京太郎に聞いてもらったのだが、みんな知らないとの返答だった。
そして臥留子ちゃんと秀子ちゃんにもメールなどで問い合わせをしたのだが、未だに返事がない。
「ああっ! こんなところにお金が落ちてましたよっ」
見るとスライムたちがいた場所でメグミが銀色の硬貨を拾っていた。見たことのない銀貨だったがこの世界の通貨なのだろう。数えると4枚だった。
「それはもらっておこう。スライムを倒したから出たんだろう」
「なるほどですっ。つまりこの世界では魔物を倒しても経験値とかいう数値は増えないですが、お金は出るんですねっ」
そういうことなのだろう。経験値やレベル制はなくても冒険はできるが、さすがにお金がないと飲食や宿泊、武具の購入とかができないからな。
「……あの実はさっきから気になっていたんですけどっ……」
「うん? なんだ?」
「私たちって元の世界にどうやって戻れるんでしょうかっ?」
「……それは見落としてたな」
メニュー画面はないのだ。そこから戻ることはできない。だとするとセーブポイントがあれば、そこでゲーム終了で元の世界へ帰れる気がするな。
「後で村に戻ってから調べてみるか……」
「そうですねっ。今は頂上を目指しましょうっ」
そして俺とメグミは山頂の祠を目指して旅を再開するのであった。
メグミがチート過ぎるのです。(`・ω・´)∩
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「勇者パーティを追いかけて_~転倒魔法しか使えません~」連載中
「生忌物倶楽部」連載中
「夢見るように夢見たい」完結済み
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。