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シデの道標  作者: BOW
忘却の村
8/11

「キディング」

 

「…ぅぁ…」


 真っ暗な視界の中、何かが私に訴えかけてくる。


 私は薄れゆく意識の中で魔女に渡してもらった指輪を外した。その瞬間、体の奥からものすごい熱が上がってくる。

 その熱は体全身に駆け巡った。駆け巡る中でボーッとする頭も寒さも傷も全てなくなった。いや、それでも素っ裸なので普通に寒かったが、そんなのは気にならなかった

 体にたぎる魔力に再び意識が持ってかれそうになる。


「…」


 私は持っていかれそうになる意識をしっかりと持ってそのまま再び指輪をはめた


「ふー…」


 私はため息をついた。そしてあたりを見渡す。

 あたりは血の海だった。よくもまぁ、この出血量で生きていたものだと我ながら感心する。

 そして、私の血でいっぱいになった風呂場を適当に水で流した。

 湯船の水に血が入ってなくてよかった。

 あらかた風呂場を掃除した後、風呂場から出ると着替えを家の中で探した。裸のまま

 ある程度家の中を見回ったが母親の姿はどこにもなかった


 自分の部屋に戻って着替えながら考える。


「セリナ?一体誰のことだろう…家の周りで聞いてみる?それにあの黒いベル…」


 色々なことが起こりすぎて訳がわからなくなった。とりあえずまとめるために明日持ってきて欲しいと言われていた日記もどきを手に取った。そして忘れないうちに今日起きたことを全力で書き殴った。

 その後、今の状況をまとめるために白紙のページを開いた。


「まずは黒いベル…」


 私は日記に黒いベルを書いた。絵にはそこそこ自信がある。そしてこれに矢印を向ける


「多分これは魔法的なもので…話を聞いた感じだと多分…人の死んだシーンがリプレイのように見れるもの…かな?」


 とりあえずそのように矢印の先に書き込んだ。


「まぁ、わからないところをあげるなら」


 そしてまたそのベルから矢印を伸ばし


『見える原因』『死んだ時期』


「くらいか…」


 そしてそのままそのページを破った。そしてそのまま無造作にポケットに突っ込む。

 これに関してはわかったことがあればすぐに書き込みたいと思ったからだ


「次は…」


 母親について


 と書き込んだところで私は手を止めた


「…お母さん…」


 殴られたことに関して少しセンチメンタルになったがすぐに頭を振った


「セリナ…リドル…」


 私はこの二人の名前を日記のページに書く、そしてその間の空白を大きく取った。

 そしてさらに次のページの見開きページの一番上に


『この村の秘密』


 と書き込んだ。


 村からは出てはいけない、突如おかしくなった母親、何故か思い出せなかった自分の名前、後は…


「えーっと…」


 私は日記を読み返す。

 もしリドルの名前に聞き覚えがあれば書いてあるはずだ

 そして二ページめくったところですぐに思い出した


「父親!」


 私は書き殴るようにリドルの隣に父親と記入する。これがないとすぐ、忘れてしまいそうになるからだ。


 なんで父親を忘れるんだ。


 そこだ。この村の肝はそこにある。


「とりあえず…」


 私は窓の外に目を向けた。そこには何故かそこらかしこに黒いベルが散らばっていた。

 つまり、この村で死んだ人たちの分あるということだ。一体何個になるのか…

 ひょっとしたらこの世界に人が死んでいない場所なんてないんじゃないか?


「この中からそのセリナ?がいるかいないかを探すのは無理だなぁ」


 しばらく悩んでから私は日記を服のポケットの中に突っ込んだ。


「情報が足りないね、よし」


 私は立ち上がると外を見る。すでに日は傾き始めていた。


「あー…」


 家にいるべきかを考えたがとりあえず家の外に出ることにした。

 外に出るとお通夜のように静まりかえっていた。というより本当にお通夜をやっているのだろうと感じる。

 私はキョロキョロとあたりを見渡しながら村の中を散策する。

 やはりそこらかしこに黒いベルが転がっているがその数は少ない


「その代わり家の中とかすごいことになってそうだなぁ」


 基本的に最後は家の中で迎えることが多いだろう、こうして外で死ぬ方が珍しいのだ。


 私は試しに近くに落ちていた黒いベルをチリンと鳴らした。

 そのベルは小さな子供の姿になった。


「見たことない子だ」


 子供は何もない空間をよじ登るように上に上がっていく

 そしてそこそこの高さに到達したところで手を滑らせたようにずるっと落ちた。

 そしてそのまま下まで落下し頭を激突させた。

 そしてそのまま動かなくなり消えていった


「木から落ちたのか、でそのあと木が切り倒された…」


 私はそうボソッと呟いた時、体の奥底からゾクっ!とした


 あ、これ面白い


 そう感じた。

 まぁ、でもこうやって鳴らしてみないとわからないのは使い勝手が悪い

 私はぷらぷらと外を歩く。道ゆく人は私をみてはヒソヒソと話している。なんだろう?‥ていうか、さっきまで静かだったような…いつの間に人が?


