36話 手斧とか投網とか罠とかです。
【毎日昼の12時と夕方の18時に更新します】
この物語は毎話毎話が短いです。
それは4コマ漫画のようなテンポの良さ、余韻を全面に打ち出しているからです。
……決して、私の手抜きではありません。
……きっと。
「……ったく、と言いたいが、
俺も寝坊したからな」
俺も、走りながらため息をつくと言う器用さを発揮しながら走り続けた。
そして駅。
「遅いよ」
河合さんが両手に腰を当ててそう俺たちを指さした。
見ると澤井さんも新井もすでにいた。
どうやら遅刻してきたのは俺たちだけらしい。
「新幹線に間に合えばいいんだろ?
まだ大丈夫じゃないか」
そうなのだ。
俺たち新入生は新幹線の駅で一斉に待ち合わせと決まっている。
このローカル駅に集合したのは単に班単位だっただけに過ぎない。
「そういうのはダメ。
ちゃんと決められたことは守らなきゃ」
河合さんはやっぱり厳しい。
見ると澤井さんが口を押さえて笑っているのが見えた。相変わらず上品な態度だった。
「わかりましたっ」
恵ちゃんが敬礼のポースで返事する。
その様子を見て河合さんが満足そうに頷いた。
「ところで荷物の忘れ物は大丈夫?」
「その辺はぬかりありませんですよっ」
恵ちゃんが返事をする。
それは確かにそうだ。俺たちは昨夜ちゃんと確認して荷物を作ったからだ。
「いざってときのために、
手斧とか投網とか罠なんかも用意して来ましたっ」
「なんだって?」
俺は問い返した。
そんな物は準備した記憶がない。って言うか、
そもそもそんなものはリュックには入らないし、なにに使うのかも見当がつかない。
「冗談だとしても、頼もしいわ」
澤井さんが楽しそうに笑顔を見せた。
「ホントね。それなら大丈夫」
河合さんも笑った。
「驚いたな。そんなの持ってきたんだ?」
もちろん新井の発言は無視することにした。
でも気にはなった。
そこで俺は小声で恵ちゃんに尋ねてみた。
「……あのさ、本当に持ってきたのか?」
「ええ、そうですよっ。見ますっ?」
そう言うと恵ちゃんはリュックの口を緩めた。
すると中に、……どういう構造になっているのかはわからないが、
確かに手斧も投網も獣用の罠もしっかり入っていた。他にもなんだか物騒な物も入っている。
「……なにに使うんだ?」
「えっ? いざって時ですよっ。
ほら、食料がなくなったら現地調達しなきゃダメじゃないですかっ」
「なにを現地調達するんだ?」
俺は尋ねた。
「クマとかサルとかですよっ!」
笑顔でにっこり答える恵ちゃんだった。
「あのな、そんな凶暴な物、食えるかっ」
俺はげっそりした。
たぶん恵ちゃんは本気なんだろうと思ったのだ。
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「生忌物倶楽部」連載中
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。




