魔女との出会い
部屋の外に出るとこの家にも少し違和感を感じた。
さっきのおばさんに話を聞こうと思ったのだがどうもこの家の中に人の気配がしない
「あぁ、失敗した。さっき話しかけておけばよかった」
私は家の中を散策し始める。
そもそもこの家のことは知らないので適当に開けられる扉を全部開けながら調べた。
何ら変哲もない少し裕福そうな家という印象だった。
だからさっきの豚と過ごしていて何でこんな裕福な暮らしができているんだという疑問とこんなボロ雑巾みたいな服着てるのに裕福なんてありえないだろうとさらに首を傾げた。
「ん?」
居間の様な場所の机の上に一個の便箋を見つけた。そこには『カローラへ』と記されていた。
私はその手紙を手に取ると普通に開けた。
『カローラへ、あなたがこれを読んでいるときはすでにあなたはカローラではなくなっているでしょう
あなたが記憶を失うことはお父さんから聞いていました。
理由を聞いても「病気だから」としか教えてくれませんでした。絶対嘘だというのは分かっているのですがそれでも私はあの人に追及することはできません、しかし、ここに記しておきます。あなたがこうなった原因は父親で間違いありません
これを残して何の意味があるかわかりませんが、あなたが…いえ、カローラが利用されるだけされるのは納得いきません、あのクズ男の元にあなたを置いたのも、私をあなたの元に置いていったのも、もしかしたら私のこの意思すらもあの人の掌の上なのかもしれません。
この手紙を残すことで私はおそらく死にます、あなたの前に死顔を晒したのくないのであなたの元を去ります。こうすることしかできない私をどうか許して
育ての親 3号より』
「全くわからん!話が入ってこない!誰だ!この人!3号!?」
謎で謎を塗りつぶした様なこの手紙を思い切り握り潰したがすぐに開き直した。
くしゃくしゃな手紙を見て少し後悔した。
それよりもさっきのくたびれたおばさんが3号なのか?というか諸悪の根源が父親?まぁ、それは別にいいのだけれどこの手紙のせいでわからないことが増えたが分かったことも増えた。
カローラは裕福な父親が用意した家におそらくあのクズ男とおばさんとともに押し込まれたということなのだろう。
カローラ側の事情は何となく分かった。
では、次はカルムの方だ。カルムの方の記憶は魔女のことしか残っていない、となると魔女を探すしかないのだが、ここがあの村からどれほど離れているのか、そもそも本当に同じ世界なのかという確信すらない、こっちはだいぶ厄介だが魔女が話していたことを思い出した。
近くの街で依頼を受けて調査した。
「もしかしたらこの街なのかな?リドルがカルムのところからたびたびいなくなるみたいなことも書いてあったし…その時この街に来てたとか?それならかなりやりやすいんだけどなぁ」
それでビンゴなら全部丸く収まり大団円だ。身寄りのない人殺しを匿ってくれそうなのはあの人くらいだし
「後先考えずに殺すのは今後やめとくか」
感情と目的なら目的を優先する方がいいに決まっている。
まぁ、そうならないのが人間なのだが、とりあえずあの豚の死体が見つからないうちに行動するに限る。
私はカローナの日記の最後にこの手紙の内容を要約したものを書き記した。
そして外に出た。
運命とは数奇なもので探す手間もなく魔女は見つかった。
普通に大通りに出たらローブを羽織った魔女が食料を大量に買い込んでいたのを見つけたのだ。
見つけた時は声が出た。
私は小走りで魔女に駆け寄った。
魔女はその動きにすぐ気付いたらしく不思議な顔をしながら私の方を見ていた
「何かよう?君…」
と言いかけたところで魔女はビクッと体を震わせた
「あれ?…この魔力…あれ?…」
魔女は困惑した様に私の顔を見る
「え?」
「昨日ぶりですね、魔女さん」
私はにこやかにそう言った。その瞬間、魔女の顔は思い切り引き攣った
「まっ、まって!?ちょ!その指輪私があげたやつ!カ…カルムちゃん!?」
「カローラです」
欲しかった反応が返ってきて嬉しくなり私はおちょくる様にお辞儀をした。魔女はしばらく固まっていたがすぐに気を取り直して
「と…とにかく、えっと…え?この場合は?…」
「お話ししませんか?」
「…わかった、いいよ」
