ASP第一回配信Mk3 S.ヒノワ
T91の爆発に巻き込まれて死亡した私は、復活地点から元の場所へと戻ると、ほんのり恨みのこもった瞳でアルミラちゃんをじーっと見つめた。
「……爆発、したんだけど?」
「……あっはっはー? ごめーんね!」
「謝り方が軽い!?」
「まあまあ、失敗を気に病むことはありません。ただ認めて次の糧にすればよい。それが大人の特権です」
《爆発した機体を作った側が言うセリフかなー?》
《まあアルミラさんだし……》
《博士だし……》
《基本的に畜生だし……》
「あっはっはー。……しかしまさか自壊するとは」
「げ、原因は?」
「あなたが戻ってくるまでにデータをチェックしました。機体を軽量化しすぎたせいで耐久性能が不足、あのとんでもねぇスピードの負荷に耐えられなかったようですねぇ。紙飛行機を音速で飛ばしたら速攻で潰れちゃうってことです。耐久性能を削りすぎると自壊の危険性がある、と。貴重なデータを得られました。次に活かしましょう」
「……次の機体は爆発しない?」
「技術の発展に犠牲はつきものデース」
「先行き不安!」
「ひひひ! さて、ヒノワのお披露目もしましたし、T91のデータも取れました。今日はここらで配信終了としましょうか」
《りょ》
《次の配信予定はー?》
「私が次の試験機を完成させたら、ですかね? もう9割くらい出来上がってるので、早ければ明日か明後日にでも。その時にまたお会いしましょう。バーイ」
カメラドローンに笑顔で手をふるアルミラちゃん。配信中は挨拶を忘れずに、そう言われていたことを思い出し、私も小さく手を振った。
「お、おつかれさまでした。さよなら!」
《おっつー》
《ヒノワちゃんもおっつー》
《オツカレー》
《マッタネー》
「あ、気が向いたらチャンネル登録よろしくおねがいしますねー、しないと呪殺する」
《怖っ》
《ひえぇ》
「ひひひ」
いじわるに笑ってから、アルミラちゃんがメニュー画面を操作して配信を終了させた。カメラドローンも光の粒子となって消えていき、おつかれさま。
ふたりきりになったところで、アルミラちゃんは嬉しそうに声を上げる。
「……おっ、今の配信で私たちのチャンネルの登録者数、50人ほど増えてますよ!」
「さっきので50人も?」
「アクセス解析によると私ひとりで配信していた時よりも全体的に好調ですねぇ。もっとも盛り上がったのはT91が爆発したあたりで、登録者数が増えたのもそのあたり。視聴者はおもしろいアクシデントが大好物ですから。アナタの爆死で登録者急増!」
「喜ぶべきなのかなそれ……」
「死んでもすぐ復活するプレイヤーの命ひとつで人気を得られるんですよ? お買い得! ひひひ!」
……ここで私が「アルミラちゃんも爆発してみたら?」って言ったら、彼女は「イヤですよおっかない」とか言うのだろう。
彼女のキャラを掴めてきた。その個性がうらやましいという嫉妬心は、胸の奥に沈めておく。
「ギルド作って初めての放送にしては上々の成果ですねぇ。やっぱソロより複数人の方が注目されやすいんでしょうか。なんにしろ、今後もこの調子でいきましょう」
「……あ、あの」
「なんです?」
「私、うまく出来てたかな? 配信……」
「機体操縦はなかなか、それ以外はまだまだですねぇ。トークもコメントへの対応も未熟!」
「うぅ……」
「しかし落ち込む必要はなし、配信技術なんて即座に上達するものではないのですから。やってるうちにだんだん良くなってくるはずです、気長にいきましょう」
「上達。……するかな?」
「しますとも。もしダメだったとしても、そん時は私がトーク担当でどうにかしちゃりますよ。役割分担ができるのも複数人でやる配信のよいところ。そのために組んだのですからね。……っと、もうこんな時間ですか」
現実時間を指し示す時計が、いつの間にやら夜の11時を指していた。
「私はそろそろ落ちますが、あなたはどうします?」
「少し機体操縦を練習してから落ちるよ」
「わかりました。それでは――っと、忘れるところだった。あなたにひとつ宿題です」
「宿題?」
「あなた、ロボットアニメには詳しくないんですよね?」
「あんまり」
「LDOはロボットでバトるゲーム。ゆえにロボオタな視聴者も多く、コメントでその手の話を振られることも多々あります。ロボットアニメに詳しければ、そういうコメントに反応しやすいでしょう?」
「確かに」
「なので今から私が教える作品を見ておいてください。ロボオタの初等教育みたいな作品群なので、知ってるだけで8割型のコメントには対応できるようになるはずです」
「amanzoプライムとか、アメーバTVとか、その辺の動画サイトで配信されてる?」
「されてます。月500円で見放題! っつーわけで、まず機動戦士ガ――――」
それから、ロボットアニメのタイトルを50作ほど伝えられた。バラエティ番組でも話題になるようなものから、初めて名を聞くちょっとマニアックな作品まで、色々。
1話25分、1作12話と考えて……?
「……ぜんぶ見るのに、だいぶ時間がかかるかも」
「焦ることなく自分のペースで視聴するように。嫌々ながらに見てロボットモノそのものを嫌いになったら意味ないですからね」
「ん、わかった」
「それじゃあ今度こそ私は落ちます、寝ます。あなたもほどほどで休むように。ばーい」
「またね」
今度こそ、アルミラちゃんは仮想世界をあとにした。私も少しゲームの練習をしてからからログアウト。また明日。
チームASPのフォロワー数・・・現在362人。
~今日のEDA~
●T91
HP:1800 EN:80
装甲値:120 運動性:200 移動力:11
特殊能力:EMOリアクター(小)
空:A 陸:B 海:D 宇:C 機体サイズ:M
操縦者:ヒノワ
●武装
・体当たり
攻撃力1800 射程1 EN消費10
開発者コメント
「私が作った91番目の試験機です。軽くて早いお手本のような軽量高機動機! コル◯ル! まあ軽量化しすぎたせいで空中分解しましたけど。ヅ◯! もっと詳しく解説するとベースにした機体はウォークファイター系EDAの中でも特に軽量なフラジャイル系列で――(めちゃくちゃ長くなったので省略」
操縦者コメント
「えっと、アルミラちゃんいわく戦闘力には期待しちゃダメなEDAだそうです。試験機なので。あと『よろしければブクマや評価よろしくね!』 だそうです。すいません……」