日輪と深月
「臆せずに来ましたわね、チームASP!」
決闘を約束した日時、約束の場所で、ティファレトさんに出迎えられる。彼女に応じるのは、私の隣のアルミラちゃん。
「セフィラの阿呆鳥から逃げたとあっちゃ笑われてしまいますからね。……私たちに喧嘩を売った代償は高くつきますよ? ひひひ」
「ふふふ、減らず口を。それでこそと言っておいてさしあげますわ」
「きょ、今日はよろしくおねがいしまーす……」
火花を散らす2人に割り込むよう、控えめに挨拶をして。
《今日もヒノワちゃんは控えめだぜ》
《博士が畜生な分をカバーするひかえめっぷりがすーっときいてちょうど良い……》
《新型も完成させてきたそうッスからね。楽しみぃ~》
視聴者は相変わらずのコメントで反応してくれる。うん、いつもどおりだ。いつもどおりに戦える。
「さあ、私の配信を見る劣等種さんたちも待ちわびています! さっそくと始めましょう、いつか約束した決闘を!」
「受けて立ってやりますよ! ヒノワ!」
「ん! わかってるよアルミラちゃん! ライブスタート! 天鴉!」
ティファレトさんとの決闘が決まったあと、さらに改良を加えたEDA、大鴉あらため天鴉。そのコクピットに乗り込んで、私はコクピットモニター越しに敵の姿をにらみつける。
ティファレトさんのEDA、ミカエル。輝く翼のEDAは、挑発的な動作と共にセリフをぶつけてきた。
「新型のようですわね? しかしサイズは標準的。……まだあるはずです、あなたたちの象徴たる武装というものが!」
「当然です! 天鴉、武装転送! TAU4イーグルユニット!」
大鴉に引き続き搭載されている武装転送システム。起動させれば、新たに作った超大型武装が呼び出される。
それを纏った天鴉、その姿はさながら、
《鳥!?》
《でっけぇ鳥だな!》
《ナスカの地上絵にあんな感じのあった気がする》
視聴者の反応を、アルミラちゃんが肯定する。
「ひひひ! これぞ陸の蜘蛛型、海のクラゲ型に続きし空の鳥型超大型機! その名も――フレスヴェルグ!」
《フレスヴェルグ!》
《北欧神話に出てくるでけぇ鳥のバケモンだな!》
《空のってことは、まさか飛べるのか!?》
「ええ。以前はEN問題からオミットされた飛行能力ですが、いまは十分なイイネを確保できます。搭載しても問題なしと判断しました。ついでに超威力のビーム砲、ODキャノンも再実装! 機動力と火力は恐ろしいほどになりましたよ!」
こちらの巨体を前にして、ティファレトさんのミカエルはすこし気圧されているかのように一歩後ずさる。しかしすぐさま立て直し、拳法家みたいな構えをとって。
「なるほど、我が翼に挑むは巨大なる翼。悪くありません、良いですわね。それでこそ盛り上がるというものです! さあ来なさいなチームASP! 叩き潰して差し上げましょう!」
「負けません! 私を信じてくれているアルミラちゃんのために! 私が信じるアルミラちゃんのために! いくよ、フレスヴェルグ!」
★S.ミカ
妹と友人の戦いを見届けるべく、私は彼女たちの配信画面をじっと注視しています。
「あらまぁ、妹さんたちずいぶんでっかい鳥さん作ってきたなぁ」
「鳥型。親近感」
画面を後ろから覗き込むのは、こちらの世界で出来た友人、忌薔薇とマリィ。ふたりの感想に、私はどやっと答えます。
「私の妹ですからね! 飛行型すらも作ってみせるのです!」
「このシスコン。最近ちょっと妹自慢が鬱陶しい」
「まぁまぁマリィさん、病人には優しくせなアカンよ」
「誰が病人ですか……」
ともかく配信画面に視線を戻して。
アルミラたちの機体『フレスヴェルグ』は、その外見通りに空に昇ると同時、全身から無数の光弾を発射しました。ミサイルのように敵を追尾する光、ホーミングレーザー。
弾速は早く追尾性能も高い。ティファレトのミカエルのような、素早い敵を撃つに相応しい武装です。
『なかなか派手な武装を積んでいらっしゃいますわね! しかし! ヘリオスフィア!』
対しミカエルは防御フィールドを展開。ほとんどのレーザーを回避し、そのうえで避けきれないものはバリアで防ぐ。そしてそのまま敵に接近し、
『スピキュールフィンガー!』
必殺の格闘攻撃! しかしフレスヴェルグも、やはりバリア持ち。
『バリアフィールド展開! 跳ね返して!』
『ちっ! まずはバリアをどうにかしないと通りませんわね!』
