Part1 今晩は、永遠
世界中が敵に回っても、僕が君を守るだの愛するだのって言葉がある。が、こんなことを最初に言った人はちゃんと分かっているのだろうか。敵になるのは世界じゃない。
君か僕、或いは両方だ。そう……だから……
半年前……と言っていいのだろうか
午前二時二十分。いつも通りそっとドアを押す。単に夜中であるせいなのか、あるいは昼の雨のせいかは分からなかったが、ノブは掌に刺さるように冷えていた。
音を抑えながらドアを閉じ、鍵を閉め、背を向ける。団地の五階からの景色は悪くない。正面にそびえる白く塗られたコンクリートの直方体は、三つ連なりドミノのようになっている。あの三つに住む人々からはこっちの様子が見えるのだろうか。そんなくだらない疑問は、細く吐き出し白くなった息と共に溶けていった。
うん、今日もいい世界だ。
カンカンと高い音を出しながら階段を下っていく。足を滑らせた時の不安はあるがポケットに手を入れ、小さな箱を握る。七本……
地上に降り立ち、これまたいつも通りの道を行く。真っ黒なコンクリートの隙間に染みた雨水が街灯に照らされ、ひび割れたガラスの上を歩いているようだった。最近ずっとこうしているが……雨は初めてか。
雨は好きだ。その音は心地よく、香りは安らぎを与え、水は他の存在の痕跡を消し去っていく。雨は自分勝手に僕を癒してくれる。
数分歩いたところで、公園に到着した。周りを緑の鉄柵に囲まれ、その内側には背の低い木が並ぶ。遊具はブランコが二つに小さめの砂場、そして高さ三メートル程の滑り台が一つ。それは静かに、シンプルに、離れた街灯の灯りを弱々しく拾い集め、送り返している。
段差の低い階段をひとつ飛ばしで登っていく。頂上に着いた時、いつも初めて来たかのような感覚を味わう。何度来ても初めてなのだ。一度だって同じ景色は広がっていない。暫く辺りを見回し、深呼吸を二度繰り返す。ポケットに手を入れ煙草とライターを取り出す。
初めて吸ったのは一年前、高一の冬頃。父親が煙草を箱買いしたはいいものの、禁煙の為に、ダンボールごと押し入れに仕舞われていた。それを見つけた時は驚きこそすれ、丁度いいとも思った。それから半年程して一日一本吸うようになった。きっかけは……無くはないが思い出したくはない。そして一ヶ月前の十二月、夜中一人、ここで吸うようになった。
口にくわえ、火をつけ、吸いこむ。吐いた煙は徐々に薄く伸びていき、そして今、闇に溶けた。まるで身体と空間の壁が無くなったような、全てが陸続きであるような感覚。
この夜は僕の、僕だけのものだ。
独占? いや、きっとこれは孤独だ。ため息混じりに再び煙を吐く。悪くない。一人は気楽で、静かで、安心出来る。もう少しで今日が終わる。いや、日付はとうに変わってはいるが。これが燃え尽きれば家に帰り、ベッドに入る。朝起きて高校に行って……。ゆっくりと気分は落ちていく。このまま煙とともに夜の闇と混ざり合えたら……
「今晩は、少年」
「……え?」
全身に嫌な寒気が走った。不意に聞こえた女の声はもう何処かに流れていき、耳には残っていない。ぼんやりと闇に浮かぶその姿に、夜よりも深く、昏い“ヤミ”を見た。
Part2は本日夕方頃投稿致します!
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