おうかがいします秀くん、阿部ちゃん!
「よーっし! じゃあ次に行こうか、凛ちゃん!」
「うぇえ、まだ続くのぉ……」
おかしい未来と、おかしい斎。凛子にはわからない会話をいつ終わるんだろうと思うほど延々と続けられ、やっと終わったかと思えばそんなお誘いだ。
正直なところ、辟易としている。凛子からすればもう休ませてくださいと言いたいのだが、残念ながらそうはいかないらしい。
「おってんき、おってんき、はーれ晴れれ〜♪」
謎の歌を聞かされながら歩き続けること数分。
凛子が何も言わないでいると、未来が「あ」と急に立ち止まった。
「凛ちゃん、あそこ見て? 虹が出てるよ」
「……ほんとね」
凛子も足を止めて、未来が指さす方を見上げる。
アイデアの大雨──虹色の飴玉が降ったあとの空。
終わりのない鮮やかな青色の中に、ぼんやりと美しい七色の橋が架かっていた。
「あれもアイデアの虹? この世界独特の」
全てを疑い、最初から偽物だろうと決めつける凛子へ、未来は穏やかな表情で首を横に振った。
「ううん。あそこにあるのは本物の虹。本編だとなかなか見られないから、運が良かったみたいだね」
そう言いながら携帯をポケットから取り出した未来は、ぎこちない操作でカメラを起動させる。
普段は見ることができない幻想的かつ自然の風景を、パシャッと、シャッターを切る音とともに大事そうにフォルダへ収めた。
(……綺麗に撮れてる)
照れくさそうに凛子に見せてきた写真はきっと、彼女の心のフォルダにも刻まれたのだろう。
周りにある木との調和が美しかった。
「未来ちー。携帯かしな、バックにして撮ったげる」
「ほんと?」
「うん」
虹の効果なのか、さっきまでのおかしい様子が抜け落ちている未来。普段の彼女を感じた凛子は、そんな提案をした。
自然を背景にして、嬉しそうな未来を写真に撮る。
ピースくらいすればいいのに、『メタ発言でほくろを救おう』の襷をよく見えるように持つ彼女は、虹に癒されてもその責務を放棄することはないらしい。
「ありがとう凛ちゃん。私も写真撮ろうか?」
「ううん、アタシはいいよ。代わりにその写真こっちに送っといて。壁紙にするわ」
現実に戻っても残っていれば、だけど。
ちょっとだけ本来の世界に戻ることを惜しみながら、さらに歩みを進めていく。
「今日のほくろは三章のプロットを終えたらしいよー」
虹が消えた頃には、未来はまたおかしくなっていた。
「プロットって?」
「私たちが今後どう動くかを紙に書き出してたんだって。思った以上に膨大な量になってクラクラして、現実逃避のためにTwitterで公開してたらしいよ」
「……内容を?」
「ううん、厚みを」
「ほら」と、『さんれんぼくろ』というユーザーのアカウントから写真を見せられる。
この三センチもある紙の山が、プロット。
「頭痛くなってきたわ……」
「なでなでしたら治る?」
「治らない……でもお願いします」
こんな時くらいはいいかと甘えてみる。
よしよしと子どものように優しく頭をなでられた。
「あっ、凛ちゃん凛ちゃん。秀と加奈子だよ」
「げ」
ごめん。げ、なんて言ってごめん。そう心の中で謝りながら、凛子は進行方向にいる人物に目をこらす。
美しい海と、アニメ調の巻き貝が転がる砂浜。
そこにいる黒髪メガネのイケメンと、白いワンピースを着た愛らしい笑顔の女の子は──
「あははー、まてまて〜」
「うふふ〜、捕まえてごらんなさ〜い」
キャラ崩壊&追いかけっこの真っ最中だった。
「未来ちー。あの二人に声をかけるのはやめよう。全力でやめよう」
「そ、そうだね。今回ばかりは私も賛成かな」
肩から掛けた襷と、少女漫画に出てくるキラキラトーンを撒き散らす彼らを交互に見た未来は、諦める選択をしたようだ。
幸せそうな二人を置いて先を急ぐ。
彼らはきっと幸せだろう。
見ているこちらは鳥肌モノだけど。
【第3.1回 豆知識の彼女】
秀と阿部ちゃん、にっこにこ。
超絶笑顔で追いかけっこをしていたようです。
幸せだよきっと。特に阿部ちゃんが。
お読みいただきありがとうございました。
《次回 おうかがいします凪さん、りゅーちゃん!》
ちゃんと凪さんにも参加してもらいましょう!れっつごー師弟!!




