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おうかがいします凪さん、りゅーちゃん!

「はぁっ、はぁっ、さ。さすがにキモかったわ、はぁ、あれは」

「ま、まあそう、言わずに。はぁっ、ほら、メタワールドだから」


 絶対にありえないだろう秀と加奈子のいちゃラブモードを見て、早歩きではなく途中から走って逃げてきた凛子たち。

 あまりの猛ダッシュに息切れを起こした未来から「本編とは違うよ」とフォローを入れられる。


 一応、凛子もわかっているつもりなのだ。散々『いつもと違う』要素をこれまで見てきたのだから、ある程度なら「またか」で終わらせられたと思う。

 しかしあれはダメだ。加奈子の恋を応援しているとはいえ、あの「あははー」や「うふふ〜」は凛子にとって耐え難いものだった。


「あーーーー、もう走れない……」


 へろへろ、と力が抜けて女の子座りをする。

 どうやら未来も限界らしく、苦笑いをしながら同じように座り込んだ。


「……何してんだ、お前ら」


 聞き慣れた声。

 脱力していた凛子の体と心が、ぱぁっと明るくなる。

 ああ、待っていました本来の突っ込み役。いじられキャラでありながらキレのいい突っ込みをしてくれる、見ていて飽きない同級生。

 やっとこさ任務を下りられる。そう安堵した凛子は、勢いよく顔を上げて声の主を見た。


「つっ……ちー?」


 固まる。

 掛けられた言葉は間違いなく土屋つちや隆一郎りゅういちろうのものだったのに、目の前にいる彼の顔は明らかに別人であった。


「わぁ、りゅう〜。なんだか久しぶりだねぇ」

「だなー。息切れしてたけど、大丈夫か未来。なんかあったのか?」


 未来は気付かない。いつも通り彼を『隆』と呼ぶ。

 凛子からしても彼の口調は普段と変わりなく、今までに会った他の誰よりも『通常』であることがよくわかる。

 けれど……顔が。顔と、髪が、おかしい。


「ね、ねぇ、つっちー? あのさ……」


 聞けない。

 聞きたいけれど、その先が口から出てこない。

 どうしてそこにある顔は彼のものではないのか。

 なぜ隆一郎の声が、この国最強のおひと、弥重みかさなぎの顔から出ているのかが、わからない。


「どうした長谷川。なんか変か?」

「変も何もっ! アンタなんで弥重先輩の顔してんのよ!? 中身はつっちーなんだよね!?」

「はぁ? 何言ってんだよ、凪さんならあっちにいるだろーが」


 わけがわからないと言いたげな顔で、親指をくいっと向けられる。


(待ってよアタシ。この流れは、まさか──)


