34話 格下げの可能性です。
【毎日昼の12時と夕方の18時に更新します】
この物語は毎話毎話が短いです。
それは4コマ漫画のようなテンポの良さ、余韻を全面に打ち出しているからです。
……決して、私の手抜きではありません。
……きっと。
「もしかして、
その大食い女と私が似ているって話じゃないんですかっ?」
「……さて、お釜と皿を食堂に戻すか」
俺はとぼけた。
できるならこの話題は避けたいからだ。
だが恵ちゃんには通じなかった。更にぐいと俺の裾を引っ張る力を込める。
「そうなんですねっ?
……で、その大食い女の正体はなんだったんですかっ?」
俺は観念した。
立ち上がりかけた身体を座布団に戻す。
「……山姥らしい」
俺はそう答えた。
諸説があるが、おおむね間違っていない。
すると恵ちゃんの目の両端がつり上がる。
「山姥ですってっ!
……あ、あんな、か、下等な……」
「下等なのか?」
「当たり前ですっ!
山姥って妖怪じゃないですかっ!」
「だろうな。
人間ではないのは確かだ。でもそれが問題なのか?」
「問題だらけですっ。
……私が山姥に似ているって言われたなんて他の神々に知れたら……」
「どうなるんだ?」
俺はちょっと興味を持ったので訊いてみた。
「笑われますっ。バカにされますっ。
……いいえ、それで済めばまだマシですっ。
もしかしたら私の立場が危うくなるかも知れないんですよっ」
なんだか恵ちゃんは慌てだした。
「危うくなるって、
どういう意味だ?」
「文字通りですっ。
神様から妖怪へ格下げされることもあるんですっ」
「大変だな」
「ええ、神無月に神々の話し合いがあるんですっ。
それで神様の地位の確認が行われるんですっ。
そこで行いが悪いと格下げされちゃうんですよっ」
「そうなのか?
……ん? 神無月って十月だっけ?」
「そうですっ。
そこで出雲で会合があるんですっ。
……ちなみに神々が一斉に集まるので出雲では神在月って言うんですけどねっ」
「そうなのか?」
俺は知らない神々の世界のことを少し知った。
「……でも、
ってことはお前の今までの行いは悪くないってことだな? ずっと神様でいるんだし」
「……はい。
でも最近成績が悪くて……。だ、だから私は大吉さんに幸せになってもらいたいんですっ」
「……そうだったのか?」
俺はちょっと反省した。
からかうとおもしろいのでついつい軽く接してしまうのだが、
恵ちゃんも恵ちゃんなりに一生懸命になる理由があるのがわかったのだ。
「悪かったよ。
山姥に似ているって言ったのは謝る」
「そ、そう言ってくれるんですかっ?
ちょっと感激ですっ」
涙目になっていた恵ちゃんが、
えへへ、と笑顔を見せた。
そして俺たちは食事の後片付けを済ませ、
テレビを観たりして雑談し、そして夜も更けた頃、寝ようとしていたのであった。
「……ちなみに今夜はどこで寝るんだ?」
俺は自分の寝床を用意しながら恵ちゃんに訊いた。
「よくぞ聞いてくれました。
今日は押し入れには寝ません。ちゃんと寝る場所があるんですっ」
「ほお、まさか俺の布団って言うんじゃないだろうな?」
「違いますよっ。安心してくださいっ」
そう答えた恵ちゃんは柱の側に来た。
その上には今日買ってきたばかりの神棚があった。
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「生忌物倶楽部」連載中
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。