37話 イザってときの話です。
【毎日昼の12時と夕方の18時に更新します】
この物語は毎話毎話が短いです。
それは4コマ漫画のようなテンポの良さ、余韻を全面に打ち出しているからです。
……決して、私の手抜きではありません。
……きっと。
「えっ? どうしてですか?
イザってときはなにか食べないと困りますよっ?」
困ったことに、恵ちゃんは本気で言っているようだった。
「……あのな、俺の、
……いや、俺たちの日常生活ではクマやサルの肉は食わないんだ。
知っているだろう?」
「だから、イザってときですっ」
「そういうイザは経験したことない。
っていうか、お前は食べたことあるのか?」
「クマとかサルですかっ?」
「ああ」
すると恵ちゃんはふと考え顔になった。
そしてしばしの時が過ぎる。
「……思い出しましたっ。
あれは大飢饉のときでしたっ」
大飢饉っていつだ?
俺の頭は混乱しそうだった。……たぶん江戸時代とかだろうな。
「あるのか?」
恵ちゃんは頷いた。
「うまいのか?」
「そんなときに味なんてわかりませんよっ」
妙に説得力のある答えだった。
そして俺たちは気がついたら、
また置いてけぼりにされていたので、あわてて改札を通過した。
そして河合さんたちに追いつくと電車に乗る。
「どうしたの?
間に合わないかと心配しちゃったわ」
先に電車に乗っていた澤井さんが声をかけてきた。
「すみません。
こいつのバカ話に付き合っていたので」
俺がそう答えると澤井さんが不思議そうな顔になる。
「バカ話? なにかしら?」
俺は瞬間どきりとする。
余計なことを口走ったかと思ったからだ。
「いざってときに動物を食べられるかって話ですっ」
恵ちゃんが胸を張って答えた。
「……そうね。イノシシやシカなら食べたことあるわ」
すると河合さんと新井も頷いた。
「ええっ。
じゃあいざってときはイノシシとシカを捕まえればいいんですねっ」
途端に恵ちゃんは笑顔になる。
確かに観光地に行けばイノシシ鍋やシカ鍋なんかが売っている。
だがそれはジビエ料理であって、日常的に食するものじゃないけどな。
だけど俺はホッした。
まさかクマやサルや大飢饉の話になったらどうしようと思っていたからだ。
「まあ、いざって時だけだからな。
あっちに着いたら途端に狩猟しようなんて思わないでくれよな」
俺はいちおう念押ししておいた。
電車は偶然かも知れないが割と空いていた。
そして俺たちはボックスシートを占領することができた。
このシートは向かい合わせの四人がけなんだが、澤井さんと河合さんは小柄だし、
それに加えて恵ちゃんは更に小さいので女子は無理矢理三人で座った。
そして俺と新井はふつうに並んで腰掛けた。
「電車って楽ちんですねっ。
うわっ、速いっ、すごいっ」
車窓から外を見ていた恵ちゃんのまたまた問題発言だ。
まさか電車も初めてなんて言い出すんじゃないだろうな。
だが、そう思った俺の危惧は当たってしまった。
「神子さん、……も、もしかして電車乗ったことないの?」
河合さんが興味津々な顔つきで尋ねてきたのだ。
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「生忌物倶楽部」連載中
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」連載中
も、よろしくお願いいたします。