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シデの道標  作者: BOW
忘却の村
11/11

私の道標

 机の上に置かれた本が勝手に開きとあるページで止まった


「これが…答えなんですか?」

「まぁね、論文としては最悪だけど最高の出来、結論が頭にあってそれを辻褄を合わせるために証拠を揃えてる論文、だけどしっかり理論が通ってて…」


 そううだうだ説明し始めた魔女を無視して私はチラッとページに目を通した。しかし、ちらっと目を通したが意味がわからなかった。人の認知がどうとか机上の空論のようなものが書かれている。


「まぁ、人の認知が世界に及ぼす影響って研究だけど、認知してない状況を観測できないから無駄なんだよね」

「じゃあ、何でそんなすごい論文なんて息巻いているんです?」

「例えばさ空想上の超大型ロボットの超細かい設計図が机の上に置いてあったらとりあえず興奮しない?」

「少年心に満ちてますね先生、まぁ、でもわかります。というかそういうタイプの扱いなんですね」

「先生…」


 先生と言われたことに一瞬固まった魔女だがすぐ嬉しそうに照れ始めた。


「けど、リドルはそれを研究しようとしたってことですか?」

「え?あっ…うん、そう」


 まぁ、ありがちなマッドサイエンティストの話だ。結論が頭にきていて辻褄合わせしか考えないタイプの…

 いや、逆か、学生の時にあの村の存在を知っていたからこの論文を書いたという可能性はある。人の認知すら歪ませ、世界の常識をも塗り替えるあの村を…


「まぁ、動機はわかりました。あとは時系列ですね、引っかかるんですよ、どうして私たちを生み出したのかって」

「確かにそれはある。認知だけの研究なら君たちみたいな存在は必要ないもんね。カルムとカローラ、その二人の秘密について、私はそこが知りたい、おそらく考古学的にも価値がある。私がこの件に首を突っ込んだのも死の大地に村があるっていう考古学的観点からだからね」


 魔女はそういうと真剣な眼差しになった


「私は君の魔力に秘密があると考えている」

「私の?」

「というよりカルムの魔力、あの魔力は異常だ。私が知る限りあんな魔力を使う魔法使いは知らない」

「そうなんですか…」


 私は魔女からもらった指輪をさすった。


「私としてはあの村にいた魔術の血筋を無理矢理この世界に持ってこようとしてこの研究を使ったってのが結論だ」

「うん、筋は通ってますね」

「カローラはそのための器だった…って考えるのが妥当だろうねぇ…」


 魔女はしみじみいう、しかし、カルムの器とされたカローラが可哀想だとも感じるし、自分の中のカローラが何も感じていないのも感じる。

 そして、そもそも根本的なことが気になった。


「そもそも、あの村の秘密って分かります?」

「わかるわけないじゃん、私には観測すらできないんだよ?どうしてあんな空間があるのか、外に出たら記憶が、いや存在がなくなるのか…学者的な立場からは何もいえない、文学なら適当に理由つければいいけどね」

「じゃあ、それでいいです。私が知りたいのは真実より納得できる事実ですから…じゃあ…適当に…古代の流刑地とかでいいんじゃないですか?そこから逃げれば存在が失われる。そしてそこで生まれたものには原罪としてその十字架を見たいな」

「…まぁ、それでいいんじゃない?となるとカルムは罪人の子孫ってことになるけど」

「…うん、まぁそこは…」


 そんな会話をしながら話は進む

 会話の流れはリデェア、つまりカルムの母親にうつった。


「セリナとリデェア…リデェアは君の…カルムのお母さんだよね」

「はい、おそらく」

「じゃあカローラの母親は?」

「…全くわかりませんね」

「うん、ここもわからない、けど、多分このわからないのが大切だった」

「認知の話ですか、ここで」


 リドルの研究、認知の探求…

 リドル以外の人間はカローラの母の存在を知らない状況


「おそらく、一族郎党皆殺しにしたんだろうね、誰も彼女の存在を知らないように隠匿した」

「待ってください、そんなの一人で管理できるわけないですよ、人一人を監禁から妊娠出産まで一人で面倒見たって事ですか?」

「協力者は絶対にいなかっただろうね、で、カローラが生まれたら殺して処理をすれば誰も彼女を知り得ない、母親不明の子供の誕生だ」

「あぁ…」

「まぁ、憶測だけど、こうすれば辻褄が合う、歴史のことじゃないしこの辺は納得できればいいよね」


 先生がそう言った時、ふと何かを感じた。ドス黒い魔力の塊のようなものだ。いや、それが読んでいるように感じた。

 その瞬間、私はガタッと席を立ち急いで中指にハマった指輪を外した。

 ものすごい突風が部屋の中で渦巻き、先生はガタッと立ち上がった。


「ちょっと!?何!?」


 魔女は、先生は止めようとしたが私は手で制した。手をかざしただけで先生は体を硬直させた


「ちょっ、体が動か…ふん!」


 先生はそういうと体を無理やり動かした


「先生、意外とコントロールできますよ…カローラのおかげです」

「…いや、それよりも急に何!?」

「いえ、前に言いませんでした?黒いベルが見えるって」

「黒いベル?そういえばそんなこと…けど何の関係が!?」


 私は魔女に向かってぽいっと紙を投げた。

 目が覚めた時にポケットに入っていた紙だ。

 魔女はそれを受け取ると開く


「黒いベルについて…黒いベルは人の死の瞬間を見せる…指定できる期間、時期は不明…観測したのは…私の魔力に当てられて死んだ近所のお姉さんとおそらく木からおいて死んだ子供の二人、そのほか多数の黒いベルを街の中で確認…」


