Part11 24.5日
これは持論だが……最近のクリスマスというものはイヴが本番みたいな節がある。『最近の』と言ってもまだ十数年しか生きてはいないのだが。辺りは電飾だらけで、普段のような静けさは無くなっていた。それはこのいつもの公園も例外ではない。LED電球が赤、青、白と、同じ順序で点滅している。
今日、クリスマスイヴの真夜中、彼女に気持ちを伝えようと思う。彼女を好きな気持ちを。いつかの自問の答えはもう変わった。寒さは感じず、むしろ身体中を激しく血が巡って熱いくらいなのに、手が震える。少し、怖くなった。
煙草をつまみ上げ、ポケットから慣れない手つきでシルバーのライターを取り出す。手からライターが滑り落ちそうになり、焦って身体が強ばる。煙草が少し、折れ曲がった。呼吸のリズムが乱れる。まるで息の仕方さえ忘れてしまったように。ライターのキャップを親指で弾く。恐る恐るホイールを回す。火花が散る。だが、火がつかない。何度回しても火が灯ることは無かった。
落胆しながらジッポライターを仕舞い、代わりにいつものライターを取り出す。こっちは簡単に火がついた。やっとの思いで口にした煙草は……味がしなかった。
「今晩は、虚巣君」
彼女の声がした。毎晩聞いているはずなのに今日は何だか……恐ろしいもののように感じた。
「今晩は、涼芽さん」
背中に汗が滲む。どうせ煙草でその匂いはかき消されるだろうが、少しだけ気になった。
結局、クリスマスプレゼントは用意出来なかった。どんなものがいいのか最後まで分からなかったし、もし振られたらそれは無駄になってしまうだろうから。
「クリスマス……ですね。電飾とか、至る所にあって……」
「そうだね。ちょっと目がチカチカするよ」
「眩しいですよね。夜中くらいは消したっていいのに」
いつもの雑談。いつもと違うのは、少し離れた場所の電飾が彼女の顔をそっと照らしていることだ。僕はあの灯りたちを鬱陶しそうにしているが、どこかで感謝していたりもする。あれのおかげで気分は少し上を向き、彼女の顔もよく見える。告白することの……背中を押してくれている気もする。
今夜だけはこの滑り台も、浮かれたようにカラフルな輝きを放っている。手摺の塗装の剥げた部分が錆びて茶色く、木の幹のようで、余計クリスマスツリーに見えた。
「あ、そうだ! プレゼントね。ちょっと待ってね……」
彼女はコートのポケットを一つずつ確認していく。左の内ポケットに手が触れた時彼女はニヤッと笑った。
「はい! これがプレゼント!」
僕は白い小さな袋を手渡された。それを受け取り、袋の上から中身を確かめるように触る。何か……円柱状の……なんだろうか。
「開けてみていいですか?」
「うん。見てみて」
袋の口はテープで留まっていた。少し力を入れて剥がしたので、袋が伸びて、ふやけたようになってしまった。
袋に指を入れ、円柱をつまみ上げる。シルバーの……やっぱり円柱だ。上にはカラビナが付いている。
「えっと……これ、なんですか?」
「ちょっと貸して」
それを彼女に渡すと、カラビナのある方をペットボトルのように回した。するとそれは二つに分かれ、蓋のようなものと、中身が空洞の円柱になった。
「これは携帯灰皿だよ」
「あぁ! なるほど。へぇ〜」
彼女は嬉しそうにそれらを僕に返した。
「この前、いつもお店の灰皿に捨ててるって言ってたでしょ? それじゃ面倒だろうと思ってさ。これならある程度溜めておけるからね」
「ありがとうございます! あの……大切にします!」
「フフっ、こちらこそありがとね」
そう笑うと、彼女は少し視線を落とした。彼女が何を考えているのか、僕にはそのほとんどが分からない。けど……彼女には僕の心の中を見透かされている気がする。少し……ずるいと思った。
ふと気がつくと、彼女の唇が僕の唇を塞いでいた。まるでゆっくり……ゆっくり近付いてきたかのような、気が付いた時にはもうそこに居たかのような、そんな感覚。
僕達は……いつからキスをしていたのだろうか。三秒前? 十秒前? それとも、もっと長い時間だろうか。後ろから肩を叩かれて、「もう三十分はそうしてるよ」と、見ず知らずの人に言われても驚かない程には頭が回らない。また耳鳴りがする。今までで一番酷く、頭痛までしてきた。
これまたいつの間にか、唇が離れていた。ずっと考えがまとまらない中、急に意識が引き戻された。視界に鮮やかさが戻ってきた。夜の何重にも重なる闇、次々と色を変える街灯、彼女の明るい髪色に白い肌、薄赤い唇、そして……憂いを帯びた、黒くても透き通るような美しい瞳。
僕は、こんなにも美しい人とキスしたのか。あまりに、現実味がなかった。彼女の静かな笑顔もまた、切なさで溢れていた。
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