107話 ガチャガチャガチャ。走るのには重すぎるのです。
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そしてバトンを受け取った新井が走り出した。
しかし懸命に走っているのはわかるのだが、同着でスタートした三年生男子にスタート直後にはもう差をつけられている。
そしてその差はどんどん開いて行く。
三年生男子の足は速かった。
そして新井の足は自己申告通りに遅かった。
「……きついな」
「そうですねっ。差がどんどん開いちゃいますっ」
しかもそれだけではない。
後方でバトンを受け取った三位の二年生のランナーが猛ダッシュして新井を追って来ているのだ。
「あの二年生男子、三年生以上に速いんじゃないか?」
「みたいですねっ。新井さんだけがダントツで遅いですっ。
これは駄目ですっ。困りますっ」
恵ちゃんははっきりとそう言い切った。
そこには慰めの気持ちなどなにもない。あるのは実力差の真実と団体競技優勝の際に渡される十万円の商品券だけだ。
「……だけど、俺も新井と同じくらい遅いぞ。申し訳ないが最初に言っておくからな」
「大吉さんのときは大丈夫ですっ。私がなんとかしますからっ」
そう答えた恵ちゃんは側にいる呂姫ちゃんを見る。
「わかってるわよ。慎一は私がなんとかするって言ったでしょ。大丈夫。ちゃんと策は考えてあるから」
腕組みをしてたわわを押し上げた呂姫ちゃんは、ちょっとふんぞり返って偉そうに言う。
……だが策ってなんだろう?
呂姫ちゃんは相手を水着姿にするのに特化しているように思う。
だけど今走っているのは新井を含めて全員男子だ。
走っている男子を水着姿にしても立ち止まってしまうほどに驚かないと思うぞ?
ハイレグ超ビキニ姿にされた女子じゃないのだ。
男はそんなことじゃ足を止めやしない。
「ああっ。新井さんが抜かれちゃいますっ」
恵ちゃんが叫んだ。
見るとスタート時には遥か後方だった三位の二年生男子ランナーが、鈍足の新井に追いついてしまったのだ。
「三位になってしまいましたっ」
恵ちゃんが絶望的な声を上げる。
先頭の三年生男子ランナーはすでに最終コーナーを曲がり、二位の二年生男子ランナーも最終コーナーに差し掛かっている。
そのときだった。
邪神:辻神呂姫ちゃんが両手を使い、忍者が印を切るような仕草をしたのだ。
「……なんとっ!」
驚いた。
見ると先頭を走る三年生男子とすでに三位の新井を引き離しにかかっている二位の二年生男子の姿が変わったのだ。
――ガチャガチャガチャ。
走る度に硬い金属音がする。
いや走ると言うより早足程度の速度しか出ていない。
それもそのはずで、三年生男子ランナーと二年生男子ランナーともにいつのまにか全身、金属甲冑を着ているのだ。
それも中世ヨーロッパで騎士が着ていたヤツと同じもので、丁寧に面まで降りているのでその表情はうかがえない。
だがその重くて動きづらい金属甲冑のせいで速く走ることが不可能になっているのは事実だ。
これならば新井の方が速い。
かなり離されていた新井がぐんぐん追い上げた。
そして三位でのゴールには違いなかったが、一位の三年生、二位の二年生とほぼ同着でのゴールとなったのだった。
そしてゴール後はもちろん呂姫ちゃんの神力は解けたので甲冑もその記憶も三年生、二年生ランナーたちから消えてしまっている。
「慎一が、がんばってくれたから、私もがんばるね」
そう言った次のランナーの邪神:辻神呂姫ちゃんは新井からバトンを受け取るとダッシュした。
呂姫ちゃんの足はそこそこで三年生女子ランナー、二年生女子ランナーたちとほぼ団子状態でスタートして、その後も遅れる様子はない。
「神力を使わないでこのままでも行けるんじゃないか?」
「わかりませんよっ。呂姫ちゃん、途中でバテるかもしれませんしっ」
第一コーナーを曲がってストレートになったときだった。
「……みたいなだ。お前の予感が当たってしまったぞ」
そうなのだ。
それまで団子状態でペースを守っていた呂姫ちゃんがいきなり遅れ始めたのだ。
どうやら瞬発力はあっても持久力はないらしい。
「まあ、あの邪神ですっ。なんらかの策はあると思いますよっ」
恵ちゃんはそう確信を持って言うのであった。
西洋甲冑は走るのには不向きなのです。(`・ω・´)∩
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「生忌物倶楽部」連載中
「夢見るように夢見たい」連載中
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。