 いや、ない。そんなことがあってたまるかと、未来の背中に隠れるようにしてその人物を認識すると……ああ。


「つっちーがいるぅ……」


 なぜなんだろう。

 隆一郎の顔、髪型をした長身の男性がそこにいた。


「こんにちは、長谷川さん。どうしたの? なんだか大変そうだけど」


 大変で済むならまだいい。

 凛子の頭は破裂しそうだった。


「わぁ〜、凪さんも久しぶりな気がするねぇ」

「そうだね。立てる? みーちゃん」


 座ったままだった未来をお姫様抱っこする隆一郎、もとい凪。

 そして本物の隆一郎は凛子に手を差し出した。


「普通は逆でしょーよぉ!」

「あ? さっきから何言ってんだ、お前」

「普通はつっちーが未来ちーを助けるところでしょって言ってんの!!」


 両太ももをバシンッ! と叩いて立ち上がる。

 絵面としては文句なしだ。隆一郎が未来をお姫様抱っこしている、こんな光景はなかなか見られないだろう。さっき見た美しい虹と同様、写真を撮りたくなる素敵な瞬間だ。

 ただ一つ、中身が凪であることを除けば。


「なんでなのぉ……」


 ひとり悶々とする凛子を置いて、凪と未来の話はどんどん進んでいく。


「へぇ、『メタ発言でほくろを救おう』か。面白い企画だね」

「そうなの。本編ではできないことができて、私も楽しかった!」


 身振り手振りで三話分の経緯を語る未来。

 やはりある程度はまともらしい隆一郎はキョトンとしていたが、『無傷の先導者』の異名を持つ凪はその不可思議な現象を楽しそうに聞いていた。


「だけどね、今のところいい案を全く貰えてないんだよ。このままじゃメタ未来の役目を果たせない、またアイデアが行き詰まった時の対策を見つけておかないとなのに」


 参ったと言わんばかりに眉尻を下げた彼女は、「それでね」と両拳を握った。


「人数とほくろの執筆体力的に、多分ここが最後だと思うの。だから、いい案をお願いします!」


 しっかりと頭を下げた未来は、真剣だった。

 それはおそらく『ホクロ』の願いなのだろう。

 だってあらすじに書いているのだ。キャラに全力でアイデアを求めていくコーナーだと。タイトルだって『執筆アイデアを求めて三千里』なのだ。このままでは内容とその他がまるきり合わない作品になってしまう。

 だから締めるところは締めたいのだろう、凛子はそう理解する。


(ああ、アタシもこの世界に馴染み始めてるよ……)


 周りの影響とは本当に怖い。

 凛子はもう黙っていようと決めた。


「うーん……悩んだ時の対処法か。僕の場合、そもそも悩むことの方が少ないんだよね」


「そうなの?」


「迷いが生じた時点で命取りになる。その場における最良を見つけられないと、前線では戦っていけないからね」


「あー……」


 もっともな意見だった。


「そっか、そうだよね。さすが凪さん、そもそもの観念が違うや」

「役に立てなくてごめんね。りゅーちゃんはどう?」

「俺ですか?」

「うん。主人公なんだから、ここは上手く答えてもらわなくちゃ」


 全ての責任を押し付けられ、未来から期待の眼差しを受ける隆一郎。

『主人公』というのはイマイチよくわかっていないようだけど、問いにはきちんと答えようとしているらしい。顎に手を置いて、しばらく考え込む。


「……色々さ、試せばいいんじゃねぇの。悩んだって死ぬわけじゃないし、誰から見ても百パーセント正解の答えなんかこの世に存在しねぇんだからさ」


 腰につけたキューブを展開して、左腕に張り付けていく。手のひらに『炎』の文字を刻んだ隆一郎は、一言「【点火てんか】」と呟いた。


「迷った時には火を灯す。これで解決だな」


 テキトーすぎる。

 そう突っ込みたくなるけれど、彼の手に生み出された真紅の灯火は、見ていて心を穏やかにしてくれた。


 これは、fぶんの1ゆらぎ。光や音に含まれる微妙な揺らぎが、人のリラックスを誘うのだという。焚き火を見ると落ち着く理由のひとつだ。


 隆一郎がそれを知っているかはさておき、彼なりの『答え』が提示された。だからだろう、風景が変わる。

 自然でいっぱいだった青と緑の景色が、どこからともなく現れたシャボン玉の中へとゆっくり移動する。空間が白くなって、不思議な世界の端が粒子となり、天へ向かって消えていく。


「そっか。休むって大事だよね」

「おう。未来もストイックは大概にしろよ?」

「私は頑張ってないよ。もう毎日の習慣だもん」

「でもね? みーちゃん。その『習慣』をもう少し分散させて、勉強の時間を多めに取った方がいいと僕は思うよ」

「いっ、今は関係ないでしょ、私の勉強の話は!」

「関係ねぇけど、マジで勉強しろお前。高校行けなくても知らねーぞ」


 仲のいい三人の会話を聞きながら、やっと現実に戻れるのだと、凛子は安心して目を閉じた。

 恐怖は感じない。彼らの楽しそうな話し声と、これまたどこから来るのか、水の流れや鳥のさえずりが、凛子の心を癒してくれていた。

【第4.1回 豆知識の彼女】

一応考えてくれるりゅーちゃん。なでなでしてあげたい。


火のゆらめきや暖炉の音の癒し効果は半端ないです。あと、川の流れや鳥の鳴き声も。


お読みいただきありがとうございました。


《次回 応援するよ凛子さま!》

メタワールド最終回です。短い。よろしくお願いします!

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