「カルムの日常」
バコっ!という音とともに目を覚ました。寝ている間に体が跳ねたようだった。
私は体を起こして少しボーッとする。何か変な夢を見ていた気がする。
少し思い出そうと考えに耽るがすぐに諦めてベットから起き上がった。
しばらくぬぼーっとしていたが今日はやりたいことを思い出した。
ウキウキ気分で外に行く支度を整えてからドアを開けて居間に向かった。
居間では母親が鼻歌を歌いながら料理をしていた。
ちらっと飾られていた時計を見る。八時過ぎである。
少し目線を逸らしていた時に母親はこちらに気付いたようで挨拶してきた。
「おはようカルム」
「おはようお母さん、ねぇお母さん、なんで寝てる時に体がビクっ!ってなるの?」
「どっかから落ちる夢でも見たんじゃない?さっきの音それか…」
どうやら跳ねた時の音が聞こえていたらしい
「落ちる夢か…なんの夢見てたんだっけな〜」
「やめときな、思い出すだけ無駄無駄、ほらご飯できるよ」
「はーい」
私は促され、皿を持ってお母さんの横についた。お母さんはその皿に料理をのせる
「あーあ、魔法が使えればな、料理だって気付いたら用意されてるんだろうなぁ」
「まだ言ってるの?まったく、お父さんも余計なもの持って帰ってきて…魔法は才能がないと使えないのよ」
「才能って何?」
「さぁ、お母さんは使えないからわからない」
「ぶー」
私は不機嫌アピールをしながらリビングにある椅子に座った。この家のダイニングはちょうどキッチンから見えるようになっている。母親は料理を作り終え、洗い物をまとめていた。
外で洗うためにまとめているのだろう。
私はボーッとあたりを見渡してふと気付いたことがあった。
「そういえば、お父さんは?」
私の父親はこの村唯一の医者である。医者でありながらなかなかスピリチュアルなことも好きで父の部屋にある蔵書は魔法や神話の本がたくさん置いてあり私はその何冊かを読んで魔法に興味を持ったのだ。
そんな私の「好奇心」の発端である父親が見当たらないのだ
「今日は街に出る日よ…また余計なもの持ってこなきゃ良いけど」
「あ〜そうだっけ?」
「お父さんは三日は平気だからね、村のジジババ共も村の外に出るなって言いながら村の外の物は欲しいのさ」
この村は超閉鎖的な村である。父が来る前は自給自足しかしておらず、外との関わりは一切持っていなかった。なぜなら、この村で生まれたものはこの村からは出てはいけないという掟があるからだ。
その理由は森を囲む深い森の奥に行ったものは誰も戻ってこないからである。
そして、なぜか父親は三日立たなければ森を超えて来れるというのだ。
最初は村人たちも気味悪がっていたが父親が持ってくる「外の物」のありがたみに負け父親の外出を永久的に許可した。そんな経緯があったと聞いているが私も理解できていない。
まぁ、それでも父が持ってくる外の刺激を間近で浴び続けた私は外に対する憧れを膨張させまくっているのだ。特に魔法なんて物が外の世界にはあるという。
聞いたところこの村にも私が生まれる前までは魔法を使えるものがいたらしいが今はいないという。
外には何があるんだろう
世界中を見てまわりたい
そして見たものを私だけの物語にしたい
そんな取り留めない願望を抱えて私は生きている。
「ごちそうさま!」
ばんっ!とナイフを机に置いた。
「行儀が悪い!」
キッチンからスプーンが飛んできた。私はヒョイっとかわす。生まれて十二年、もう慣れてしまった。
「ほら、下げもの持ってきて」
「はーい」
私は落ちたスプーンを拾うと下げ物をまとめて母親がまとめた食器の中に放り込んだ。そしてそのまま流れるように玄関に向かう
「ちょっ!何か言いなさいよ、…遊びに行くの?」
「あぁっと…」
私は母親に向き直る
「まぁ、そう遊びに行く」
私はソワソワしながら答えた。
「誰と?」
「え?…別に誰とでもないけど…」
「ふーん…まぁ、気をつけなさいね」
「今日、お父さん何時くらいに帰ってくる?」
「お父さん?……えっ…あぁ、そうね、わからないけど日が暮れる前には帰ってくるはずよ」
「?…うん、わかった」
なんだったんだろう、今の間…少し気になったが私は気にせずに外に出たのだった。
どこからか落ちる夢を見て体が跳ねることがよくありますがあれは脳の不手際なので気にすることはない様です。