おうかがいします斎くん!
「ところで、凛ちゃんはほくろみたいにうじうじ悩んだりするの? ほくろの場合、最終的には『あーっ、もう無理ぃー!』ってなるみたいだけど」
「そりゃアタシだって人間だもん。悩んだり、迷うことだってあるよー」
「当たり前じゃん」と両手を後頭部で組みながら、凛子は最近の生活を思い浮かべる。
実家の長谷川薬店。店長の座を先代の爺やから受け継いで、そろそろ二ヶ月が経つ。
薬の配合をさせてほしいと願ったものの、まさか店の全てを任せられるとは思いもしなかった。
学業にマダー、そして店長。
嬉しいことは嬉しいし、誇らしいのだが……経営云々、悩みは尽きない。
「ちなみにそんな凛ちゃんの話を聞いている間に、現実では四ヶ月が経ったらしいですよ」
「まって、また話が飛んだよ。今度は何の話?」
「『更新日を要確認』とほくろから伝言を受け取りました」
「……どこに?」
「私の脳に」
あなたとその『ホクロ』とやらはどういう繋がりなんだ。いや、突っ込まない。自分は突っ込み担当ではないのだ。凛子はそう自分に言い聞かせる。
「第一話が2022/12/01、今回の話は2023/04/23だって」
「ちなみに間が空いたのは、最新話のアイデアがちゃんと降ってきたかららしいよ」と、未来は太陽に向けて片手を広げる。
すると空から飴が降ってきた。
雨ではない、飴だ。飴玉だ。虹色をした飴玉だ。
「飴飴うれしい、かあさんが〜♪ じゃっのめでおっむかえ、うーれしいな〜♩」
「……ねぇ未来ちー。アタシは何も突っ込まないよ」
童謡を歌って、最後に「アイデアの大雨〜」と言いながらバレエ選手のように回り始める彼女。補足するならば、とてつもなく音痴だった。
(碧カノ小説メタワールド……とか言ってたっけ。変なとこだな)
ここはわけのわからないことが起きて、凛子の大好きな彼女もまた変なのだ。
不思議現象と思うだけにする。
夢の中なのかもしれないし。
「てゆーかさ。その探してたアイデアっていうのは見つかったんでしょ? じゃあなんでアタシら出動してんの?」
「二章が終わって、今ね。『碧眼の彼女』を一から読み直してるらしいんだけど、さすがに一ヶ月ずっと書かないのはまずい、執筆の感度が鈍る。とか……」
また意味のわからない答えを、と凛子が悩む間もなく「ぶはっ」と吹き出したような笑い声が飛んできた。
「あー、谷川だ。やっほー」
向かう先で一人笑っている谷川斎へ、凛子は未来と一緒に手を振る。そこにいる斎はいつもの猫耳カチューシャ──『思考コピペくん』と名付けられた彼の手作りメカをつけていた。
「執筆の感度って、なにっ、んなもん持ち合わせてねーだろ? あの作者はさー」
「まあまあそう言わずに。ほくろも頑張ってるらしいから認めてあげようよー」
「ぶふふっ、頑張ってるのは食欲抑制の方だろ?」
「それには私も異論なし」
いぇーい! 彼らは仲良くハイタッチをする。
ああどうしたものか、どうやら斎もおかしい側らしい。この世界にまともな人はいないのか。
「んで、相沢がつけてんのは何?」
「ふふふ。聞いて驚いて、斎。『メタ発言でほくろを救おう』の襷だよ」
どやぁっ! 手作りの襷を持って、未来は斎に見せつけた。
……いやいや。あなたは何に対してドヤ顔をしているの? とは、突っ込まない。その代わりに、早く本来の突っ込み役が来てくれないかとソワソワした。
「斎にも聞いてみよう。碧カノ本編では『キューブ』と呼ばれる超最強武器を六歳という若さで作り出し、さらに二章の最後では新キューブも完成させた天才発明家、斎。もしやもしや、アイデアが降ってきて綺麗にカッコよーく纏まる脳を譲ってはいただけませんか?」
「ちょ、待て相沢! ネタバレ! まだ読んでない人に思いっきりネタバレしてるからッ!!」
「こんなわけのわからない不定期更新、見に来る人の方がまれだよ」
「メタ発言やめろwww」
「斎もwwwとか使ってるじゃん」と笑う未来。
そんな二人のやり取りを見るだけしかできない凛子はくたびれた。
ねぇ誰か。どうして「脳を譲って」に触れないのか聞いてよ。アタシは聞く気なんてもう起きないよ。それくらいしか頭に浮かばなかった。
【第2.1回 豆知識の彼女】
数ヶ月空くとほくろは後書きの存在を忘れるらしい。
追記しました。思いっきり忘れてました、2.1回です。
お読みいただきありがとうございました!
《次回 おうかがいします秀くん、阿部ちゃん!》
れっつごー、可愛いお二人のもとへ!