得られるイイネ数は視聴者の多いティファレトが有利、しかしEN変換効率はレアなリアクターを2基も積んでいるヒノワさんたちに軍配。総合的なEN量は互角で、バリアの強度もほぼ互角。
こういう時、ティファレトならば、
「アレを使うやろなぁ」
「間違いなく。アレ」
「アレ、でしょうね」
私たちは同じことを思い浮かべます。
彼女が使うであろう、ミカエルの最強技のことを。
★S.バルバラ
アタシはアナ、それとタクト……あとなんか海王星以降に懐いてしまった三姉妹と共に、チームASPの決闘を見守っていた。
「同じくらいのバリア持ちたぁ、普通にやったら泥仕合になっちまうねぇ」
「こういう場合、私のデータではより多くの攻撃を当て、先に相手のENを枯渇させたほうが勝つよ」
「……も、もしかしてアルミラたち不利じゃないか!?」
「大きいと攻撃を避けられないものね……相手は素早いし……」
「相性最悪ですぅ……」
「がんばれ! ヒノちゃん!」
うちの娘は応援する姿もかわいいねぇ。……それはそれとして決闘の当事者たちも、バリアVSバリアの状況をどうすれば良いかわかっているらしい。
『バリアとて無敵ではありません! どれほど硬い壁であろうと、最終奥義で打ち砕くのみ! ミカエル、アウロラ・フェニックスモード!』
幻想的に輝くミカエル。右の拳にパワーを集め、真正面から突撃開始!
『天陽鳳凰流が最終奥義! 必殺必焼! 煌羽極光拳ッ!』
耐久を上回るほどの強力な一撃をぶつければ、バリアとて破壊可能。ティファレトはそれをかましにいった。
対するチームASPは、真正面から迎え撃つ!
怪鳥の頭部を向かってくるミカエルの方へと向け、
『アルミラちゃん! ODキャノンを使うよ!』
『使っちゃりなさいヒノワ!』
『ん! ODキャノン、ファイア!』
フレスヴェルグの頭がぱかっと割れたかと思えば、内側から姿を表す大型砲。集ったENを攻撃力に変えて、発射されるのは超威力の光線だ。
『ちぃっ!?』
光の柱がミカエルを飲み込む。炎のバリアをも溶かすような一撃が、ミカエルをじわじわと削っていく。
けれど、
『……この程度で燃え尽きるものですか!』
『うそっ!? 耐えきった!?』
光の照射が終わっても、輝く翼のEDAは健在だ。燃える拳に力を込めて、ミカエルはフレスヴェルグに必殺技を叩き込む!
★S.ケテル
ティファレトがセフィラに相応しい戦いを出来ているかどうか、見守っていた。
「ケテルちゃん、ティファレトどう?」
「イェソドか。たぶん勝ったよ」
人の尻を触ろうとしてくるヤツをひっぱたきつつ、ミカエルの必殺技が敵の超大型機を破壊したことを教えてやる。
「いてて。……そっかぁ、勝っちゃったか。負けてきたらメンタル弱ってるとこをいじめ倒そうと思ってたのになぁ~」
「相変わらず仲が良いなキミたちは」
「良くはないって。……あれ?」
イェソドが配信画面を見て首を傾げた。爆発しながら落下していく超大型機と、空で勝ち誇るミカエルの姿。
……いや、超大型機からなにかが飛び出した。
「私の時と同じだな」
そう、ASPの超大型機は、例えやられようと本体たるEDAを脱出させることで戦闘続行が可能。
『まだまだ! なんだから! 天鴉!』
『しぶとい! それでこそ! 受けて立ちますわよ、ミカエル!』
ビームソードを構えて飛翔する天鴉、拳を握って迎え撃つミカエル。二機の格闘戦がはじまると、光と火花が空で何度も弾けだす。
一進一退の攻防。それを繰り広げる二機の姿は、
「……楽しそうだねぇ」
「そうだな」
とても、楽しそうだった。
『このティファレトに近接戦で食い下がるとは!』
『超大型機でなくても! 誰より目立てなくなっても! アルミラちゃんの機体で負ける気はないんだ!』
『良い気合ですわ落とし甲斐があるッ! ミカエル、もう一度やりますわよ煌羽極光拳ッ!』
ミカエルが再び幻想的に輝いた。禁断の必殺技再使用。ENが枯渇してしまうだろう、それをやるより安定した戦い方もできるはずだが……まあティファレトだからな。
必ず勝てる地味な戦い方より、動画映えするリスキーで派手な勝利を選ぶ。それが彼女だ。
対する天鴉は、向かってくる必殺技を真正面から止めに行く。
『受けるよ、天鴉!』
避ければいいものを。相手のENが切れるまで逃げ切れば勝ちは決まるのに、そうしない。なぜならそれこそ配信的に映える戦い方だから。人々を楽しませられる戦い方だから。