 魔女は書いてある内容を淡々と要約していく


「そして、それは私の魔力に起因するもの考えられる」

「そうです。そして指輪を外して分かりました、カルムの魔力の使い方はカローラが教えてくれる」


 私はそういうと空間に流れる魔力を掴むように腕を前に出し指を鳴らした。

 世界が震える音が聞こえる。魔力に対して世界が答えてくれているように感じた。


「あった…」


 私は台所に向かった。魔女は黙ってついてくる。

 台所は何の変哲もなかったがすぐに目についたのは床下収納だった。そこをこじ開けると中には糠が入ったような袋がたくさん入っていた。

 私がそれをどかそうとすると糠がヒョイっと浮かび上がり居間の方に飛んでいった。魔女が魔法でどかしたようだった。


「ありがとうございます」

「隠し部屋?」

「えぇ、おそらく」


 私が床下収納を覗き込むと取手のようなものが見えた

 その取っ手を引っ張るが全く動かない


「ちょ…かった…」

「鍵?」

「いえ、少し浮くんですけど向こうからものすごく引っ張られている感じで…ふーーーんっ!」


 私が力と魔力を込めて引っ張るとガコンという音共に床下収納の中に空間ができた


「よし…えっ…」


 その瞬間、私は引き摺り込まれそうになった。

 何か扉から飛び出してきたわけじゃない、突風が後ろからその扉へと吹いたのだ


「おわっ!」


 落ちそうになるのを先生が首根っこ掴んで捕まえた


「真空だね」

「な…なるほど…」

「この中に人の死体があるとすればこれは殺人だね」

「…となると、先生外で待っててください」

「そのほうがよさそうだね、二人で入って塞がれたらたまったものじゃない、まぁ、真空だし死体があっても腐ってないとは思うよ、まぁ、10年くらい経ってたら朽ち果ててるとは思うけど」

「そうですか…じゃあ行ってきます」


 私はその収納に飛び込んだ。


 中は薄暗いが、カローラが基礎魔法を覚えていたおかげであたりを照らすことはできた。


 おそらく普通地下室なのだが、異常な空間だった。

 そこらじゅうに爪で引っ掻いたような血の痕が残っているのだ


「平気?」


 魔女は覗き込んできたがその惨状を見て顔を顰めた


「生きたまま真空にされたらそりゃそうなるか」

「えぇ、しかしこの部屋に死体もなければ黒いベルも見えません、もっと奥かも」

「そんな広いの?」

「いや、奥に扉が見えるくらいです。多分その奥だと思います」


 私はツカツカと部屋の奥に足をすすめる。

 そして奥の扉に手をかけ引いた


「…押しドアかい」


 この辺の感覚の違いがわからないが扉を押した。しかし、何かに引っかかっているようでうまく扉が開かない、仕方がないので扉に手を当てて

 扉を消した。

 爆風とかでなく、普通に消したので中に影響はなかった。

 ごとんと何かが倒れてきた。


 見なくてもわかった。死体だった。


 対して腐ってもらいないがその顔には苦悶の表情で満ちていた。

 そして、おそらくこの男がリドルだと私は直感で理解した。


「先生、見つけました。リドルです…死んでます」

「やっぱり?」

「もう少し散策したら戻ります」


 リドルの足元を見ると黒いベルが落ちていた。

 やはり、これは人の死の瞬間にみれるものでお目当てのものは魔力を使えば探れる、何かと便利だ


「しかし…」


 部屋の中はいわゆる錬金術師の部屋のようで大釜やら蔵書やらが大量に積まれていた


「…絶対何かあるよね、この部屋…」


 そこらかしこに転がる本の数を見て私は苦笑いをする

「しかし、この量を調べるとなると…」


 ちらっと私の視界にはリドルの死体が目に入る。そな足元には黒いベルが怪しげに浮いていた


「そうか…」


 人の死は私の道標になるのか


 私は黒いベルを持ち上げるとチリンと鳴らした。


「うを!なんかすごい魔力感じたけど平気!?」

「…えぇ…」


 空返事を返しながら私はじっとその光景を見据えた


 それは男が焦り仲間ら苦しんでいる様子だった。


 部屋の真ん中から魔女のいる出口の方を走り扉や、その付近を引っ掻いている。


「なぜ、こんなことをするんだ、だせ…かな?」


 口の動きで何となくその言動を察する。


 しばらく引っ掻いた後、男は諦めたのか何やら懐に手を突っ込むと奥の部屋に走りその見えない何かを机の引き出しに突っ込んだ。

 そしてそれを周りの何かをかき集めるような仕草をした後、それを机の中に突っ込んだ。

 そのまま倒れるように扉を閉めるとそこに寄りかかり、苦悶の表情を浮かべながらその影は姿を消した。


「引き出しの中か」


 私は引き出しに手をかけて引く、流石にこれは引き戸であり、簡単に開いた。その中から大量の羽毛が飛び去った。とはならず。真空状態のためペロペロになっていた。その羽毛を取り除くと中から日記というよりもレポートのようなものが出てきた。


「これか…」

「なにかあった!?」

「今戻ります!」


 私はそういうと父親の死体を飛び越えた


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