Part10 ライター
家に着くと真っ先に押し入れに向かった。勢いよく戸を開け、ダンボールを引きずり出す。明るい気持ちでこの箱を見るのは初めてだ。中の小箱の山を掻き分けていく。すると、少し錆びた小さな鍵がぼやけた光を放っていた。
「あった……。多分これだ」
後に着いてきた母が、僕の肩越しに箱の中を覗き込む。
「ほんとだ。全然知らなかった」
それを右手ですくい上げる。大きさの割に重いそれは、表面が錆でざらついている。
強く握り込み書斎へ向かう。母がこまめに掃除はしているが、父が使った時のまま放置されている。彼の机に向かって作業している様子が容易に想像出来た。机の上の、丁度紙が積み上がっている場所の下に鍵穴の付いた引き出しがあった。
恐る恐る鍵を近づけていく。少し、手が震えた。引っかかりながらも確実に進んでゆく。そして、遂に奥までたどり着いた。左に捻る。鍵の開く音。素早く鍵を引き抜く。取っ手に指をかけ、ゆっくりと引く。木の擦れる音と共に、中で何かがカタカタと鳴っている。そして、引き出しが開ききった。中にはシルバーの箱のようなものが横たわっている。
「これ……は……ライター?」
「あぁ、これお父さんが使ってたライターだよ! 確か……ジッポライターって言うんだっけ」
手に取ってみる。ずっしりと重く、ひんやりと冷たい。長年使ってきたかのように、不思議と良く手に馴染む。装飾として、斜線が二本、平行に彫られている。蓋を親指で押し開ける。カシャっという金属の擦れる小さな乾いた音がした。
「こんなものがプレゼントなんてね。まだ煙草吸えないのに……」
「いや、嬉しいよ。大切にする」
ライターの蓋を閉じた。甲高い音が響く。母がじっと見つめてきた。
「ん? どうしたの?」
「あ、いや、何でもないよ。ただ……本当に嬉しそうだから、良かったって思って」
そんなに分かりやすかっただろうか。確かに嬉しいのは合っているのだが……。左手で頬を撫でる。
使えるのかは分からないが、今夜このライターも持っていこう。これで火が着けられたらどんな気持ちがするのだろう。父が使っていた、このライターで。
コートのポケットにライターを突っ込み、ハンガーラックに掛けた。今度はズボンのポケットに手を入れ、スマホを取り出す。LINEの通知が何件か来ていた。ファミレスを出てからマナーモードにしていたので気が付かなかった。LINEを開いてみると、相手は高樹だった。内容は……
『年明けとかどうだ? 3日とか、予定無ければ連絡してくれ』
一瞬なんの事か分からなかったが、すぐに遊びの誘いだと気が付いた。スマホのカレンダーを確認する。予定はなかった。
『夜中とかじゃなければ大丈夫だ』
無いとは思うが一応夜中ではないことを確認しておく。送信するとすぐに既読がついた。
『おっけ。夜中ってことはないがw』
そりゃそうだろうな。だから、一応だ。
『門限か?』
『まぁ、そんなもんだ』
『じゃあ3日に決定で。細かい時間はもっと近くなってから決めよう』
スマホの画面を消す。小さく息を吐き、そっと、また左手で頬を触る。
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