32話 大食いです。
【毎日昼の12時と夕方の18時に更新します】
この物語は毎話毎話が短いです。
それは4コマ漫画のようなテンポの良さ、余韻を全面に打ち出しているからです。
……決して、私の手抜きではありません。
……きっと。
「お待たせですっ」
しばらく待つと威勢の良い声が廊下から響いてきた。
「うあっ、なんだそれっ」
俺は叫んでしまった。
だがそれも仕方ないだろう。
なぜならば恵ちゃんが抱えているのは業務用の炊飯器、
つまり寮の全員のご飯を炊く釜だったからだ。
「ど、どれだけ中身入ってんだ?」
「中身ですかっ。
ざっと八分目……」
俺はぐったりとしてしまった。
「それも余りなのか?」
「そうですよっ」
恵ちゃんはそう言いながら座卓の横にそれを置くと、
茶碗によそい始めたのである。
やや大きめの茶碗に大盛り。しかもあふれて落ちそうである。
「あ、あのな。
……物には限度ってもんがあるぞ」
茶碗を受け取りながら俺は答える。
「ダメですっ。
ちゃんと食べないと大きくならないですよっ。育ち盛りなんですからっ」
「そういう問題か?」
俺はこんもり盛られたご飯にげっそりしながら受け取った。
そして十分後。
「……もう食えん。限界だ」
「ええっ。
まだ全然なくなってないじゃないですかっ」
恵ちゃんが心底驚いたような声を出す。
と、言っても俺はすでにご飯はおかわりを済ませ、フライも六個ほど食べた後だ。
「ダメだ。もう夢に見そうだ」
俺は箸を投げ出した。
「もう、仕方ないですねっ。
じゃあ残りは私が食べちゃいますっ」
「マジか?」
「大マジですっ」
そう言うと恵ちゃんは、
一度止めた箸を取り直すともくもくと食べ始めた。
決して早くはない。
だが確実にご飯と大皿のおかずが消えていく。
こんな小柄な身体のどこに食べ物が入るのか、かなり疑問だ。
そして一時間後。
「さあ、食べ終わりました」
「……信じられん」
俺は異形の者でも見るような目つきで恵ちゃんを見ていた。
まあ、異形ってのは間違いないんだが……。
「出されたものはちゃんと食べる。
それが私のモットーですっ」
さらりと怖いことを言う。
「……あのさ、
お前、飯食わぬ女房って知ってるか?」
俺は昔話を持ち出した。
「飯食わぬ女房?
どっかで聞いた記憶がありますね」
「お前の大食いを見たら思い出したんだ」
「気になりますね。教えてください」
恵ちゃんはそう言う。
だから俺は語り始めたのであった。
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「生忌物倶楽部」連載中
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。