30話 処分品です。
【毎日昼の12時と夕方の18時に更新します】
この物語は毎話毎話が短いです。
それは4コマ漫画のようなテンポの良さ、余韻を全面に打ち出しているからです。
……決して、私の手抜きではありません。
……きっと。
「うー。でも……」
恵ちゃんはどうにもあきらめきれないようで、
俺をじとっとした目で見る。
そうなると俺も弱い。
「……でもなあ、
今月の食費にも影響でそうだしな」
俺は現在は仕送りの身なのである。
バイトでも始めれば経済状況もまた違うなのだろうけど。
そのときだった。
「あっ! 大吉さんっ。
信じられないですっ。ラッキーですっ」
突然に恵ちゃんが叫んだのだ。
「な、なにがラッキーなんだって?」
俺が問い返すと、
恵ちゃんは俺の手を引っ張り神棚を指さす。
「ざ、在庫処分品ですっ。
本当なら一万五千円のところが七千八百円だそうですっ」
本当だった。
さっきは造りの見事さだけに目を奪われていたのだが、
見れば赤札がしっかり付いていたのだ。
「本当に七千八百円なのか?」
俺は急に不安になって、札を確かめる。
「間違いありませんっ。
神具付きでずばり価格ですっ」
確かにそうだった。
だが俺はそれでも心配だったので、
通りすがりの店員に声をかけて確かめてみたのだが、間違いなく処分品だそうだ。
それで俺はレジへとその神棚を運んだと言う訳だった。
「……でも本当にいいのかな」
「なにがです?」
帰り道のことである。
俺が神棚を持ちながら尋ねてみた。
「処分品だぞ。
ご利益あるのかな?」
「大丈夫ですっ。
価格よりも見た目ですっ」
「なお悪いだろうがっ!」
「いいんですっ。
大吉さんが買ってくれたってのが嬉しいんですっ」
そう言うと恵ちゃんは満面の笑みを浮かべたのである。
なんともかわいい顔だった。
そして俺たちはやっと神武寮に到着したのであった。
すでに日はとっぷりと暮れていた。
「まずは食事にしよう。
食堂に行こうか」
食堂が終わる時間が迫っていたので俺はそう提案したのだ。
だが恵ちゃんはちょっと不満げな顔だった。
「えー。
せっかくだから神棚を取り付けたいですっ」
「でもなあ、
飯、終わっちまうぞ」
「うー。それは困ります。
……あ、こうしましょう。大吉さんは神棚を取り付けちゃってくださいな。
私は食堂に行って大吉さんの分まで取ってきますっ」
そう言うのだ。
ならば断る理由はないだろう。
で、俺は梱包をほどいて、
恵ちゃんは階下へと降りていったのだ。
「ふう。なんとかなったな」
踏み台を降りた俺はそう言って汗を拭った。
取り付け金具をちゃんと使って天井近くの梁のところに神棚を設置したのだ。
「なんとかなるもんだな」
俺は正直言って大工仕事は苦手だ。
実家にいたときだってトンカチひとつ握ったこともない。
だが一生懸命やればなんとかなるもんだ。
俺は我ながら我が仕事を感心しきりでながめていた。
……そのときだった。
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「生忌物倶楽部」連載中
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。