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君に、最大公約数のテンプレを ――『鑑定』と『収納』だけで異世界を生き抜く!――  作者: eggy


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118/143

118 放り込んでみた

 翌朝。

 見習い組の出勤を見送り、残る者たちに継続製産をしているものの世話を託し。打ち合わせをしていると、三人が訪ねてきた。

 ジョウとレオナを紹介しようかと思ったが、サスキアが難色を示した。どうも遠方からの来訪者には警戒することにしているらしい。

 ということでそのまま一人で迎えに出て、昨日同様連れ立って西門を目指すことにする。

 前日よりいっそう弾むような足どりで、ジョウが話しかけてきた。


「今日はまたあの森で狩りを試して、問題なければ明日以降、トーシャパイセンが山の方に連れていってくれることになったす。そろそろ魔物が近づいてきてないか、調査すね」

「衛兵に聞いた話じゃ、南西のバルリング伯爵領の山中で異様にでかいオオカミの目撃情報があるってことだ。例のオオカミ魔物かもしれないからな。ここの近辺に異状がなければ、こいつらを連れて近いうち、そっちに向かってみようと思う」

「そうか」


 トーシャの説明に、頷き返す。

 聞きながら、二人はほとんど目を輝かせる表情で、わくわくを抑えられない様子になっている。

 両拳を握る仕草で、レオナがこちらの顔を覗き込んできた。


「ねえねえ、やっぱハックパイセンも一緒しませんかあ。もしかして見たことのない魔物に遭えるかもしんないしい、楽しみじゃないっすか」

「僕は進んで魔物退治したい気はないし、ここでやることがあるからね」

「ええーー」

「ハックパイセンの『収納』、頼りになると思うんすけどねえ」

「とりあえず旅の必需品を携行するだけなら、トーシャので十分だろう。それに魔物を仕留めたとしても、その運搬には『収納』を使わない方がいいぞ。領の兵とかに説明しにくくなる」

