110話 逃げるが勝ちなのです。
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「やりましたっ。またまた優勝ですよっ」
一年生の観客席に戻った来たときだった。
一位でゴールしてきた恵ちゃんはそのまま集子ちゃん、臥留子ちゃん、呂姫ちゃんの女神たちをハイタッチを交わしている。
「ふぉふぉふぉ。これでまた団体競技の優勝で十万円の商品券ゲットじゃ」
とってもかわいい声なのに、ざんねんなジジイ言葉の集子ちゃんがそう言う。
「……これで……新しい……和服にまた一歩……近づいた……」
新しい着物が欲しい臥留子ちゃんは無表情ながらもどこか笑顔に見える。
「スマホがいいかな? それともゲーム機がいいかな?」
取らぬ狸の皮算用のように呂姫ちゃんはどちらが欲しいか算用している。
「次の競技はなんなんだ?」
俺が誰に問うともなく尋ねた。
「次は……騎馬戦ね」
するとクラスメートの澤井遙香さんが答えてくれた。
「騎馬戦はやっかいね。敵が二年生、三年生だけじゃないから……」
澤井さんの言葉に重ねるように学級委員の河合香菜さんが付け加えてくる。
「やっかい? なんだそれ?」
俺は引っかかりを感じたので更に質問した。
すると河合さんがしっかり答えてくれる。
「騎馬戦は一般参加がアリなんだ。だから商店街の人たちとか、保護者の人たちとかも参加するんだよ」
「ははあ。……だとすると?」
「そうなんだよ。今は学年別で一年生がリードしているから、たぶん二年生、三年生だけじゃなく、一般の人たちも一年生を狙って来る可能性があるんだよ」
……なんてこったい。
「ただ、騎馬戦は男女別だから、どちらかが優勝できれば一年生が総合優勝できる可能性は高いわ」
澤井さんが補足解説をしてくれた。
「なるほどなあ……」
するとここでお約束が来た。
体育祭実行委員がやって来て、騎馬戦出場予定の一年三組の男子が足を捻挫してしまったので、二組から代役を立てて欲しいとの要望だった。
で、結局俺が出ることになった。
そしてこれまたお約束で恵ちゃんの額に俺は手刀を落とすことになった。
「……はう。毎度のことながら痛いですっ」
「なら、するな」
こんな馬鹿げた会話をしながらだった。
■
そして騎馬戦が始まった。
最初は男子の騎馬戦で、各学年から二チーム。これに一般の二チームも加わるので合計八チームで競われることになる。
「……僕、荒事向きじゃないんだけど、大丈夫かな?」
騎馬の上で大将役になった新井慎一が気弱そうに言う。
「仕方ないだろ? 俺よりお前の方が小柄なんだから」
俺は騎馬役三名のうち正面の馬首役を務めている。
左右は一組と三組のヤツらなのだが、ざんねんながら俺は顔も名前も知らない。
「位置について。よーい――」
――ダーンッ!――
開始の合図が打ち鳴らされた。
俺たちは敵を求めてグランドの中央に向かって騎馬を進める。
「……な、なんかヤバそうだよ」
頭上の新井がそう告げた。
見ると俺たちの騎馬に向かって、周囲にいた数騎が徐々に近づいて来るのだ。
「包囲されてるのか……?」
「うん。そうみたいだね」
俺の質問に新井が答えた。
どうやらそれが正解のようだ。
やっぱり学年首位の一年生は狙われると言った河合さん、澤井さんたちの会話の内容は本当だったようだ。
右側を見ると青い学年カラーのハチマキをした二年生。正面を見ると黄色い学年カラーの三年生。そして左側を見ると黒いハチマキをした商店街なのか保護者なのかは不明だが、簡単に言えば大人の騎馬が俺たちの方へとじりじりと距離を詰めてきているのだ。
「……逃げるぞ」
俺の言葉を合図に俺たち一年生チームはグランドの隅の方へと移動を開始したのであった。
大吉さんは慎重派なのです。(`・ω・´)∩
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「生忌物倶楽部」連載中
「夢見るように夢見たい」連載中
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。