「ねぇ、おばさん達」


 私は井戸端会議をしているおばさんに近づき話しかけた


「あ…あなた、どこの子?」

「…さぁ?」


 もう思いだそうとは思わなかった。さっきまで覚えていた感覚はあるがもう自分の名前すらお前出せなくなった。

 自分がどこの生まれかどこからきたのか全て思い出すことはもう無理だ、しかしこの本を持っていればなんとかなると思っている。私は本をペラペラとめくると歯に噛んだ笑顔をおばさんたちに向けた。


「ねぇ、おばさん達リドルって名前に覚えはある?」

「リドル?…聞いたことあるようなないような…」

「そう、じゃあセリナは?」

「…そっちも一緒ね」

「ふーん…」


 私はそう頷いた。

 私はペラペラとめくり日記を確認する。日付は今日だ。今日の日記に近所のお姉さんが死んだと書いてある。これに関しては少し記憶もあり、確か事故で私が殺した人だ。にしてはもう井戸端会議?


「ねぇ、今日誰か死…亡くなってない?」

「いえ…誰も?」

「…なるほど…」

「ねぇ、お母さんは?」

「お母さん…?あぁ、村の外で待っています」


 適当に嘘をついて誤魔化した


「ウッソ、村の外から来たの?何年ぶり?…十五、六年前に…あれ誰だっけ?」


 私はさらに日記を遡り、自分の母の名前を探した。三年くらい前、日記を書き始めたあたりに書いてあった

 お母さんの名前はリデェア、お父さんはリドル、私はカルム

 そんな自己紹介なのか練習なのかわからない文を見て少し笑う、さっぱり覚えていない


「リデェアって人は?」

「リデェアはそこの家に住んでるのよ…結構な変わり者で女性と結婚…あれ?」

「…ありがとうございます」


 私はスラスラと日記に書き込むとパタンとノートを閉じた

 そしてその日記を横目で見て考える。


(リデェアは女性と暮らしている…父親はおろか、もともとここに住んでいた私でさえいなかったことになっている。そして事故とはいえ私が人を殺したことさえなかったことになっている)


 私はお辞儀をしておばさん達に挨拶すると考えながら歩みを進める


(三日、父親は三日の外出を許されていた。

 そもそも村の外とは何?

 魔女がいたところが村の外なのか?いや、そもそも魔法が使えないと出られない場所だった…

 じゃあ、村の老人が言っていた村の外とは森の奥?

 もしかすると私たちは村の外と森の奥を混同していた可能性がある…?)


 私は再び日記を開く

 そしてリドル、父親の項目のところに?マークを追加し、こう綴った


 魔法の使えた可能性


 そしてその少し後に小さく


 外からきた可能性


 と記した。

 私はそう記入したところで歩くのを止めた


「…そもそも老人達もこの村については理解できていないのか…」


 この村にいる連中は村の外に出ようとも思わなかった…はずだ。では、この村の先はいったいなんなんだ?

 私は村の外側に目を向ける。村の外側は鬱蒼とした森林である。私はずっとこの森の奥が村の外だと思っていた


「違うの?じゃあ、この森の奥は何?」


 森の奥に行くと戻れなくなる。

 ブルっと身震いする。


「行ってみたいけど…行かない方がいいよね…」


 私はまたあたりを見渡す。

 そこには外で遊ぶ子供の姿や村の奥にある畑と村を行き来している大人も沢山いた。お通夜みたいな雰囲気はもうどこにもなかった


「…これ以上の長居は無意味か…」


 私の知っていたであろう村はもうない、劇的に記憶が書き代わり、私という存在そのものがこの村から滅却されてしまったのだろう、その原因はおそらく父親が原因だ。

 魔女には明日来いと言われていたがそんなこと言ってる間もない、多分私はここで住んでいてここで育った。そんな事実もここからは忘れ客観視しかできなくなるだろう、だから一応村を見渡した。

 何の感慨も湧かなかった。

 私はため息をついてちらっと村の真ん中を見る。そこにはやはり魔女の家があった。身寄りも無くなったのでとりあえず匿ってもらおうと魔女の家に足を向けた時


 ふとある考えが頭をよぎった。


「私の存在って…何?」


 グルンと視界が歪んだ、その考えには至ってはいけなかったのかもしれない

 私の視界はまるで暗闇に支配されるように狭張っていく


(よくよく考えれば父親がいたこと自体がこの村から無くなったのなら私の存在自体、消えてしまっておかしくなかった…!)


 ふらっと足元の感覚すら消える。倒れ込むこともなく私の意識はそこになかったように宙に漂う

 もう何も考えられなかった。そもそも存在しないものが思考などできるはずもない、永遠に続く無、そしてその無すらも感じられなくなった時、私はこの世界から姿を消したのだった。

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