「バアッと能力公開して、自慢すればいいと思うすけどねえ。パイセンのなら、商人とかから引っ張りだこじゃないすか」

「ご免だね。絶対、碌なことにならない。君たちのも、他人に明かさないことを勧めるよ」

「そうすかあ」


 ジョウは軽く口を尖らせて、納得できない様子になっている。

 不満げな二人と、「仕方ねえ奴らだ」とばかり苦笑いのトーシャ。

 何とも不協和音ふうながら、連れ立って郊外向きの道を歩く。

 そうして西門に着き、門番に会釈して通り抜けようとすると。衛兵の一人が声をかけてきた。


「おお、トーシャ。お前を見かけたら呼んでくるようにと、中隊長に言われていたんだ」

「そうなのか?」

「こないだの見回り業務の報酬で確認したい、急ぎだが手間はとらせないってことだ。そこの詰所まできてくれんか」

「分かった」頷いて、剣士はこちらに向き直る。「そういうことなんで、お前ら先に行っていてくれるか」

「了解」


 頷き返し、三人で街の外に出た。

 今日も天気はよく、前日と同様山や森の緑が映えている。

 心なしか、地面の泥濘ぬかるみは減ってきているかもしれない。

 完全防水、泥汚れなども残らないという革ブーツ着用の二人はどんな地面も気にせず歩いているが、平民仕様の毛皮靴しかないこちらはできるだけ泥濘を避けての歩行になる。

 少し先を歩く形になった二人が木立を迂回して前日の河原の方に向かうのを、少し足を速めて追った。


「河原へ行くのか? そっちだと、あまりノウサギは現れないぞ」

「ああ、まず魔法の練習だけしたい、す」

「そうなのかい」


 ジョウの返答に頷き、好きにさせることにした。

 今日は特別私用はなく、彼らの補助が目的の外出だ。

 大きな泥濘を避けて進むうち遅れることになり、昨日話し合いをした岩の並び付近に到着している二人に、近寄っていく。

 短く話していたジョウが、こちらに顔を向けた。


「ハックパイセン、やっぱこれからも一緒に来てくれませんか」

「いや、さっきも言っただろう。僕は付き合えないよ」

「そんな、もったいないしい。ハックパイセンがいたら物の運搬に不自由しないし、商人とかに売り込めば絶対大儲けできるからあ」


 レオナも両拳を胸の前に合わせて、懇願の形を作ってくる。

 溜息をついて、しかし首を振るしかない。


「それはできないって、言っただろう。絶対、碌なことにならない」

「だって、だってえ――」

「すんませんパイセン、ちょっと相談させてもらえる、すか」


 軽く会釈して、ジョウはレオナの肩を押した。

 二人でこちらから二十メートルほどの距離をとり、言葉を交わす。

 それでも意外に会話は短く、すぐに揃って向き直った。


「やっぱ、一緒に来てほしい、す」

「いくら頼まれても、それは聞けないよ。諦めてくれ」

「いや、もう頼んでるんじゃないしい」

「要求なんす、パイセン」

「何?」

「言う通りにしてくんないと、ただじゃ済まないし」

「分かってるすか、パイセン。この距離、俺らの射程内、す」

「何だって?」


 確かに、二十メートルほどの間隔。彼らの魔法は精度の高い命中を見込める射程で、反面、ふつうだと『収納』からの取り出しは届かない。


「手荒なことはしたくないすけど、要求が聞かれないなら、痛い目に遭ってもらうす」

「ファイアボールやウォーターアローだって、すぐには致命傷にならないけど、三発も食らったらオオカミだって気絶するしい」

「危ない玩具おもちゃを人に向けて悪戯してはいけませんって、学校で習わなかったか?」

「そんなの、知んないしい」

「もう一度、言うす。言うこと聞いてほしい、す」

「口だけの脅しじゃないんだからあ」

「ご免だね」

「手加減しないし、場合によったら、パイセンの大事な人にも害が及ぶかもしんないすよ」

「何だと――」


 一歩、足を踏み出す。

 と。

 やや慌て気味に、二人は早口で詠唱を始めていた。


「偉大なる水の霊よ! 鋭利なやじりにて敵を穿うがて!」

に炎の加護あらん! ここに輝き燃える力となれ!」


 もう一歩、前進すると。


水矢ウォーターアロー!」


 レオナの手の先から、細長い水が放たれた。

 高速の勢いで、接近。

 しかし、顔の前五十センチ付近で消滅する。


「え?」

火球ファイアボール!」


 続けて、ジョウの手から炎の固まりが放たれた。

 真っ赤に燃え盛り、勢いよく近づき。

 やはり、顔の前五十センチ付近で跡形もなく消える。


「え?」

「ええーー?」


 もちろん、『収納バリア』の効果だが。正面から見ていた二人の目に、どう映ったものだろうか。

 共に訳分からない表情で、しかし気を取り直したように再び詠唱に戻っていた。


「………………、水矢ウォーターアロー!」

「………………、火球ファイアボール!」

「………………、水矢ウォーターアロー!」

「………………、火球ファイアボール!」

「………………、水矢ウォーターアロー!」

「………………、火球ファイアボール!」


 続けざまに水色と赤色が放たれ、近づき。

 顔の前で、消える。


「そんな……嘘お」

「パイセン、騙していた、すか? 防御魔法を使える?」

「さあね」


 そのまま歩を進めていくと。

 恐慌に陥ったように、二人は早口の詠唱を続けていた。


「近づかないでえ! 勇猛たる風の神に請う! 尖鋭なやいばにて総てを切り刻め! 風刃ウインドエッジ!」


 この攻撃は、それでもまだ牽制の意味だったらしい。顔の横数十センチの辺りに、ビュン、と空気を切り裂く音が走り抜けた。


朧朧ろうろうたる神よ! 我が声に答え、母なる大地より天をけ! 土槍アースランサー!」


 進行方向一メートル程度先の地面に、細い槍が突き出した。

 それに構わず、足を進める。

 攻撃者との距離、十七~八メートルといったところか。


「遠慮しないで、当てにきてもいいぞ」

「ひいいーー」

「………………、土槍アースランサー!」


 今度の槍は、こちらの足元近くに定めたようだ。

 しかし『収納バリア』は下方にも向けられている。足元地面の土が盛り上がりかけた途端、それはすぐに消滅して何の変化も見せない。


「え、え?」

「………………、風刃ウインドエッジ!」


 こちらも、今度の風は顔正面に向けられたようだ。

 しかしやはり途中で消滅し、何の効果も届かない。


「何? 何でえ?」

「そんな――」

「………………、風刃ウインドエッジ! ………………、風刃ウインドエッジ! ………………、風刃ウインドエッジ!」

「………………、土槍アースランサー! ………………、土槍アースランサー! ………………、土槍アースランサー!」


 自棄を起こしたような連発が続くが。当然、何も届かない。


「………………、風刃ウインドエッジ! ………………、風刃ウインドエッジ! ………………、風刃ウインドエッジ!」

「………………、土槍アースランサー! ………………、土槍アースランサー! ………………、土槍アースランサー!」

「………………、風刃ウインドエッジ! ………………、風刃ウインドエッジ! ………………、風刃ウインドエッジ!」

「………………、土槍アースランサー! ………………、土槍アースランサー! ………………、土槍アースランサー!」


 ゆっくり、足を進め。距離、十五メートルを切ったかというところ。

 続けて『取り出し』操作をした。空気紐をつけた、前世のガチャボール程度の水の球を。


「勇猛たる風のか」


 で大きく開いた、レオナの口の奥へ。


朧朧ろうろうたるか」


 で開いた、ジョウの口の奥へ。


「グワ――ガボ――」

「ギャ――」


 慌てて口を両手で覆い。次の瞬間二人はさながら悶絶、地面をのたうち回ることになった。


「ウギャ――」

「ギャギャギャ――」


 涙を流し、鼻水を零し、口から水を吐きながらものたうちは止まらない。

 もう、原因の水を吐き出しても遅いはずだ。

 水の中に、しこたまアヒイの粉を溶かしておいたのだから。すでに口内中に広がって、粘膜を刺激し続けていることだろう。


「ギャヒイ――」

「ギャ――助け――ヒイイ――」


 涙と鼻水にまみれ、のたうち続ける。

 まあ、放っといても死ぬことはないだろう。

 格好つけた衣装にそぐわない、特に片方はうら若き少女として到底人目に曝せないザマだが。

 放っておいてそれらと距離をとり、手頃な岩に腰を下ろす。

『収納』していたコップを取り出して、ゆっくりアマサケ牛乳を喫することにした。



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― 新着の感想 ―
[良い点]  軽いノリだけど素直な子たちだなーと思ってたらトーシャの前で猫かぶってただけとは(^皿^;)そんな目ん玉ふし穴な金具素屯と違いいささかの油断も無かったハックくんお見事♪伊達にこの世界で理不…
[一言] 先月の感想でこいつらハックの事を「いい荷物持ち発見ww」とか考えてんじゃね?とか書きましたが…まさか正鵠を得てたとは。こういう当たって欲しくないのがわりかし当たりますよね人生って…。
[一言] ここで現実に殴り倒されるっていうのも、新入り二人にとってはありがたい事なんだよなあ。 いやしかし、なまじトーシャがいい人だっただけに落差が大きいなあ。
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