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ASP第……何回目配信だっけこれ? S.ヒノワ

 チームASP、配信2日目。


「今日の機体はT92! 防御用バリアフィールドの限界強度に挑戦するべく作り上げた防御試験機!」


『なんかバリアフィールドジェネレーターがオーバーヒートを起こして……あ、これ爆発しそ……んぎゃー!?』


《ヒノワちゃーん!?》


《ヒノワちゃーん!?》


《ムチャシヤガッテ……》


「あれぇ?」



 配信3日目。


「今日はT93! 限界を超えて重武装を施したEDAはどうなるのかを試してみましょう!」


『なんかちょっと歩いた時点で機体がミシミシ言ってるような……んぎゃー!?』


《ヒノワちゃーん!?》


《ヒノワちゃーん!?》


《ムチャシヤガッテ……》


「あれぇ?」



 4日目。


「本日のびっくりどっきりメカはー……T94! LDOは水中戦もあるゲーム! 深海に潜るのにどれくらいの防御性能があれば水圧に耐えられるのかを検証します!」


『現在水深はー……うわ!? なんか機体が潰れはじめ……んぎゃー!?』


《ヒノワちゃーん!?》


《ヒノワちゃーん!?》


《ムチャシヤガッテ……》


「あれぇ?――――――…………



 …………チームASPの設立から2週間が経過した。


 その日も、私とアルミラちゃんはいつもの荒野で配信開始。相変わらず砂色な空の下、カメラドローンへと笑顔を向ける。


「グッモーニン、ハロー、こんばんわ、ASプロジェクトのお時間です。お相手は私、みんなだいすき地獄ヘル博士ドクターアルミラさんと」


 ちらりと、アルミラちゃんがこちらに目配せ。それを合図に、私はちょっと頑張って声を出す。


「ヒノワ、です! こんばんわ!」


 だいぶしっかり挨拶できるようになった、気がする。現実の私では真似できない。


《こんちゃーっす》


《ひゃっはー! 新鮮なASPだァ!》


《おいすー》


「まあまあゆっくりしていきなさいな皆の衆。っちゅーわけで今日もやっていきますよ、試験機のテストをね! ヒノワ!」


 ぽいっと、アルミラちゃんが新しい試験機を投げ渡してきた。


 キャッチしたそれはT91と同様、フレームや内部のパーツが丸見えの機体。ただT91と比べると全体的に太っちょ、筋肉質って感じの印象を受ける。


 そして本体以上に特徴的なのは、その手に携えた射撃武器。長い銃身が目を引くガン――いや、大砲キャノンだ。


「火力実験機T99。私が自作した高出力ビーム兵器『ODキャノン』と、それを撃つためのENを賄うべく変換効率の良い高出力EMOリアクターを装備した常識はずれのハイパワーEDAです!」


《変換効率って?》


《機体にチャージされたイイネは、そのままだとただのポイントッス。EMOリアクターを通して電力や魔力のような『EN』に変換することで、はじめてEDAの力になるんスね》


《この時に重要になるのがEMOリアクターの変換効率ッス。これはそのEMOリアクターが1イイネからどれだけのENを生み出せるかの能力》


《例えば、変換効率10のEMOリアクターは1イイネから10ENを生み出せるッス。変換効率100なら1イイネから100のEN》


《変換効率が良い高出力なリアクターを使えば、少ないイイネからでも大量のENを確保できるってことッスね》


《じゃあとにかく変換効率の良いリアクターを搭載した方が有利ってこと?》


《基本的にはそうなるッス。ただし高出力なリアクターにはデメリットも多いんスよ》


《大型で機体の内装スペースを圧迫する、重量があって機体の機動性に悪影響を与える、発熱量が多くオーバーヒートを引き起こしやすい、購入修理に大量の資金や資源を要求されたり、そもそもレアパーツで入手困難~っと》


《なので場合によっては変換効率の悪いリアクターを使った方が良いという場合もあるんスね》


《エネルギー消費の少ない機体なら低出力のリアクターでも間に合うッス。大量のイイネを集められる人気プレイヤーなら1イイネあたりの変換効率にこだわらずとも十分なENを確保できるッス。その辺は自分の機体や人気と相談ッスね》


《なんか難しそうだなぁ》


《そこを試行錯誤してオリジナルの機体を作り上げるのが楽しいゲームなんスよ》


《アルちゃん博士みたく変な機体も作り放題!》


「変な機体たぁ失礼な」


「変かはともかく、よく爆発するよ?」


 今回、私に託されたEDAはT99である。


 この2週間で、私たちはT91からT98までのナンバリング試験機をテストしてきた。それぞれ異なるデータを取るため製作された個性の違う機体だったが、共通点がひとつだけ。


 全部最終的に爆発した。


 そのたびに配信は大盛りあがりだし、チャンネルの登録者数もどんどこ増える。なので爆発は悪いことばかりでもない、むしろ配信的には美味しいオチなのだが――私はじーっとアルミラちゃんを見つめて、ちょっぴり恨みを込めた言葉をぶつけた。


「……今回は、爆発しないと嬉しいな?」


「…………………………たぶんだいじょうぶ!」


「長い沈黙のあとのセリフで不安しかない!」


「それよりもテストしましょテスト。ほらほら乗って乗って」


「誤魔化されまくっているような!?」


 腑に落ちないとは思いつつ、会話だけで配信を引き伸ばせるほどトーク上手でもない。私はT99をライブモードにして、いつもどおりコクピットへと乗り込んだ。


「ヒノワ、機体の状態は?」


「コンディション、問題なし。いけるよ」


「オーケー、それならさっそくODキャノンの試し撃ちと行きましょう。適当にその辺を歩いているエネミーを探して、右腕の太くて長いヤツを撃ち込んでやってください」


 LDOでは、EDAの武装すらもプレイヤー自ら製作できる。今回の武装はメイドインアルミラのオリジナル武装。……嫌な予感がするなぁ。


《アル博士とうとうオリジナルの武装製作にまで手を出したか》


《絶対ろくなことにならんぜ!》


《なんか今回も爆発しそう》


「だまらっしゃい」


「あはは……それじゃ行ってくるね」


《いてらー》


《がんばれー》


《死ぬんじゃないぞ……》


「こいつらヒノワには露骨に甘くなってきてますね……」


《毎日のように爆発している姿を見てれば、そらそーもなるッスよ……》


 視聴者に不満顔で対応するアルミラちゃんをその場に残し、私はT99を空へと昇らせた。

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