勝利だけではなく、人を楽しませることも考えての戦いができる者たち。それでこそライブドライバーだよ。
「……彼女たちみたいな者がいるなら、この世界もしばらくは大丈夫そうだ」
「そうだね。まだまだ消えずに済みそうだよ。にゅふふ」
かくして2機は真正面から激突する。
爆発的な閃光のあと、空に残るは――黒のEDA、天鴉。
『この私を落とすとは……! やりますわね、やってくれますわねチームASP! しかして今度は負けませんわよォ――――ッ!』
バラバラになったミカエルは落下の途中で爆発四散。ティファレトの声は配信から消える。その勝敗を見届けてから、私は友へとメッセージを送った。
「……ミカか? 決闘、見たよ。すごいな、キミの妹が作った機体と、それを操る操縦者は――――」
★S.ヒノワ
勝利のあと、私はアルミラちゃんの隣へと戻る。
「ひひひ! ボスキャラなにするものぞって感じでしたねぇ! これが私たちの力です! ね、ヒノワ?」
「そうだね! ひひひ! ……視聴者さんたちもありがとうございました、イイネ」
《お役に立てたなら何よりよ》
《いい勝負、見せてもらったぜ!》
《これからも期待しとるからなー》
「存分に期待しておきなさいな! 明日からまたバンバン新型作ってきますからね! ……それでは今日はこのへんで配信終了です。ばーい」
「見てくださってありがとうございました! ばいばい」
《おっつー》
《またねー》
《おつわー》
《おつみらー》
カメラドローンも消えて、配信終了。ふたりきりになったところで、私はアルミラちゃんに問う。
「アルミラちゃん、今日のチャンネル登録者数は?」
「昨日とほぼ変わりませんね」
「そっか」
「……気になりますか?」
「このゲームでは重要な数字だからね。……でも、前ほどじゃないよ。人気者にはなりたいけれど、例え私が人気者になれなかったとしても、一緒にいてくれるって。アルミラちゃんがそう言ってくれたからね」
と、アルミラちゃんは頬を赤く染め、ばつが悪そうに頬をかく。
「……べ、別に配信のパートナーが不調なままじゃ困るってだけですからね! 今日のティファレトとの戦いもいつもの調子でようやくギリギリでしたし!」
「ん」
「だ、だからこれからもなにか不安とかあったら言うように! 相談くらいには乗ってやりますから!」
「ん。ありがと」
「……なんですかそのニヤニヤした顔は!? スプレーしますよ顔面に!?」
「それは困るなぁ。ひひひ」
「ああもうそのいじわるい笑い方をやめろー!?」
アルミラちゃんはぽかぽかと私を叩いてくる。ちょっぴり痛い。けれどそのじゃれあいもイヤじゃない。
人気者になりたい私は、仮想世界で最強クラスの人気者になれた。
そして、人気以上に大切な友達と出会うことができた。
普通で平凡でつまらない、そんな私だけれど――彼女がいるから、もう大丈夫だ。
「アルミラちゃん」
「なんです?」
「これからも、ずっと、よろしくね」
●天鴉
HP:5400 EN:400 装甲値:1050 運動性:115 移動力:7
特殊能力:EMOリアクター『炎陽』『氷輪』 武装転送システム
空:A 陸:A 海:B 宇:A 機体サイズ:M
操縦者:ヒノワ
●武装
・ハイパービームソード
攻撃力4500 射程1
・武装転送・連携攻撃
攻撃力5200 射程2~7
開発者コメント
「ヒノワの本名を知った時、この子の名前は『天照』にしようかと思ったんです。太陽の神、日輪そのものってことで。でもやめました。彼女に誰よりも輝く太陽であることなんて求めていません。それよりも、天を飛び回るカラスみたいに、自由で楽しく生きていてほしい。楽しそうに笑っていてほしいのでね。だから天鴉にしたんです。……こ、こっちの名前の方が大鴉の後継機っぽいってのが一番の理由ですけどね! って何をにやにや笑ってやがるんですかインタビュアー!?」
操縦者コメント
「ティファレトさんとの戦いに備えてさらに改良した私たちの機体。TAUユニットと合体すれば今までどおり超大型機にもなれますし、単体でも強いです。ひとまずこれが私たちの到達点。でもアルミラちゃんとなら、もっとすごいことできる気がします! なのでこれからもがんばりますよ! いままで応援ありがとうございました! 今後ともよろしくおねがいします! ひひひひひ!」
ヒノワ・アルミラ編・・・おしまい




