表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シデの道標  作者: BOW
忘却の村
9/11

カローラという少女

 私の名前はカローラというらしい、それも後から人に聞いた話だ。

 なぜなら私には記憶がないのだ。

 目が覚めた時、私はなぜか知らない街の知らない場所で寝ていた。


「え…」


 あたりを見渡して困惑する。

 ここはどこ?


「あれ…ちょ…ちょいちょいちょい…」


 私は…誰?


「…こんなテンプレートな発言をすることになるなんて…」


 皮肉げに笑い、私は顔を上げた。

 おそらくここは街だろう、見たこともない街だ。

 というより、街の路地裏だ。


「…」


 私はふらっと立ち上がり、あたりをキョロキョロと見渡す。

 そして、その先に光が見えた。

 この先を抜ければ大通りに出る。その前に…

 私は一歩足を踏み出す。その瞬間、グラっと倒れ込んだ。


「…あれ?」


 うまく歩けないというか…歩く時に違和感が…


 私は慣れるためにも近くの壁を使い立ち上がる。そして再びあたりを見渡した。そして近くに水溜りを見つけた


「おぉ…」


 フラフラしながら水溜りに到達する。

 そしてその水溜りを覗き込んだ


「…13歳くらいの女の子…だめだ、何も覚えてない」


 私は着ていた服を弄る。というより来ている服も覚えがない。

 ドレスのようなそれでいて小汚い、ここで倒れて汚いというよりくたびれているというのが正しい

 この辺りでようやく立つ感覚を思い出し、歩けるくらいには回復した。

 そして服を漁り、入っていた日記のようなものとナイフを取り出した


「ナ…ナイフ?それに…この日記帳…」


 私がその日記帳に目を通そうとした時


「カローラ!どこ行きやがった!クソガキ!」


 という怒鳴り声が聞こえてきた。

 私はちらっとその声をした方を向くが無視して日記に目を通すために開いたその瞬間


「見つけたぞ!テメェ!逃げ出すとはいい度胸じゃねぇか!」


 どうやらカローラは私だった。

 そしてそう唾を飛ばしながら叫ぶのはいかにもアル中の小太りのおじさんで路地の出口を塞ぐように立っている。


「おじさん…誰?」


 私は冷たく聞いた。自分でも驚くほど冷たい声だったと思う


「は…はぁ!?何いってやがんだ!」


 男は動揺したように一歩下がる。なぜ喋っただけで動揺するんだ。ひょっとして私はこの男の言いなりなのか?

 だとすれば私ながら、腹が立つ


「生意気な口を聞いてんじゃねぇ…」


 私は無意識のうちに手のひらをおじさんに向けた。


 そしてそのまま、手のひらから魔法を放った。


 放たれた魔法はおじさんの顔の右側を掠めた。

 顔の横、すなわち、右耳に直撃した。


「はっ?へっ…ぎゃ…あああ!!!あ!!」


 けたましい叫び声をあげる豚だが間髪入れずに私は地面を蹴り、懐に潜り込むと


 喉元にナイフを突き刺した。


 そのまま引き抜くと返り血を浴びないように三歩後ろにステップした。

 おじさんは勢いのままに後ろに倒れ込んだ。

 そしてそのまま動かなくなった


「…喧しい」


 私はナイフを放り投げた


「ん?」


 ふと気付くとおじさんの足元に黒いベルが浮かんでいた。


「…」


 私はその黒いベルを無視し、おじさんの死体を飛び越えて路地裏から街の大通りに出た。

 しばらく自分の掌を眺める。魔法が使えるのは才能があるもののみということはなぜか知っている。というより一般教養の範疇は知っているようだ。

 大通りをフラフラ歩きながら私は日記に目を通す


「…何これ?カルム?…」


 その1ページ目には拙い文字で「私はカルム」と書いてあった


「誰か別の人の日記なのかな…」


 しばらくその日記を読み耽りながら大通りを歩く

 特にいくアテもないのだがフラフラと歩くのがどうも癖みたいだ。

 日記の内容は少し物語調で読んでて楽しいし、おそらく私が書いたものだろう、何か少し覚えていることがある


「村の外の…魔女?」


 私はピタッと足を止める。そして日記の最後の方のページを開いた

 唯一残っている記憶だ。確か、昨日…くらいの感覚でその村の外で魔女に会った。会話もした。

 今思い出した。村の話もした。日記の話もした。

 おそらく私はカルムだ。全くしっくり来ないけれど…それに、村で過ごしていたであろう記憶がすっぽり抜けている。さらに、今のこの背格好はどう見てもカルムではない、私じゃない


