100話 またもや乱舞なのです。
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そしてグランドに到着した。
すでに他の選手たちは集まっていて、最初の走者になる二人組はそれぞれを右足左足をしばっている。
これが作法なのかどうかは知らんが、右側が男子、左側が女子になるようだ。
そして一年の最初の走者は金尾集子ちゃんだった。
集子ちゃんはその細くて陶磁器のような真っ白な右足を、むさ苦しい三組の男子と学年カラーの赤いリボンで結んでいる。
「ふぉふぉふぉ。では行ってくるのじゃ」
かわいい声でのジジイ言葉で、集子ちゃんは俺たちにそう告げたのだった。
「位置について。よーい――」
――ダーンッ!――
一年生、二年生、三年生の三チームのランナーたちが一斉にスタートした。
だが、知っての通り二人三脚はスピードが出ない。
むしろスピードを出そうとすると逆にチーム二人のリズムが乱れて転倒してしまうので、速度は抑え気味にしている。
そんな中、やはり身体能力の差が出たのか、三年生がリードを始め、二年生もそれに負けじとペースを上げたのだ。
そうなると当然、一年生が最後尾となってしまう。
俺はのろのろとしか進んでいない集子ちゃんチームを見る。
……なんだ?
そこで俺は気づいた。
集子ちゃんと組んでいる三組の男子生徒なんだが、両耳が真っ赤で、しかも俯きながら二人三脚をしているのである。
「……ははあ。あれは照れですねっ」
「照れ? どういうことだ?」
俺は恵ちゃんに問う。
すると腕組みしている呂姫ちゃんが代わりに答えてくれた。
「あの男子。金尾集子が美少女だから照れてのぼせ上がってしまってるのよ」
「な、なんだって……?」
つまりだ。
三組の男子は白髪赤眼で透き通るような真っ白な肌の集子ちゃんと密着してしまっていることが恥ずかしてくて上の空になっちまっているってことだよな?
超絶美少女と肌を触れ合うことで照れてしまうことは、俺も男だから良くわかる。
……だが、集子ちゃんの中の人はジジイなんだぞ……。
まあ、そうは言っても仕方ないな。
そのことはそいつにはわからないことだし、現実に見えている集子ちゃんの長い髪が風に揺られて三組の男子の顔にふわりかかっているが、それもヤツにとっては甘美な体験になってしまっているんだろうしな……。
そんなこんなで残り三分の一を切ったときだった。
このままじゃ一年生チームはビリだなと確信しそうになった頃である。
先頭を行く三年生チームと二年生チームがふらふらと走行し始めた。
「……なんだ?」
俺はそれに注視する。
すると彼らの前方の紙吹雪が舞っているのがわかった。
「あれは例の一万円札か?」
「……そう。……集子ちゃん得意の……お金にまかせた卑怯な戦法……」
臥留子ちゃんが返答してくれた。
どうやら百メートル走のときと同じ様に、一万円札の紙吹雪を乱舞させて視界を奪っているようだ。
そしてその作戦は成功した。
三年生チームと二年生チームはあさっての方角へとふらふらと走行を始め、気づいたときには集子ちゃんたち一年生チームがトップでゴールしていたのだ。
「なんともはや。……だが疑問があるんだが……?」
「なんでしょうかっ?」
「百メートル走のときも思ったんだが、どうして誰も目の前に舞っている一万円札を奪おうとしないんだ?」
「それはきっと彼らには一万円札に見えてないからだと思いますよっ。あのケチな集子ちゃんが万が一にも自分のお金が奪われそうになる事をする訳ないじゃないですかっ?」
「……ああ、納得した」
どうやら三年生チームも二年生チームも自分たちの視界を奪ったものがただの紙切れにしか見えてないってことなんだろう。
もちろんそう見せているのも集子ちゃんの神力だ。
確かにいくら競技中とは言え、目の前にお札が飛び交っていたら、うっかり手を伸ばしてしまうのが人情だ。俺だってそうしちまうだろう。
だけどただの紙切れならうっとしいとしか思えないだろうからな。
……こうして一年生チーム最初の走者である集子ちゃんチームは堂々(?)と一位になったのであった。
集子ちゃんは大金持ちなのです。(`・ω・´)∩
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「生忌物倶楽部」連載中
「夢見るように夢見たい」連載中
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。