悩む間も無く魔女は頷いた。
「じゃあついてきてください、私の家に案内します」
「待ってね」
魔女は買った大量の食料を小さいポーチに突っ込んだ。どう考えても収納スペースは足りないがそれも魔法なのだろう
「なんか、昨日より魔力安定してない?」
「そうなんですよね、多分カローラ側が魔力の扱いに長けていたんだと思います」
「…カローラっていうのがその今の君の名前なの?中身はカルムちゃん?」
「いえ、多分混ざり合ってる感じですね、私もよくわかりません、記憶喪失なんですよ、残ってる記憶が魔女さんとあった昨日の記憶だけで…」
「…なるほど…」
「何か心当たりがある様ですね」
「…」
私は案内する足を止めて魔女をじっと見た
「リドルの名前に聞き覚えがあるようですし」
魔女は参ったと言わんばかりに両手を前にかざした
「なんか、カルムちゃんの時よりも迷いがないよね…元々変な子だと思ったけど」
「それはどうも」
「リドルは私の学校の先輩…と言っても学校の時期は被ってないし会ったこともないけどさ」
「…論文ですか」
「そう、非人道的かつ合理的で幻想的で誰も反論できない完璧な論文、初めて読んだ時は震えたね」
魔女がそう言ったところでちょうど家に着いた
「…いい家だね」
「誰もいないんで入ってください」
「誰もいない?カローナはどうやって生きてきたの?」
「育ての親らしい3号?は、行方不明でおっさんは殺しました」
「こ…ころした!?」
「えぇ、反省してます。もう少し計画的にやるべきでした」
魔女はしばらく考える素振りを見せた後
「まぁ、それで計画が破綻しなければいいんじゃない?私だって殺さないわけじゃないし」
さすが魔女、こういうところは懐が深い
「けど、歴史学者としてはあんまりお勧めはしないかな、自分中心の英雄譚が作りたいならそれでいいのかもだけど、学者が干渉してそこに残るはずの歴史を捻じ曲げるのはあまりおすすめはしないかな、捏造で袋叩きにあってるの見たことあるし」
「平気ですよ、これに関してはカルムとカローラ、そしてリドルが主人公なので」
「まぁ、確かに、ていうか他人事だね」
「いや…なんかほんとに、他人事みたいなんですよね…」
記憶ないし
「不思議な感覚ですよ」
私はポソっと呟いた。
「で、君はどうしたいの?」
「改めて弟子にしてくれません?」
私はニコッと笑いながらそう言った
「……」
魔女はしばらく黙ったがため息をついて口を開いた
「わかったいいよ、その代わり私の考古学に付き合ってもらうから」
「ふふ、ありがとございます」
「このまま君を放置しておくととんでもない化け物になりそうだからね」
私は一呼吸置くと真剣な目で魔女を見据えた。
「さて、種明かしの時間です」
魔女はそういうと深く頷いた。
「そうだね、多分二人が持ってる情報を合わせたら今回の件の真相が見えてくるはず」
私は二つの日記を机の上に並べた。
「とは言っても情報はこれくらいしかないですけど」
「十分…かな、とりあえず」
魔女はそういうとふわっとバックの中から一冊の本が飛び出してきた。
「卒業生の論文をまとめた本、15年前のだね」
「というか学校って何です?」
魔女が通っていた学校、この世界の知識がないので全くわからない
「そこからか…
『中央魔法学院』この世界にある唯一の魔法学校だね。入らなかった魔法使いは世界各地にいる魔女に弟子入りして一人前になるっていうのが今の魔法業界の教育方針」
「…へー、なんか廃れそうな感じですね、それでその後なんかは?」
「基本は私みたいに国に帰って仕事するかギルドに入ったりとか…」
「ギルド…」
「…ギルドは活動の幅を世界に広げるために作られた組織で魔法使いだけじゃなく傭兵とか商人なんかも登録してる。加盟国は面倒な審査なしで入国できるよってやつ…
ギルドは派閥みたいなのがあってギルドの中のそれに所属することになるんだ。」
「考古学やるなら入った方が良かったのでは?」
「私の専門は王国のルーツだから基本的には王国から出ないの」
「なるほど」
私がそういうと魔女はため息をついて
「話が進まないね、世界に関する質問は後にして」
「はーい」
「じゃあ始めるよ」
魔女はそういうと机の上の本が勝手に開き始めた