371話 再びの巨大な畳の空間なのです。
基本一日置きの更新(18時)とさせて頂きます。
どうぞよろしくお願いいたします。
「どうやら追いつきそうだな」
「はいっ。二足歩行だからなのか、あまり速くありませんねっ」
そうなのだ。
普通なら人では全力で逃げる猫に追いつける訳がない。だがあの猫は後ろ足だけで走っている上に大きな柱時計を抱えているのだ。速度が出ないのだろう。
距離が縮まっていることに猫も気づいたのか、ときおり振り返っては、フギャと小さく悲鳴を上げて懸命に逃走している。
「そろそろ追いつきそうね」
「距離が縮まっているのう」
「捕獲目前」
そうなのだ。
猫は襖を開ける作業もあるので、どうしても一瞬立ち止まる必要があるのだ。それに比べて俺たちはただ開け放たれた襖を通過するだけなのでロスがない。なので距離はどんどん縮まる。
そして猫の背に手が届きそうな距離になったときだ。猫が速度を落とし立ちはだかる襖を開けたのだ。
俺たちはそろって手を伸ばす。だがスルリと逃げられてしまった。そして猫は速度をぐんぐんと上げたのだ。
「なんか速くなったな」
「そうですねっ。……って、ここ前に来ただだっ広い部屋じゃないですかっ!」
そうなのだ。
この部屋は以前に恵ちゃんと呂姫ちゃんと来たただ畳だけがうんざりとするほど敷き詰められている空間と呼べる巨大な部屋だったのだ。確か最奥部まで歩いて10分以上あったはずだ。
そして猫だ。
今はかなり速い。今まで襖を開ける作業があるために本気を出せなかっただけで、その障害がなくなった現在は全力疾走していると思われる。
「確かいちばん奥は蔵になっていたわよね」
「ふぉふぉふぉ。儂が長持で目覚めた蔵だのう」
「その先はゲーセン」
そうなのだ。
これから猫に蔵に入られてしまうと、せっかく戻ってきたこの機会が無駄になってしまう。また蔵を延々と登りを繰り返し、ゲーセンで魔物たちとの戦闘が待っている。
「なんとか蔵には入らせないようにしないとな」
「そうですねっ。あれをまた繰り返すのはまっぴらですっ」
猫との距離は開いたままだ。そして猫はまっすぐ走っている。その方向はもちろん蔵がある最奥部だ。
このままではまずい。俺たちの足では猫を止められそうにない。そう思ったときだった。猫が一旦立ち止まったのだ。そのため俺たちは急速に距離を詰めることができる。
「捕まえるぞ」
「了解ですっ」
「ちょっと待って。様子が変よ!」
呂姫ちゃんがそう叫んだ。そして見ると着物を着た猫が急に方向転換して右方向に走り出したのだ。
「あっちに曲がったぞ」
「蔵には行かないみたいですねっ」
俺たちも右に曲がり猫を追う。するとぼんやりと壁が見えてくるのがわかった。ただ一面壁だ。襖などは一切見当たらない。
「どこへ行こうとしているのかしら?」
「ふぉふぉふぉ。猫の考えることはわからんのう」
「目的があるはず」
たぶん秀子ちゃんが正解だ。
猫はなにか目的があって方向転換したはずだ。見ると猫は一瞬だけ後ろを振り返り、俺たちが追っているのを確認すると、フニャッ、と驚いたような声を上げるのであった。
何万畳もある部屋、再びなのです。(`・ω・´)∩
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「勇者パーティを追いかけて_~転倒魔法しか使えません~」連載中
「生忌物倶楽部」連載中
「夢見るように夢見たい」完結済み
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。