「…いや、待って…違う、私はカルムじゃない…カローラなんだよ…」


 全然意味がわからなかった。カルムと言われて体に違和感がある。けどカローラはなぜかしっくりくる。記憶がしっちゃかめっちゃかだ。一体何が起きたんだ…


 フラフラと考えながら歩いていると、私の体はとある民家の前でまとまった。いつの間にか街の大通りも抜けいわゆるベッドタウンの様相示す区域の中で小綺麗な家の部類だった。


「ここが…私の家…なの?」


 全く思い出せなかった。しかし、足は自然とこの家にたどり着いたのだ。

 まだまだ記憶が混濁している。二、三日寝れば整理がつくだろうか…


「そういえば…」


 私はちらっと自分の左手の中指を見る。そこにはこのボロボロの服装には似合わないきらきらとした指輪がついていた。

 魔女が渡してくれたものだ。なんでそこだけ覚えている。


「…あぁ!もう!もどかしい!」


 私がその家の前でわちゃわちゃ騒いでいると家の扉がガチャっと開いた

 私はピタッと動きを止め、すぐに掌を扉に向けた


「あれ…カローラ…あの人は?」


 中から出てきたのはくたびれたガリガリのおばさんだった


「…さぁ?」


 私がそういうとおばさんはピクッと震えた。


「あ…あなた、性格変わった?」


 ちょっと待て、返事しただけでそう言われるなんてカローラってどんなやつだったんだ…


「いや…いいや…」


 私はそういうとおばさんを押しのけるように家の中に入る

 やはり、この家に見覚えはないが体が覚えているようでスタスタと二階に上がると一番奥の部屋まで行き扉を開けた


「あれ、覚えてる、ここ私の部屋だ…」


 私の部屋?あんなクズみたいなおじさんと抵抗力もなさそうなおばさんの元で育って部屋貰えてるの?意味わからない

 部屋の中は異常だった、ベットと机と椅子、それ以外は足の踏み場のないレベルの本の数々だった

 私はその本を気にもせずにズンズンと足を進める。そして机の前にたった。


 机の上には羽ペンと


 日記のようなもの


 が置いてあった


 私は徐に持っていた日記を机の上に置いてあった日記の横に置いた


「日記が二つ…うーん…」


 ひとまず私は持っていた方の日記の最後の方のページを開いた。

 そこには自分たちの家族のことや村で起きた異変などについて書かれていた


「父の名前はリドル…母はリデェア…そして、この最後の日記から一日前から何か異変が起きていた…うーん…」


 しかし、魔女にあったところの記載は記憶通りである。

 なぜそこだけ記憶があるのか

 …そして


「じゃあなんて、この日記を私が?」


 カルムの日記はおそらくその村にあったはずだ。しかしこの街は村とは到底言い難い、なのでこの街と村は全く違うものとして考えていいだろう

 では、カローラの記憶はいったいどうなんだろう。

 私はそう思い、カローラの日記を開いた。そこを見て私は苦笑いをした


『父は私を捨てた』


 真っ先に飛び込んできたのはこの文だった


『どうして父親は帰ってこない、仕事だと言いながら帰ってくるのは月に一度程度、その間にあの男は増長する。いつ私に危害を加えてもおかしくない、その時殺す覚悟は私にはある』

「…」


 少し背中の毛がゾワっとする感覚があった。一つ嫌な考えがよぎったのだ。

 私はカローラの日記をペラペラとめぐる。

 そして、お目当ての情報を見つけた


「父の名は…リドル…」


 私は日記をポンと閉じた。目を瞑る。そして大きくため息をついた。


「いや、どういうことよ…」


 全く訳がわからなかったのでその日記も持ち出し、部屋の中を漁った。本だらけの部屋だが、乱雑に見えてしっかりとまとめられており、衣類は一箇所にまとめられていた。


「街から出る?いや記憶もないし…とりあえず下にいるおばさんに話聞いてみるかぁ…」


 私は日記を二つ持つと本と本の間に挟まっていたバックを取り出し、部屋の外に向かった

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