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バンバリッタ  作者: 曽偽小 幸絵
1/3

祭囃子

*******************************************************


 現時刻AM4:01


 大国は《《明け方》》に落ちる。


 朝方は寒く、とても冷え切っていた。

 これまでの寒さで少年の目は傷み、腕が痺れている。


「.....ハァ」

 ・

 ・・

 ・・・

 ・・・・


 —捨てろ。

 ——この国には要らん。


 ・・・・・

 ・・・

 ・・

 ・

 嗚呼、やっと、陽が昇る。

 白い息が陽射しに溶けた。


 *******************************************************


「おいエル!友達が来てるぞ!ジジイに!日の出前から!大声を出させるなあ!」

「うわっ!わかってるからちょっと待って!」

「もう、剣の手入れは済んでるぞー!」

「ありがとう!おじいちゃん!」

 お爺ちゃんのうるさい声を聞くのも暫くはお預けなのかと、一瞬動きが止まる。

 だけれど、悲しいという気持ちよりは今は高揚感に包まれているからと、また遠方に行く準備を始めた。


 だって今日から、友達ふたりとバンバリッタで一番の学校に、そして私は念願のお墓参りに行くのだから。

 お爺ちゃん、また5年後だね。


「おーい!エルー!馬車が来てるから急げー!」


 急かしているこの男の子は村一番のお調子者ビル。

 ビルの父親は村で《《唯一》》公務に従事しているお偉いさん。

 なのにビルは他の二人よりも一年遅く学校に通うことになったお馬鹿さんだ。


「私まだ村のみんなに挨拶してないよ...」

「メイルがもう馬車駅まで行ってるから別の日にしろ」

「別の日って、もう何年も帰れないんだよ?」

「...えっ、そうなの?」

「手紙読んでないの?」

「読んだけど、とりあえず馬車で読もうと思って...」

「...昨日あれだけ言ったのに」

 怒るな。

 小さい頃から不安定なエル達を支えてくれていたビル。

 此処ぞという時はちゃんとしているのだから。


 *******************************************************


 バンバリッタは広大な土地、そして誰からにも愛される王に恵まれ争いとは無縁な国。


 ただ広大が故に国の遠隔地はかなり寂れており、国民の半数は窮屈な生活を強いられている。都へ出稼ぎに行くにも時間とお金がかかってしまう。


 ここ、オリエント村は特に国との繋がりが薄く、バンバリッタに出掛けた者は4年以上居なかった。


 学科試験に合格して学徒になる子を輩出した村は国からいくつかの待遇を受けられるが

 学問だけで無く、国の威厳を守る力も必要とされる試験の為、生まれ持っての才武も大事とされる。力にも人それぞれ個性があり、《《彼岸花》》の蜜を頂き錬磨していく、それが国を守る力になるのだ。


 14歳以上の国民は、《《国立モルぺウス学院》》に合格することが目標であり、そうするしかなかった。


 *******************************************************


そして2人は走り馬車駅へと向かう。



「メイルごめん!お待たせ!」

「おう!向こうに着いたらコイツに飯でも奢らせようぜ」

「いいよ、お兄ちゃん」


——メイル

この娘は頭が良くて何でも卒なく熟せる。

重い前髪からでも分かる美人。

昔までお兄ちゃんと暮らしていたが、今は親戚に預けられている。

性格は基本的には内気的だが、変なとこで感情表現が大きなる。

2人はメイルのことが大好きだし心配だ。


——わあぁぁぁ!!揃ったぞぉ!!

———みんなで見送ろう!!

——————ビル!お前行っちまうのか!!早く帰ってこいよ!


「私たちって学校に行くだけだよね?」

あまりの歓声に少し引いている。

「俺のお父さんの時なんて出発する2日前から宴だったらしいから、これは静かな方だな」

「やっぱり、エルとお兄ちゃんは人気者だね」

「私への歓声はひとつも聞こえないんだけどね」

「おい、でもエルのお爺ちゃんが必死な形相で走ってくるぞ」

「うーん、私の見送りは無しかー」

がっくりと音が聞こえた。

「メイルの家族は昨日慌てて村から出てったらしいけど、帰ってきたの?」

エルはメイルの方を向いた。

「それが、帰ってこないの。朝までには来ると思ったんだけど。」

少し悲しげな表情をみせる。

「俺たちと一緒のお陰で寂しい思いしなくてすんだな!わっはっはー」

ビルは満足そうに言った。

「うん!」


時間は経ち

日が昇り始める。


出発の時だ。


派遣されてきた馬車守りの所に

漆黒の馬が現れた。




「この村を豊かにするのじゃ!エルよ!燃えよエル!」

「お前たちが希望だぞ!」

「ルル姉ちゃんに会ったらまた遊ぼうって伝えてー!」

「ビル、お父さんに会ったら手紙頂戴ね」


 寂れた村に5年ぶりの活気。

 老人はこれからの子供たちを想い喜ぶ。

 主婦は家事を止め、3人の見送りに。

 あまりの歓声に子供たちは祭りだと勘違いした。


 合格者の3人はこの村の《《希望》》なのだ。

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