159話 殴打なのです。
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そして群がってきたゾンビたちで、脅威度の高い、つまり接近までの距離が短いヤツから叩く。
あるゾンビは首が真横に折れ曲がって動きが鈍り、あるゾンビは首を吹き飛ばされて戦闘不能になる。
「とりあえず、私がこの場をなんとかするから、呂姫ちゃんは距離を取って射撃に専念して」
俺はそう言って呂姫ちゃんにアドバイスを送る。
まずは間合いを取って射撃しやすいポイントに下がってもらう必要があるからだ。
「わかったわ。まずは後ろに下がるわね」
呂姫ちゃんはそう返事をして、さっそく警察官の青年を操作して後方へと下がらせた。
「下がったら、ショットガンでも拳銃でもいいから撃ってくれる?」
「いいわ。してみる」
そしてある程度の距離を作った呂姫ちゃんは、ショットガンを腰に戻し拳銃に持ち替えた。
「あんまり近いとダイキチーナちゃんにも当たっちゃうから拳銃にするわ」
そして射撃を始めたのである。
――ダーンッ!
――ダーンッ!
――ダーンッ!
三連射した。小気味の良い音がスピーカー、ヘッドセットの両方から流れる。
俺と呂姫ちゃんだけならサウンドはヘッドセットだけで良いのだか、ここには観客のみなさんたちも大勢いる。
なので、外部スピーカーからも音楽も各サウンドも聞けるようになっている。
だが……。
「おい、また外れだぞ」
「この距離で一発も当たってないな」
「ここでデモプレイするくらいだ。素人って訳じゃないんだろ? 緊張でもしてるのかな?」
「……二人ともかわいいから、俺は別にいいけどな」
お客さんたちからのそんな声が聞こえてきた。
……まずい。
呂姫ちゃんの射撃が戦力になってなくて、ゲーム展開が窮地なのもそうなのだが、わざわざPCショップでデモプレイをしているのに弾が当たらないと言う下手くそ加減から、呂姫ちゃんの実力が疑われているのがピンチなのである。
……やっぱり俺が警察官役をすべきだったな。
そんな後悔の気持ちがムクムクと起き上がって来てしまっている。
だが、今更それを指摘しても仕方ない。
ゲームとは与えられた戦力で戦うものなのである。
……クソッ。
俺は行動範囲を広げた。
ただ目の前にいるゾンビだけでなく、呂姫ちゃんの方角へと向かうゾンビたちにも攻撃を加える。
むろん呂姫ちゃんを守るためだ。
銃を撃っても当たらない呂姫ちゃんは戦力になっていないからだ。
だが、そのときだった。
「うりゃ~っ!」
画面端のゾンビが数体吹っ飛んだ。
「なにごとっ?」
俺はチラリとだけ視線をそちらの方へと向ける。
「う、嘘でしょっ!」
驚愕だった。
撃っても弾が当たらない警察官の青年がゾンビを殴打していたのだ。
しかも警察官の青年が手に持っているのはショットガン。
銃を逆さに持ち、つまり、銃口の方を手に持ち、肩当てと言うかグリップというか、持つ方でゾンビを叩きのめしていた。
つまりショットガンを銃器としてでなく、打撲武器として使っているのだ。
俺はこのゲームをかなりプレイしているが、こんなシーンは見たことがない。
俺の知らない裏技でもあったのだろうか?
呂姫ちゃんが操る警察官は迫りくるゾンビたちを次々と殴打して倒している。
しかもその戦闘力は圧倒的で、押されていた勢いを完全に押し上げている。
「す、すげーっ!」
「あの警官、あんな戦い方できたんだ」
「初めて見るぞ。裏技かもな」
「まあ、別に銃で殴るのもありだよな」
見ているお客さんたちから、称賛の声が上がった。
これで呂姫ちゃんは役立たずのポンコツと言うイメージはすっかりなくなったに違いない。
呂姫ちゃんの戦い方にびっくりなのです。(`・ω・´)∩
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「生忌物倶楽部」連載中
「夢見るように夢見たい」完結済み
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。