213話 見晴台です。
基本一日置きの更新(18時)とさせて頂きます。
すみませんが、どうぞよろしくお願いいたします。
それからしばらく登山したときだった。
たぶん歩き始めてから一時間くらい経過したときだ。
なのでだいたい半分くらいの道のりだろう。
「ああっ、見てくださいっ」
恵ちゃんが登山道からそれた脇道を指さした。
「たぶんこの先に見晴台があるんですよっ」
そう言って恵ちゃんは列を抜けて、そちらに向けて歩き始めてしまったのだ。
「おい。勝手に行くな」
俺はそう声をかけたのだが、恵ちゃんの足は止まらない。
「なに? なにかあるの?」
「なにかしら?」
それに気づいた先頭を歩く河合さん、そして澤井さんも引き返してきた。
「いったいどうしたのかしら?」
澤井さんが俺に尋ねる。
「なんか見晴台があるんじゃないかとかなんとか言って、さっさと行ってしまったんだ」
「へえ、見晴台? ちょっと行ってみる?」
河合さんがそう言った。
驚いた。
てっきりペースを乱すとか言って恵ちゃんの単独行動を注意するかもと思っていたからだ。
「……僕も行ってみようかな」
すっかり忘れていた。
そう言えばこの新井もいたんだった。
そんなこんなで俺たち四人は恵ちゃんの後を追って脇道へと進むのだった。
■
「見てくださいっ。すごい眺めですっ」
俺たちが到着すると恵ちゃんはすでに待っていた。
やはりそこには見晴台があったようで、転落防止の柵があり、側にはベンチとテーブルもあった。
「ホント、すごい眺め」
「ええ。いい景色だわ」
河合さんと澤井さんも眺めを見て、感嘆の声をあげている。
そこは確かに絶景だった。
両脇には山が連なり、その間の麓には街が広がっていた。
街の奥の方を見ると遠くに都会のビル群まで見える。
「風が気持ちいいですっ」
「そうだな」
風が吹いて恵ちゃんのそれほど長くない髪を揺らす。
実に心地よい風だった。
「来て良かったよ」
「ええ。神子さん、お手柄ね」
「えへへ。それほどでもっ」
河合さんと澤井さんに褒められて恵ちゃんは嬉しそうだった。
俺は柵の縁まで歩み寄った。
そして身を乗り出して下を見る。
「うわっ。崖だ」
真下は崖だった。
そのときだった。
「ねえ、加茂くん。危ないよ」
「そうよ。落ちたら大変よ」
気がつくと俺の両隣に河合さんと澤井さんがいた。
しかも俺の手に腕を絡めているのだ。
「ねえ、どう思う?」
「感想、聞きたいわ」
俺は河合さんを見て、そして澤井さんを見る。
二人はなんだかうっとりとした様子で俺を上目遣いで見ていたのだった。
いきなりの接近なのです。(`・ω・´)∩
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「生忌物倶楽部」連載中
「夢見るように夢見たい」完結済み
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。